父娘の絆を描くホームコメディー「しずかちゃんとパパ」。聴覚障がいのある“パパ”こと純介を演じる笑福亭鶴瓶に本作で初挑戦した手話の難しさや、役柄を通して感じた思いを聞いた。

手話で芝居をする難しさ

純介は生まれつき聴覚障がいがあり、言葉を発しません。この役をオファーされたとき、スタッフから「セリフを覚えなくていいんですよ」と言われたので「ほな、やろうか」ってなったんですが、そのかわり手話を覚えなくてはいけなくて。わなにはまった感じです(笑)。

セリフのある役なら、話している途中で思い出すこともあるし、うまくごまかすこともできる。でも、 手話だとそれができないんですよね。言い争うシーンでは手を早く動かさなければいけないんですが、この年だとそれもなかなかに難しい。

一方で、手話ならではのいいこともあって、“間”がたくさんあるんです。その“間”で、自分の感情がどんどん沸き上がってくる。
とあるセリフでは気持ちがたかぶって、思わず泣きそうになることもありました。

どんな役でも自然に見えるように演じたいとは思っているんですが、手話をしながらだとやっぱり難しい。だから、僕に手話を教えてくれるろう者のぞえ悟史さんと仲よくなって、その方の思いを理解することから始めたんです。

彼はとても明るくて、かっこよくて、見ていると楽しい気持ちになるんですよ。そんな彼とコミュニケーションをとるうちに、どうやったら手話に感情を込められるのかもわかってきて。

監督はすでに撮影プランがあったと思うんですが、江副さんとの交流で気づいたことを生かしたいから視線などの細かい動きは任せてほしい、と僕からお願いしました。


魅力的な共演者たちと

耳が聞こえる静は、純介と手話で会話し、通訳もする。

僕よりももっと大変なのは、娘の静を演じる吉岡里帆です。
静はいわゆるコーダ(聴覚障がいのある親を持つ、聞こえる子ども)で、ほかの人の前では、純介の手話を言葉に訳さなければいけないし、訳しながら目で手話をキャッチしなければいけない。

父の耳と口になって動いているので、はたから見たら普通じゃないですよね。でも、静にとっては生まれてからずっとそうで、当たり前のことなんです。
そういった背景を踏まえながら演じなければいけないのは、難しいと思いますよ。

僕は、ドラマや映画に出演するとき、「この人と一緒にお芝居がしたい」と思って仕事を受けることが多いんですが、今回は、彼女が主演のドラマだということも引き受けた理由のひとつでした。

ほかにも魅力的な共演者がたくさんいらっしゃいます。純介が好きになるさくら役の木村多江さんもすてきですね。
おとなしそうに見えますがとても面白い方で、見ていて飽きないんですよ(笑)。
もともと手話ができるらしいんですが、今回はさらに勉強してから撮影に臨んでいらして、その向上心に驚かされました。

静の恋人になる圭一役の中島裕翔もいいやつで、興味深い人ですよ。
今回の役どころは“空気が読めない人”なんですが、 Hey!Say!JUMPのほかのメンバーから「おまえじゃん!」って言われたみたいです(笑)。

純介はろう者ですが、注目してほしいのは彼のハンディの部分ではなく、周りに自然と溶け込んでいる姿。
そして、“ろう者の親と娘”ではなく、1対1の人間同士の親子関係を見ていただけたらうれしいですね。


しょうふくてい・つるべ
1951年12月23日生まれ、大阪府出身。NHKでは大河ドラマ「元禄繚乱」「西郷どん」、 連続テレビ小説「純ちゃんの応援歌」など。月曜日放送のバラエティー番組「鶴瓶の家族に乾杯」に出演中。

(NHKウイークリーステラ 2022年3月25日号より)