主人公・米田ゆい(橋本環奈)の母親である愛子は、夫のまさ(北村有起哉)が気づかない娘たちの心の内を見抜き、広い心で優しく見守る女性です。義母の佳代(宮崎美子)と共に家事をしながら、聖人が営む農業を支えています。実は元ヤンキーという過去があり、結を心配しすぎる聖人をピシャリといさめることも。

そんな愛子を演じるのは、今作が朝ドラ初出演となる麻生久美子さん。麻生さんが感じる愛子の魅力や、物語の見どころを聞きました。


愛子は信じる力の強い人。私だったら、もうちょっとだけ余計なことを言ってしまうと思います

――麻生さんが演じる愛子は、朝にピッタリの明るくてハツラツとしたキャラクターですね。

すごく魅力的な女性ですよね。愛子さんはすごく理解があるというか、どっしり構えていて、どこか達観しているようなお母さん。元ヤンキーで、若い頃にはいろいろ苦労もあった人だからこそ、子どもたちへの接し方には自分なりの思いがあるのかなと思っています。

子どもたちが心配じゃないわけではなくて、すごく信じる力の強い人なんじゃないでしょうか。私だったら、子どもにもうちょっとだけ余計なことを言ってしまうと思うんですけど(笑)。

――長女のあゆみ(仲里依紗)は家を出たまま帰らず、一方の結は青春真っただ中のはずなのに「平穏無事に過ごしたい」と言ったりします。そんな姉妹を愛子はどう思っているのでしょうか。

愛子はたぶん、結が何かを我慢していることを肌で感じてわかっていると思うので、無理に何かをさせようとか、導こうとか、そういうことはしないで、ただ待ってあげられる人なんじゃないかなって。

だから歩に対しても、自分も通ってきた道じゃないですけど、反抗しているとか、不良になったとか思っていないんですよね。歩なりの理由があってしていることだって分かっているから、今は見守っているんだと思います。

――麻生さんから見て、愛子に共感する部分はありますか?

愛子さんって、農業を手伝ったり、家のことをしたりしていますけど、自分のやりたいこともちゃんと持っていて。それを諦める人じゃないというか、自分というものがしっかりある人なんです。そういう部分は、私も共感しかないですね。

この先、愛子さんが新しいことを始めていくんですけど、やりたいことを諦めずに挑戦するところはすごくすてきだなと思います。親としては、私も子どものことを見守りながらできるだけ待ちたいと思って育ててはいるので、そこは共通しているのかなって。


撮影用のお料理が美味しすぎて、撮影前からみんなで食べちゃってます

――今回が朝ドラ初出演とのことですが、出演が決まった時はどんなお気持ちでしたか?

いつかは朝ドラに出たいという思いがあったので、すごくうれしかったんですけど、ちょっと信じられなくて。撮影が始まっても「本当に出るのかな?」って(笑)。若い頃は、ヒロインをやれたらいいなと思っていた頃もたぶんあったんです。でも、いつの間にか年齢を重ねて、初めて母親役でオファーをいただいて。

この年齢まで仕事を続けられてきたこととか、いろんな思いが頭を巡りました。それに、母親からも珍しく「おめでとう」って連絡が来て、やっぱり朝ドラの影響力ってすごいんだなと。

――朝ドラの現場では、他の撮影現場との違いを感じることもあるんでしょうか。

長いっていう(笑)。1年以上撮影をするという終わりが見えない感じが、怖くもあり、楽しみでもあります。それから、すごく朝ドラっぽいと思ったのが、食事のシーンを1日に何シーンもまとめて撮るんですよね。

でも、それが大変なのかなと思っていたら、全然つらくなくて。撮影用のお料理が美味おいしすぎて、みんなで撮影が始まる前から食べてしまって、「これは数があまりないので」とスタッフさんに言われたことも(笑)。食事のシーンは本当に楽しんでやらせていただいてます。

――「食」がドラマの大切なテーマとしてあるからか、家族での食事シーンも多いですよね。

そうなんです。個人的にも「食」がテーマになっていることがすごくうれしくて。私も日頃から、人間って食べている物からできているんだなとすごく感じているので。脚本の中にも、食を通して気持ちを伝える場面がたくさん出てきて、そこが素晴らしいなと思っています。

――「食」以外に、「平成」という時代を描くことも大きなテーマとなっています。結もギャルになるそうですが、その時代についてはどんな印象がありますか?

ギャルちゃんたちがたくさん登場するんですけど、みんないい子で、仲間思いなんです。そういうギャル魂みたいなものもすごくすてきだなって。私もその時代を生きていたのに、何でギャルをやらなかったんだろうって後悔してます(笑)。

今考えると、平成っていい時代だったなって思うんですよね。ドラマの中でも出てきますが、ポケベルが登場した時もすごくうれしかったんです。こんなふうに自分の気持ちを伝える手段があるんだって。

今は選択肢がありすぎて、逆にどんどん生きづらい世の中になってきている気もして。あの頃はちょうどバランスがいい時代だったんじゃないかなって思っています。


聖人を演じる北村有起哉さんは、聖人くらい“クソ真面目”な役者さん

――結を演じる橋本環奈さんとは初共演だそうですね。

そうなんです。それで、ちょっとびっくりしちゃって。というのも、あのお顔と小柄な感じから、私が勝手にかわいらしい女性を想像していて。実際の橋本さんはもちろんかわいらしいんですけど、しっかりしているし、笑い方も豪快だし、いつも楽しそうで本当にかっこいいんです。

現場でもいろんな方に気を遣えて、若いのに座長感がすごくあるというか。そのギャップがとっても魅力的だなって。それでいて撮影が始まると、すごく透明感のあるお芝居をされるんですよね。目を見ているだけで何を言いたいのかわかる、すてきなお芝居をされる方だと思っています。

――米田家の面々は、濃いキャラクターの方ばかりです。北村さんが演じる聖人との夫婦の雰囲気はいかがですか?

以前共演させていただいた時に、北村さんってこんな面白い方なんだって思って。すごく好きです(笑)。変に気を遣うことがなくて、一緒にいて居心地がよいというか。だから、北村さんが聖人役だと聞いた時、北村さんとならいい夫婦の関係を築けるかもしれないって思いました。

北村さんはすごく真面目で、ずっとお芝居のことを考えているんです。芝居に対する熱量がすごいので、一緒に演じていて楽しくて。同時に、私は北村さんほど考えてないかもってちょっと反省しちゃうくらい(笑)。聖人はクソまじめな役なのですが、北村さんも同じくらい“クソ真面目”な役者さんですね。

――愛子にとって、聖人はどんな存在なのでしょうか。

聖人さんに救われて今の愛子があるので、愛子は聖人さんにすごく感謝しているし、尊敬しているし、大切に感じているんです。でも、聖人さんを3人目の子どもみたいに思っているのかも(笑)。聖人さんってすぐに永吉さん(松平健)とケンカするし、しょうがないなーみたいな、かわいらしい部分もあるじゃないですか。だから、それも含めていとおしいと思って演じています。

――松平健さん演じる永吉と、宮崎美子さん演じる佳代。2人は愛子にとっては、夫の両親、つまり義理の父と母なのに、実の親子ではないかというぐらい遠慮がないのが楽しいです。

松平健さんはあまりにもかっこよすぎて、最初にお会いしたときにびっくりしました(笑)。こんなかっこいい人がいるのかぁと、しばらく見とれてしまいました。糸島ロケで松平さんが走るシーンがあったんですけど、かなりの距離を走ったのに、汗ひとつかかないんです! さすがスターです! 

そんな松平さんのイメージが影響してるのかもしれないんですけど、永吉さんってすごく愛嬌があるというか、ホラばっかりだけど憎めないキャラクターで。私はそのかわいらしさに聖人さんとの血のつながりを感じています。

そのおじいちゃんにツッコむ佳代さんもすごくすてきで。結構、バシッて叱ったりするんですよ。佳代さんに「はいはい」っていなされてる永吉さんの感じが本当に好きです。愛子さんもこの2人をとても大切に、自分の両親のように思っているんですよね。だからこそ、タメ口が出ちゃってるんだと思います。

――いよいよ放送が始まった「おむすび」の見どころを教えてください。

みなさんには、もう本当にお好きなように見ていただきたいです。でも、見るとすごく元気になってもらえると思うんです。心に栄養を届けられる、おばあちゃんのおむすびのような作品なので、楽しんでいただけたらうれしいですね。家族のシーンもすごくいい雰囲気で、永吉さんも面白いし、佳代さんのツッコミも最高なので!

そして、結や佳代さんが言う「食べり」っていうセリフがすごく好きなんです。つらいことがあっても美味しいものを食べると元気が出るからって、佳代さんがおむすびを渡すシーンがあって、それがとってもかわいくて!「食べり」を流行語大賞にしたいくらい(笑)。どんどん使っていきたいです。

【プロフィール】
あそう・くみこ
1978年6月17日生まれ。千葉県出身。'95年にデビューし、'98年公開の映画『カンゾー先生』で数々の映画賞を獲得する。その後もドラマ、映画、舞台と幅広く活躍。NHKの出演作は、2004年大河ドラマ「新選組!」、'10年の土曜ドラマ「チェイス~国税査察官~」、'16年のプレミアムドラマ「奇跡の人」、'19年の大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺~」など。'21、'22年には「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シリーズでは、漆原冴子役をコミカルに演じた。