「おむすび」の脚本を担当しているのは、NHKでドラマ「正直不動産」シリーズなどを手掛けた根本ノンジさん。今回、コメディータッチの朝ドラに、たくさんの反響と期待が寄せられています。

米田家のひとくせある家族の面々をはじめ、ゆい(橋本環奈)をとりまく魅力的なキャラクターに込めた思いや、初めて朝ドラを担当するにあたっての意気込みを、改めて聞きました。


これまで書いてきたドラマやキャラクターたちに背中を押されて……

──「正直不動産」など数々の名作ドラマを生み出してきた根本さんですが、実は根っからの“朝ドラファン”とのこと。今回、制作側にまわってみてのご苦労はありますか?

やはり“物量”がとんでもないな、と(笑)。普通の連続ドラマが1週60分とすると、朝ドラは15分×5日で1週75分。これが20週以上続く……いったい誰がこんな企画を考え出したんだと思うくらいのボリュームなんですよ。その分、やりがいも挑戦しがいもひとしおなので、非常に楽しくやらせていただいています。

実は、以前にも朝ドラの別作品で脚本協力として参加したことがあったのですが、その時の経験も生かされていると思います。まずは早めの準備を心掛けました。最初に全体構成を作って、そこから各週のプロットに振り分け、制作チームで話し合いを重ねて、どんどんブラッシュアップさせていく、というように。

あと面白いなと思っているのは、これまで書いてきたほかのドラマたちに、すごく背中を押してもらっている感覚があるところです。このシーンは、あのドラマのあのシーンを描く時に使ったノウハウが生かせるぞとか、このキャラクターは、あのドラマのあのキャラクターで学んだ経験で描けるな、とか。

朝ドラにふさわしいものとしてチューニングする部分ももちろんありますが、ある種、これまでの集大成のような作品になるんじゃないかと思っています。

──「朝ドラにふさわしいもの」とおっしゃいましたが、特に意識していることは、どんなことでしょうか?

見る人たちが楽しめるように、ということは大前提として心がけています。この先、ストーリーが進んでいけば、当然、コメディータッチばかりではなく、重たいシーンも展開されていきます。ですが、センシティブな表現などは気をつけて描写しているつもりです。

「いろんな意見がそれぞれあって、どれも正しい」というようなライトな肯定というか、今でいう多様性のようなものを描きたい。全体を通して、そういう作品になればいいなと思っていますね。

──ところで、根本さんにとって「平成」とはどんな時代だったのでしょうか?

僕は1969年生まれで、平成は20代後半から30代までの時代。いちばん、テレビの世界でバリバリ仕事をやっていた時期にあたります。大変ではありましたが、それでも楽しい作品が次々生み出されて……それも含めてひと言で言うと、“青春”でしたね(笑)。

その間に、とんでもない事件や悲しい震災もあったけれど、暗いばかりではなかった。めちゃくちゃ楽しかったし、いろんなものが生み出されていたよねっていうのを、作品の中にはたくさん描いていければと思っています。

──主題歌を歌うB’zさんも、根本さんの青春を彩る存在だったとか?

ええ、そうなんです。大好きです! 僕と一緒にカラオケに行った人たちは、僕が歌う「ALONE」(B’zの代表曲の1つ)を何度も何度も聞かされて、聞き飽きていると思います。もう、1000回以上は歌ったんじゃないかな(笑)。なので、最初に(制作統括の)宇佐川さんから「B’zさんに頼もうと思う」と言われたときはとてもうれしかったです。

決まったと聞いたとき、デモ音源が届いてそれを聴いたときの感慨は、なんとも言い表しようがないくらいうれしかったですね。こんなに作品にフィットする曲を作ってもらえたこともそうですし、まだ映像ができる前なので、楽曲制作の手がかりは僕たちが作った台本だけ。

それを、あの稲葉(浩志)さんが台本を読んで作詞をし、松本(孝弘)さんが作曲してくださったかと思うと……。あのお二人と、一緒に1つのものを作れたことに対してのうれしさもありました。

──最後に「おむすび」の今後の見どころについてひとこと!

ギャルという切り口が注目されがちなんですが、「おむすび」のメインテーマは、なんといっても“食”なんです。ものを食べるという行為には、キャラクターの性格や人生が出るので、いつも作品を作る際には食事シーンにはこだわっています。本作では、まさに正面から“食”に取り組みました。

第1週で登場した結の「おいしいものを食べたら、悲しいこと、ちょっとは忘れられる」というセリフ。これがテーマとして今後前面に出てきます。

つまり、結は、高校卒業後、栄養士を目指すことになるわけですが……。栄養士って、食べ物で人を元気にする職業。たとえば、赤ちゃんに提供する離乳食、学校の給食、職場の社食や老人ホームのご飯などの献立づくりや、コンビニやレストランのメニュー開発などなど。

さらに、年老いて口からご飯が食べられなくなった場合の「胃ろう」にも栄養士(管理栄養士)は関わることになります。これは、僕の父が食道がんで亡くなる前、まさに管理栄養士さんのお世話になって知ったことだったのですが──。

栄養士や管理栄養士は、人が生まれてから亡くなるまで、人生すべてに関わる仕事なんです。食をテーマにしたドラマや朝ドラは数多くありましたが、この切り口は今まであまりないと思うので、誠心誠意、心を込めて脚本を書いていきたいと思っています。

結もこれから、いろいろな人の人生に、食を通して関わっていくことになります。「ギャルマインド」で多くの人を明るくする彼女の活躍を、最後まで見届けていただけると、幸せです。

【プロフィール】
ねもと・のんじ
1969年生まれ、千葉県出身。小劇団の作演出などを務めながら、構成作家として活動。2001年、日本テレビシナリオ登竜門入選。以後、脚本家として活動。主な執筆作品は、「正直不動産」シリーズ(NHK)、「ハコヅメ~たたかう!交番女子」(日本テレビ系)、「パリピ孔明」(フジテレビ系)など。