Q「であうアート」プロジェクトの概要についてお聞かせください。
大橋 流通経済大学では2021年4月から大学の教育テーマの一つとして、「SDGsへの取り組み」を掲げています。それを受けて人間の幸せを考えることを教育・研究テーマにしている社会学部において「障がい者アート展」を学生が主体的に取り組む教育プロジェクトとして立ち上げることにしました。
この「障がい者アート展」は現在では「であうアート展」として実施されていますが、当初は「旅する絵のギャラリー」という企画名でスタートしていました。本学を出発点にして、他大学、他団体に障がい者アート展示のバトンをつなぎ、最終的には全国に広めていくことを目指していました。このプロジェクトには3本の柱、すなわち「障がい者との交流」、「地元の人との交流」、「学生の主体的な運営」を掲げていましたが、ご存じのようにこのコロナ禍ではこれら3本柱を図ることが困難となり、展示会を学生、障がい者、そして地域の人びととの出会いの場にしようと、プロジェクト名を「であうアート展」に変更しています。
Qこのプロジェクトは、学生にとってどのような学びの場になると考えていますか。
大橋 「障がい者アート展」の企画・開催を通して学生には、障がい者が描いた作品を鑑賞してもらうことは言うまでもありませんが、さらには「多様性」や「差異」といったことについても深く考えてもらいたいと思っています。
例えば、普通タコと言えば足が8本と思いますが、ある障がい者の方の作品では足が何十本も描かれています。それが、描いた人のタコなのです。つまり同じ物をみても「人によって、いろいろな見方ができるということ」をしっかりと認識し、そしてその差異を認め合うことを学んでほしいと思います。特に社会学部の学生にはこうした視点をぜひ学びとってほしいと思います。
Q「であうアート展」を通して、地域との連携も生まれているのでしょうか。
大橋 障がい者のアート展は、2018年に障がい者による文化芸術活動を促進する法律が施行され、公的機関がバックアップしていく流れが出てきました。障がい者にとって作品の創作は第二の言語とも言われており、その展示機会を提供することは非常に意義のあることだと思います。
学内だけにとどめるのではなく、地域にも広めようと、さまざまなところに働きかけをしました。市などの行政機関も積極的にPRしてくださり、また展示場所も提供していただき、かなりの連携がとれた活動ができました。そのおかげで去年10月に開催された本学での「であうアート展」にはおよそ800人の来場者があり、その多くは地域の方々でした。「年末には吹奏楽のコンサートに来ていますが、また「アート展」を来年も実施してください」とのお言葉をいただき大変うれしく思いました。地域に根ざした大学になってきたとの感じがいたしました。
Q 民間企業と連携するのは今回新しい試みだと思います。今回RICOH ART GALLERYで展示されることについて、どのように感じていますか。
大橋 「であうアート展」が今回リコー様の目にとまり、RICOH ART GALLERYで開催する運びになったこと、とてもうれしく思っております。「旅する絵のギャラリー」で目指していた、本学から他団体にバトンをつなげるという目的の一歩が達成できたことは、非常に喜ばしく、今後全国に広げていくために努力していきたいと思います。
Q 「であうアート」プロジェクトの今後の目標をお聞かせください。
大橋 現在、国が進めている「共生社会の実現」は非常に重要なテーマで、本学社会学部においても積極的に取り組むべき課題だと考えております。今回の「であうアート展」を通して、多様性や差異を認め合い、それを尊重し合う意識が全国に広がっていく。今回の企画展がその一助になればと考えております。
大阪府生まれ。慶応大学法学部卒業後、明治学院大学大学院社会学・社会福祉学研究科博士過程において都市・地域社会学を学ぶ。現在、流通経済大学社会学部長。地域社会における社会的支援のあり方を中心とした地域福祉論を専門としているが、“ニュータウン”の持続可能性について自治体と連携してその社会的課題解決に向けて実証的に取り組んでいる。著書に『都市化と福祉コミュニティ』、『世界の高齢者文化』(共著)、『現代社会の諸問題』(共著)などがある。
■開催期間
期間:開催中 - 2022年3月12日(土)
営業:12:00 - 19:00
会場:RICOH ART GALLERY LOUNGE (9階)
休廊日:日・月・祝
https://artgallery.ricoh.com/exhibitions/deauart