女将軍が率いる“パラレルワールド”を描くドラマ10「大奥」。これまで、八代将軍吉宗、三代将軍家光、五代将軍綱吉の物語が紡がれてきた。今回、ドラマ「大奥」の企画者である、岡本幸江プロデューサーに、ドラマ化に至った経緯、「大奥」の魅力、そしてドラマ化する上で大切にしている思いを聞いた。
――「大奥」ドラマ化に至った経緯を教えてください。
よしながふみさん原作の「大奥」をドラマ化したいと最初に提案したのは16年前になります。現在もそうですが、幅広い層にNHKを視聴していただくことが、大きな課題としてありました。その議論を広げるなかで、「仕事などを終え、家でくつろぐひとときに、じっくり落ち着いて楽しむドラマが、放送局問わず求められている」と感じたんです。そんな満足感を与えるドラマとして、私が、絶対これだ!と熱く語ったのが「大奥」でした。
当時は5~6巻くらいまでの発刊(全19巻)でしたが、その斬新な設定に衝撃を受け、そして描かれる人物たちの人間模様に、非常に心揺さぶられました。人間の本質に深くささる物語が繰り広げられていると。“男女逆転”というと、きわどい話にも受け止められますが、「純愛なんです!」と強く訴えた結果、じゃあやってみようという話になったんです。けれど、そのときにはすでに民放でのドラマ化が進んでいたので、残念ながら実現にいたりませんでした。
そして3年前、「ドラマ10」の編集長となりましたが、新型コロナウイルスの影響で、ドラマの制作が止まるなど、緊張感のある生活が長く続きました。ドラマを見る時間くらいは、日常のこまごまとした窮屈さを忘れたい気持ちが、個人的にありましたし、世間的にもあったように思います。
そこで、日常を忘れさせてくれるダイナミックな作りかつ、登場人物に共感できるような作品を放送したいと思い、ちょうど完結した「大奥」を、改めて最初から拝読しました。読み終えて、これは最初から最後までドラマ化させていただきたいと強く思ったんです。ダイナミックなつくりと、共感の高いストーリー両方を兼ね備えている「大奥」を今つくるべきだと。
——「大奥」からどんなメッセージを受け取ったのでしょうか?
読み始めた当初は、男女の立場を逆転させることで、男女の役割を見つめ直すといった側面を強く感じていました。ただ完結した作品を改めて読みますと、男だから、女だからというよりも、「血縁」で何かを維持していかなければいけないことに囚われることが、本当につらく、悲しく、不自由だということを感じました。血縁以外の絆で、社会を構成していかないと、その悲しみは無くならないのではないかと。
実際、血縁だけではない絆で、多くの人とつながっていますよね。そのことに私たちはおそらく救われていると思うんです。男女の役割というジェンダー問題のみならず、今生きる社会でどう助け合って生きていくかというところに、「大奥」は行きついています。
私は最後まで読んで、「世の中を乱世に戻すわけにはいけない」という先人たちの思いが、令和の私たちにも脈々と伝わっていることを確信できました。その思いが、この物語が最後に提示する大きな希望にもなっています。私がいま何かできることがあるなら、こういう形で命を燃やしたいと思わせてくれる、すごくスケールの大きな希望の話だというふうに受け取っています。
――今回、脚本を務められる森下佳子さんとは朝ドラ「ごちそうさん」、大河ドラマ「おんな城主 直虎」に続くタッグとなります。
そうですね。実は「大奥」ドラマ化への思いを押してくださったのが、森下さんなんです。「ドラマ10」の編集長になったとき、どんな作品が今求められているのか、森下さんに伺ったことがあるんです。すると、「今だったら『大奥』を見たいかな」とおっしゃって。森下さんも、よしながふみ作品のファンで、たくさん読み込んでおられました。原作ファン2人で相談しながら脚本を作り上げていく時間は、幸せでしたね。
その中でこだわったのは、登場人物が抱える困難や悲しみを大切に描くこと。そして、将軍家の人々の思いや志が、どのように受け継がれていったのか、その途中経過をしっかり描くことです。原作の内容をすべて入れこむことは難しいですが、例えば、吉宗が村瀬から過去の話を聞くパートをドラマでも描くことで、世が移り変わっても、その志や思いは受け継がれていくことをきちんと伝えようと。それが、この作品のメッセージだと私は感じていますから。ドラマでも、原作ラストの「大政奉還」まで描ききる予定です。
▼Season 2(第11回~)の詳細はこちら!
ドラマ10「大奥」Season2 2023年秋に放送決定! 「大政奉還」を初の映像化! | ステラnet (steranet.jp)
――冨永愛さん、堀田真由さん、仲里依紗さんがそれぞれ将軍役を好演されています。キャスティングで意識されたことはありますか?
徳川将軍を女性が演じるという、通常のドラマではありえないことなので、キャスティングするうえでも、新鮮さや新たな発見を生み出すものにしたいと考えました。パリのランウェイを歩く冨永愛さんも、将軍役を演じるとは思いもよらなかったとおっしゃっていましたが(笑)、今回ご一緒できて、とてもうれしく思います。
また、時代劇の印象がない仲里依紗さんを起用したり、柔らかい役を演じるイメージのある堀田真由さんに、少しサディスティックな役を演じてもらったりと、「この方にこういう面があったんだ!」と感じてもらえるようなキャスティングを心がけています。
そして、その将軍を支える人物たちを、斉藤由貴さん、貫地谷しほりさん、竜雷太さんなど、これまでのNHKの時代劇でもたくさんお世話になっている方に、演じていただきました。男女逆転世界へのリアリティー、心情の普遍性を与えてくださっています。
――完成映像を見て、感動したシーンはありますか?
たくさんあります。実際に俳優さんが演じられることで、新鮮に感じるシーンもいっぱいあるんです。子どものように泣く家光の悲しみ、家光への思いが募り、嫉妬に苦しむ有功、子どもを産むことだけを求められる綱吉の絶望など、人物の強い感情のひだのようなものが、迫ってくる感じがありますね。
――視聴者からの反響も現場に届いているかと思います。最後に、視聴者の方にメッセージをお願いします。
非常に人気の作品でファンの方も多く、どういうふうに受け止められるのか、放送前はドキドキしていました。ありがたいことに、たくさんの方に見ていただけて本当にうれしく思います。
「冨永愛さんの暴れん坊将軍がかっこいい」という声や、水野役を演じた中島裕翔くんの、清々しさの中にある悲しみの演技への評価も届いています。また、「人気のキャラクターだからすごく緊張した」と、有功役の福士蒼汰さんはおっしゃっていましたが、多くの方に共感しながら、見ていただけたのではないかと思います。
今回、戦国の匂いを残す時代から幕末までを一気に描いていきます。有名武将の一代記で終わらない、一人の人生が終わったあとも、脈々と受け継がれる思いを描く作品って、あまりないんです。人ではなく、社会全体を描く枠組みになっているからこそ、登場人物が変わろうとも、思いがどういう風に受け継がれていくかを明確にできるのがこのドラマの醍醐味。引き続き丁寧に大切に描いていきます。