主人公・米田ゆい(橋本環奈)が所属する書道部の先輩である風見亮介は、全国大会で何度も入賞を果たすほどの書道の腕前の持ち主。その端正なたたずまいと穏やかなオーラから、結の憧れの存在になるとともに、書道に馴染みのなかった結に書道の楽しさを教えていきます。書道のイメージを一新するような書家を志す一方、実は野球オタクという意外な一面も明らかになりました。

そんな風見を演じるのは、今作が朝ドラ初出演となる松本怜生さん。主人公の憧れの存在を演じることの難しさや、横断幕を書いたシーンの舞台裏について聞きました。


風見を演じて、人生で初めて「カッコよくいなければ」と気にしながら生きました(笑)

――松本さんが演じる風見は主人公の結が憧れる先輩という役どころですが、松本さんはどういう人物だと思って演じていますか?

優しくて、余裕があって、書道が上手くて、かっこいいっていう高校生ですね。一見、クールでミステリアスにも見えるんですけど、実は野球オタクだったり、佳代さん(宮崎美子)に教えてもらう野菜染めにテンションが上がったり、ちょっと天然な面もあって。

――とてもステキな先輩なので、結が憧れるのも無理はないなと思います。

そういう意味では、かなりプレッシャーがありました(笑)。誰が見てもキラキラしているキャラクターじゃないですか。ドラマを見る方たち全員に「この人はかっこいい」って思ってもらわないといけない。そうなると、まず見た目が重要だなと思って。でも、外見は今からではどうすることもできないので、表情で説得力を持たせられるように心がけました。

カッコつけすぎず、でも、ちょっとカッコつけてるぐらいの目力とか、話している時の表情とか、人生で初めて「カッコよくいなければ」と気にしながら生きた期間でした。ちゃんとかっこいい風見を演じられたか、自分としては心配な部分もあるので、見てくださった方の声を素直に受け止めたいと思っています(笑)。

――外見的なこと以外にも、風見を演じる上で難しかったところはありましたか?

風見ってすごく余裕があって優しいせいか、カッコいいというか、ちょっとキザなセリフが多いんです。だから、言い方を間違えると、ナルシストっぽく聞こえてしまう不安もあって。そこはプロデューサーさんと相談しながら、「風見なら、こんなセリフも自然に言うよね」って聞こえるように、表情や声を工夫しました。

――そういう意味で、特に難しかったセリフはありますか?

たくさんあるんですけど、初めて結が書道部に来た時に「書道の目的は字をうまく書くことだけやない。自分と向き合うこと」っていうセリフがあって。それを言った後に、結の目を見て、「俺が教えちゃあよ」って言うんです。そんなこと、言います!?(笑) 俺、何を言っているんだろうって、言ってる方がてれちゃって。でも、自分ならそう思うけど、風見なら何事もないようにスッと言えちゃうんですよね。

――そういうセリフもサラッと言えてしまう風見は、高校生とは思えないような落ち着きがありますが、なんでそんなに余裕があるのでしょうか。

風見は本当に誰よりも書道が好きで。僕も練習して思ったのは、書道で字を書いている時に何を考えるかっていうと、自分の心と対話しているんだと思うんです。風見は誰よりも自分の心と対話してきていて、自分の感情を繊細に分析できている。

悩んでいる時には、自分の心と向き合える環境を作ってあげればいいとわかっているから、他の人にも落ち着いてアドバイスができるんだと思います。悩んでいる人に、自分と向き合いなさいと強いるわけじゃなくて、向き合うことの手助けができる人なのかなって。


横断幕に文字を書く時は、白い布だけを見つめて魂を込めて書きました

――風見は書道の才能豊かな役ですが、松本さんご自身は書道の経験はあったんですか?

いいえ、小学生以来、筆を持ったこともなくて。撮影のために久しぶりに書道を練習したんですけど、全然上手く書けなくて、最初は挫折しそうでした。風見は全国トップレベルの腕前という設定なので……。大阪にいる先生が指導してくださったのですが、日帰りで大阪まで練習に行って、先生のアドバイスをメモして、それを東京に持ち帰って自分で復習してっていう繰り返しで。半紙も400枚くらい買って練習しました。

――野球部の応援のため、横断幕に「一致団結」と書くシーンは、風見のりんとしたたたずまいに目を奪われました。

今でも、我ながらよく頑張ったなと思うシーンですね。本当に貴重な経験をさせていただきました。大筆ってなかなか練習できる場所がないのですが、最初墨をつけずに大筆で一致団結と書く動きをしてみたら、後半は力が続かずに足が震えてしまって。これはしっかり練習しないといけないとダメだと思って、筆の持ち方や足の運び方を繰り返し繰り返し練習しました。

――あのシーンは一発撮りだったそうですが、本番は緊張されなかったと伺いました。

どれだけ練習しても、うまく書ける時もあれば、全然書けない時もあって。そんな確率だったので、本番は緊張しなかったというより、していられなかったというのが正直なところです。それに緊張していると、それが書く姿に出てしまうんじゃないかって思ったりもして。

撮影中は、周りにたくさんの人がいたのですが、それが視野に入らないくらい、白い布だけを見つめて、魂を込めて集中して書きました。

――ご自身で出来上がった横断幕を見ていかがでしたか?

初めて屋外で書いたせいもあったのかもしれないのですが、最後の「結」の文字を書き終わった時に、今までで一番うまく書けたって思えて。でも、書き終わった後も風見のままお芝居を続けるわけですから、クールに筆を預けて、「書けました」ってセリフを言いました。本当は「やった!」っていう気持ちだったんですけど。今までの練習をすべてぶつけたシーンでしたね。

――風見を演じられたことで、書道の魅力を感じられましたか?

書道を練習してみて、逆に、まだ書道について自分が何か言えるような立場ではないなと感じました。その手前までは経験できたのかなとは思うのですが、書道のことをわかった気にはなりたくないなって。ただ、風見にとっての書道のように、僕は日記を書くことで自分の心と向き合うようにしていて。と言っても、最近始めたばかりなんですけど(笑)。

日記を書いていると、自分の心にうそをついていたり、こうありたいという欲望を書いていたりすることに気づいて、自分の正直な気持ちに向き合えるんですよね。そういう向き合うことの大切さは学んだような気がします。


ハギャレンメンバーのギャルパワーがすごい! その姿に元気をもらっています

――主人公の結を演じる橋本環奈さんとの共演はいかがですか?

橋本さんは、本当にかっこいいんです。いつも堂々としていて、その姿に自然と周りがついていくような。お芝居も段取りもすべてにおいて、存在でリードしてくださる方なので、自分よりも小柄なはずなのに、お芝居でたいするとすごく大きな存在に感じます。自分の未熟さを思い知るというか。まさに座長ですね。

――今作では、橋本さん以外にも同年代のキャストが多かったと思うのですが、撮影中に印象に残っているエピソードはありますか?

糸島フェスティバルの撮影の時に、初めて生のパラパラを見て、なんかすごい!って感動しました。僕はそのシーンに出ていないんですけど、見学に行ったんです。そうしたら、このドラマの一番すごいシーンなんじゃないかって思うくらいの迫力で(笑)。

それを見ていたら、自分もパラパラを覚えたくなって、カメラには映らないところで、(陽太役の菅生)新樹くんと一緒に全力でパラパラを踊っていました。パラパラが現場にいるみんなを一つにしたというか、すごい一体感を感じた瞬間だったので、そのシーンはぜひ注目してほしいです。

――パラパラのパワーはすごいですね。そんなパラパラを踊るギャルに対するイメージも、撮影を通して変わりましたか?

今までギャルに対しては型通りのイメージしかなかったんですけど、実際に見るギャルは迫力が2、3倍違いました(笑)。なんか、元気になる嵐に巻き込まれている感じというか。だから、気がついたら一緒に踊っちゃってたっていう。

ハギャレンのメンバーを演じている皆さんも、見た目が人並み以上にキラキラしているっていうのはもちろんあるんですけど、その見た目に負けないくらいギャルになりきっていて。その姿を見たら、皆さんが元気の塊みたいに感じられて、こっちも元気をもらえました。

――これから、風見と結の関係性に変化はあるのでしょうか。

それは見てのお楽しみということで(笑)。でも、結やハギャレンといった濃いメンバーの中で、風見は風見で突出した部分がある異色なキャラクターなので、他の濃いキャラに押し負けないように立っていられたらいいなと思っています。

風見のイケメンぶりを楽しんでほしいなとは思いつつ、このドラマには、自分が好きなことにまっすぐ正直に、今を大切に生きるっていうメッセージがあると思っています。ギャルや風見が自分の好きなことにまっすぐ、ポジティブに生きている姿を見ていただきたいです。そして、視聴者の皆さんに勇気や前向きな気持ちを与えられたらうれしいですね。

【プロフィール】
まつもと・れお
2000年4月27日生まれ。愛媛県出身。'21年にデビュー。'22年に初めてのドラマ出演を果たすと、以降、ドラマ、CMなどで活躍。ドラマ出演作は、「パパとムスメの7日間」「君には届かない。」「下剋上球児」「降り積もれ孤独な死よ」など。NHKでは、BS時代劇「あきない世傳 金と銀」「正直不動産2」「柚木さんちの四兄弟。」などに出演。