3/12(土)まで東京・銀座のRICOH ART GALLERYで開催している「であうアート」展。NHK「ハートネットTV」の「あがるアートをきっかけに、流通経済大学の教育プログラムの一環として立ち上がったこのプロジェクトは、今回初めて一般企業と協力をはかっています。今回の企画展に協力した、一般社団法人HANSAMのディレクター・木下真さんに、企業と障害者アートの関係性の変化について、ご寄稿いただきました。

ここ数年、企業と障害のあるアーティストたちとの関係が変化し始めている。かつて企業は、作品の展示会の後援を引き受けたり、展示スペースを提供したりして、社会貢献活動として障害者のアート活動を応援してきた。

しかし、最近は障害のある作家の作品に独自の価値を感じて、商品開発に活用したり、展示イベントを仕掛けたり、PR媒体に利用したりと、コラボレーションの方向へと転じている。

障害のある人たちに手を差し伸べて、自分たちの社会に招き入れる「支援のスタンス」ではなく、これまでにない関係を築き、新しい価値を社会に提供する「共生のスタンス」へと転換がはかられているのである。

障害者のアート作品は、古典的な美術の伝統や現代のアートの流行とは無縁であり、素朴で原初的な輝きを放つものが少なくない。テーマ性や技巧の巧拙などを超えて、私たちの心にストレートに訴えてくる力がある。そんな専門家だけに限定されない間口の広さが、幅広い人々への訴求を期待する企業ニーズと合致しているのかもしれない。

また、「VUCA*の時代」と言われる先を見通せない経済環境の中では、既存のものの捉え方とは異なる型破りな発想が求められる。美術の世界には、「デザインは答えであり、アートは問いだ」という言い方がある。ビジネスの世界では、はやりの感性を良しとするデザイン思考よりも、常識を逸脱するアート思考への注目が集まっているという。

一部の企業では、オンリーワンの創作物から刺激を得ようと、障害者のアート作品の鑑賞を、社員研修としてプログラムに組み込むところまで現れている。

障害者のアート活動の魅力は、それにかかわる人々の間にさまざまな変化のタネがまかれるところにある。そのタネに、どのようにの光を当て、どのような水や肥料を与えるのか。そして、どんな花を咲かせるのか。私たちの社会の課題でありながらも、未来への大きな楽しみでもある。

*VUCA…Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(あいまい性)という4つの単語の頭文字をとった言葉。

一般社団法人障がい者スポーツ・アート・ミュージック振興協会(HANSAM)ディレクター。福祉ジャーナリスト。NHKハートネットTVの「あがるアート」プロジェクトの番組リサーチやWeb記事を担当。障害者福祉に関心があり、障害のある子どもの発達、障害者雇用や障害者のアート活動に詳しい。1957年長崎県生まれ。日本子ども学会事務局長。