主人公の米田結(橋本環奈)は、翔也(佐野勇斗)と新婚生活を送っていましたが、体調を崩して入院。妊娠していた結は、入院先で管理栄養士・西条小百合(藤原紀香)と出会います。この出会いが、結にとって大きな転機に。
その後、娘を出産した結ですが、一方で、2011年3月に東日本大震災が発生。現地の避難所で支援活動をしていた湯上佳純(平祐奈)から当時の状況を聞いた結は、自分は何をするべきなのか悩みます。そんな中、結は西条と再会し、管理栄養士という新たな夢を持ちます。
結を演じる橋本環奈さんに、西条と結の出会い、これまで主人公を演じてきた思いや「おむすび」の魅力について聞きました。
西条さんとの出会いが、結が自分を見つめ直して管理栄養士を目指すきっかけに
――ラブラブな新婚生活がスタートしたと思ったら、結の入院、そして新しい夢と、激動の1週間でした。東日本大震災が発生してから、ずっとモヤモヤした様子だった結ですが、とうとう進むべき道を見つけたんですね。
西条小百合(藤原紀香)さんとの出会いが、結が自分を見つめ直して管理栄養士を目指すきっかけになりました。つわりでつらい時に、西条さんは「何だったら食べられる?」と聞いてくれて、細やかに寄り添ってくれました。「ソーダ味のアイスキャンディーだったら食べられるかも」っていう結ちゃんの言葉を聞いて、忙しい中でも、凍ったぶどうを持ってきてくれて。
そういう西条さんの患者さんへの姿勢を目の当たりにしたことで、結ちゃんも「自分もいろんな人の役に立ちたいんだ」という考えにたどり着くことができたんですよね。
――西条を演じた藤原紀香さんとは初共演だそうですが、撮影はいかがでしたか?
本当に圧倒されました。紀香さんはもともと関西弁を話されるからなのか、とてもスムーズに現場に入ってこられたんです。それに紀香さんの演技って、ちゃんと人の心を開いてくれるんですよね。その塩梅は紀香さんにしか出せない部分じゃないかと感じました。この人になら心を許しても大丈夫だと、自然と思わせてくれるところがやっぱりすごいなと思いました。
――西条のような管理栄養士がいてくれたら、一緒に頑張ろうと思えますよね。
私は管理栄養士さんにお世話になったことはないので、管理栄養士がどんな仕事なのか、資料を読んだり、監修してくださっている方にお話を聞いたりして勉強しましたが、そんな管理栄養士という仕事を紀香さんは見事に体現されていらっしゃるんです。こういう管理栄養士さんがいたら、病室にいても心強いだろうなと。
紀香さんが演じる西条さんは結ちゃんだけじゃなくて、私自身の気持ちも明るくしてくださったんです。それに、撮影スケジュールがかなりタイトだったのに、本当にびっくりするぐらいの長ゼリフをスラスラ言っている姿にも感動しました。
自分を抑え込んでいた結がだんだん明るくなって、演じながら「よかったね」と思いました
――今週は神戸栄養専門学校の同級生である、カスミンこと湯上佳純(平祐奈)が再登場しました。栄養士の専門学校編を振り返って、印象に残っていることはありますか?
神戸栄養専門学校のシーンは、撮影があまりにも楽しくて、いつも笑いをこらえるのに必死でした。特に、小手伸也さんが演じるモリモリ(森川学)がかわいくて! いつもポジティブでほかの3人のことを見守ってくれるモリモリが、一番ギャルなんじゃないかなと思っていました。
もともとサッチン(矢吹沙智)役の(山本)舞香とカスミン役の(平)祐奈とは共演経験もあって仲良しだったんですけど、そこに小手さんも加わってくれて、休憩中もすごくいい雰囲気だったんです。
4人で初めてプリクラを撮るシーンでも、嫌がるサッチンをモリモリが「逃しませんよ〜」って捕まえたりして、そういう絶妙な距離感は小手さんにしか出せないなと感じていました。やっぱり4人のキャラが全然違うから、すごく見応えがあるし、いい雰囲気が出せていたんじゃないかなって思います。
――その後、結が栄養士として初めて働くのが星河電器の社員食堂でした。三宅弘城さん演じる立川周作には、最初はだいぶきつくあたられていましたね。
社食のメンバーもすごく楽しかったです。立川さんはツンケンしているんですけど、実際は、三宅さんとは美味しいお店の話でずっと盛り上がっていました。でも、休憩中は仲良くおしゃべりしていたのに、本番になると急に「栄養士なんかいらん」って言われて、つらかったです(笑)。
立川さんに冷たくされても、結ちゃんはそこでめげないし、味方になってくれる原口尚弥役が私の大親友の萩原利久だったので、すごく演じやすかったですね。
――萩原さんとは大親友だったんですね!
10代の頃からの友達で、私にとってはおじいちゃんみたいな癒やしの存在です(笑)。栄養士の専門学校の時もそうでしたけど、定期的に仲良しな俳優さんが撮影に参加してくれるので、すごく励まされました。
――栄養士の専門学校編がスタートしたあたりから、ちょっと結のキャラクターが変わってきたように思います。明るくてコミカルな部分が表に出てきましたよね。
そうなんです。逆に第1週から第7週の糸島編では、めっちゃ自分を抑え込んでいたんですよね。やっぱり長い期間、一つの役柄を演じ続けるにあたって、演じ方に強弱をつけたかった。とはいえ同じ人間としてキャラクターが繋がっていないと変だし、そのあたりの加減は難しかったです。
監督とも話し合って、最初は自分を抑え込んでいたところからだんだんと変わっていって、茶髪にしたあたりから心まで明るくなっていくようにしたので、演じながら「結ちゃん、本当によかったね」と思っていました。
人は誰かの人生に必ず何か作用していて、1人じゃ生きていけないと伝えてくれる作品
――まだまだドラマは続きますが、朝ドラという大きな作品で、ヒロインである結を演じられて、橋本さんの俳優人生に変化はあると思いますか?
撮影が終わっていないので、まだ何とも言えないですが、それでもこれだけ長く一つの役を演じることはなかったので、とても贅沢だなと感じています。映画やドラマだと、1か月とか3か月とか短い期間で役を演じることが多くて、もっと深く掘り下げたいと思うこともあるんです。
それに一人の人生を描くって、よくよく考えるとすごいことですよね。普通に生きていると、毎日面白いことが起きるわけじゃないけれど、それでも人生にはいろんなことがある。一人の人生をこれだけ丁寧に演じさせてもらえることは役者としてすごく本望というか、幸せなことだなと思っています。
――長い期間、一人のキャラクターを演じることで、変わってきたことはありますか?
長く演じていると、結ちゃんへの理解度がどんどん深まっていくというか、結ちゃんはこういうふうに伝えたいんだろうなというのがわかってくるんですよね。だから、撮影が終わって「結ちゃん」と呼ばれなくなる日が来たら、すごく寂しいだろうなって思います。
でもこの先、どの作品に関わっても、結ちゃんが私の中で消滅することは絶対にないんですよね。結ちゃんとして感じたことが私の中で積み重なっているし、それがほかの役に通じたりとか、糧になったりする部分がきっとあるだろうなと。
私自身が「成長しました!」って断言することはまだできませんが、米田結という役、「おむすび」という作品に出会えて、橋本環奈という俳優として一歩前に進めたんじゃないかなと感じています。
――改めて、「おむすび」という作品の魅力はどんなところだと感じていますか?
「おむすび」をすごくいいなって思うのは、誰も偉大なことを成し遂げてはいないけれど、人は誰かの人生に必ず何か作用していて、一人じゃ生きていけないんだよと丁寧に伝えてくれる作品だということ。結ちゃんだけがみんなに影響を与えるのではなくて、お母さんもお父さんも、登場人物全員にバックボーンがあって、全員が作用し合う。そこがすごく素敵だなって思います。
結ちゃんがきっかけになることもあるけど、すべてに絡んでいるわけじゃなくて、登場人物それぞれの世界があって、それが枝わかれしていく。でも根っこでは一つの木として繋がっているというのが、この作品の魅力。演じていて日常にある些細な幸せみたいなものを逃がさない、取りこぼしたくないっていう思いが伝わってきますよね。
――確かに、実際の世界でもみんなが作用しあっていますよね。
今後、結ちゃんは管理栄養士として患者さんに寄り添って、その人の人生に影響を与えていくわけですけど、決しておせっかいになりたくないし、同じ目線に立つことがとても大事なんだと学びました。これまでギャルや書道など、いろんなことに挑戦してきた結ちゃんだからこそ、「こういう管理栄養士になったんだ」という説得力を持たせられるように演じ切りたいです。
はしもと・かんな
1999年2月3日生まれ。福岡県出身。2011年、是枝裕和監督作『奇跡』で映画デビュー。'16年、映画『セーラー服と機関銃 −卒業−』では初主演を務め、第40回日本アカデミー賞「新人俳優賞」を受賞。主な出演作に、映画『キングダム』シリーズ、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』など。舞台『千と千尋の神隠し』では、'22年の初演で主演の千尋役を演じ、'24年のロンドン公演にも出演。NHKでは、'22年、'23年、'24年と、3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めた。