主人公の米田結(橋本環奈)が管理栄養士として働く大阪新淀川記念病院の外科医、かまれい。結を「米田!」と呼び、患者のことでアドバイスを求めると「メシ食べさせるのが管理栄養士の仕事でしょ」とぴしゃり。プロ意識の高さが画面の中にもピリリとした緊張感をもたらす蒲田医師を演じるのは、中村アンさん。初めての朝ドラ出演への思い、外科医を演じる覚悟などについて聞きました。


米田に愛のある圧をかけたいと思っています

──初の朝ドラ出演です。オファーを受けた時の気持ちや朝ドラへの思いを教えてください。

びっくりしました。この病院編も、ストーリーの中で大事な章だとうかがっているので、その仲間に入れていただけることがとてもうれしいです。

朝ドラはたくさんの世代の人たちがご覧になっているものだし、自分自身も子どもの時から自然と見ていました。永野芽郁さん主演の「半分、青い。」も好きでしたし、Kiroroさんの主題歌で沖縄が舞台の「ちゅらさん」なんかもよく覚えています。

──ご自身の役どころについて、蒲田令奈は一見、クールな外科医ですが、どんな人物だと捉えていますか?

これから米田は、病院でいろいろな先生に出会って、まれて成長していくわけですが、私が演じる蒲田令奈も、彼女に圧をかける一人(笑)。愛のある圧をかけられたらいいなと思っています。

とてもドライに見えると思うんですけど、監督や実際の先生方に話を聞くと、外科医って本当にたくさん案件を抱えているんですよね。1日に何件も手術をするときもあるそうですし。だから、蒲田もそっけないようだけど心が冷たいわけではなく、淡々と手術を成功させることに集中している。

そのために感情もフラットでいるということだと思っています。私自身も、割と感情はフラットなほうなので、演じるのに無理はないですね。

──とはいえ、「メシ」っていう言葉遣いはちょっと驚きました。

ですよね(笑)。私も最初はそう思いました。台本っていつも、初めて読んだ時にはちょっとびっくりするんです。それを自分の中に落とし込むために何度も何度も読むうちに、彼女にとっては、「メシ」っていう言い方は自然で、普通なんだと思えるようになっていくんです。

実際、お話を聞いてみると、外科の先生たちはよく使う言葉だそうです。「手術の成功のために、メシ食べさせてパワーをつけさせておいて!」って。でも、蒲田のキャラクターがよく見える言葉遣いですよね。無駄を省きたい人、大切なポイントを端的に伝えようとする人なんだと思います。

けっこう、ドクターによってタイプが違うというのも、実際にあるみたいで。それを管理栄養士さんは、それぞれ「どうしますか?」と気を遣って対応しなくちゃいけないそうです。で、蒲田の場合は、「そんなのはそっちの仕事でしょ、そっちで考えて。私は手術を成功させるから」という感じで合理的。個人的には共感できるところもあります。

米田への接し方も、信頼しているからこそだと思います。大人な、愛のある見守り方だと思いますね。

──ちなみに、医療現場における管理栄養士の仕事内容はご存じでしたか?

いえ、知りませんでした。でも、点滴だけではとれない栄養があるから、ちゃんと食事で補って手術に臨む必要があるんだと聞いて、納得しました。やっぱり、腸や胃も元気じゃないとダメなんだそうです。そういった見えないところで管理栄養士さんが支えてくれているんだ……って。すごく興味深い職業だなと思いました。


目線を意識して、目に力を入れて蒲田令奈という人を演じています

──ご自身の外科医という役については、どんな思いで演じていらっしゃいますか?

外科医役は初めてなんです。ただ、今回はオペシーンがあるわけではないので、見せどころというか、ポイントは蒲田自身の性格やふるまいですかね。言葉遣いもそうですけど、あまり笑顔を見せるでもなく、淡々と仕事をする感じ。すごく話しかけづらいし、実際、人に興味もない感じがする。そんな雰囲気を出すために、目線には意識しています。常に目に力をちゃんと保つように。

ただ、愛がある人だと思うんです。本当に頭のいい人だから、人の気持ちもちゃんとみ取れるし。もし、私が患者の立場なら、蒲田みたいな人に執刀してもらいたい。優しいけど不安が残る人よりは、ちょっと冷たいくらいでも腕がいい方が安心ですから。

──「おむすび」作品全体についてのご感想はいかがでしょうか?

初めて本読みに参加したときから、その軸のあたたかさは感じています。おむすびがつなぐ縁だったり、家族のよさだったり。大切なものだとわかっているのに、おろそかにしがちな食事がいかに大切かというメッセージ性もある。なにより、頑張っている米田を応援したくなりますよね。特に蒲田は、口にはしないですけど、心の中では「米田頑張れ」って背中を押しているんですよ。

──食事の大切さについておっしゃっていましたが、中村さんは普段ふだん、食事について意識しているほうですか?

仕事柄、気をつけているほうですけど、あまり知識はないので気をつけなくちゃと思いましたね。例えば、もし、体調を崩して入院することになってしまったら、やっぱり自由に好きなものを食べられなくなってしまうわけで。それを思うと、健康って本当に大切だし、偏った食事はダメだなと思います。

以前、少し勉強してみようと思ったこともあるのですが、なかなか続かなくて……。でも、最近はネットやSNSでちょっとした栄養の情報や料理の知識は得られるので、それは活用しています。例えば、鶏、豚、牛、あるいはバラ、ヒレ、ロース……同じお肉でも部位によっては、とれる栄養素が違うんですよね。今は手軽になんでも手に入れやすいからこそ、「バランスよく」がいちばんかなと思っています。

──「おむすび」のもう一つのテーマ、“ギャル”や“ギャルマインド”についてはどう見ていますか? 中村さんの実年齢は、劇中の結と1歳違いで、まさに平成ギャル時代に高校生だったわけですが……。

当時の私はチアリーディング部でゴリゴリの体育会系だったので、ギャルとは無縁でした。テレビで見たり、たまに渋谷に行くと、厚底ブーツを履いたり、やまんばメイクをしたギャルたちを横目で見たりという感じです。でも、作中の「ギャルのおきて」には共感するところもあります。私も、友達に頼られたら駆けつけたいし、他人の目は気にはしているけど、好きなものは貫きたいって思うほうですので。

──これからの見どころを教えてください。

病院編、楽しみにしていただきたいですね。病院の皆さん、とっても個性的で、とにかくキャラが濃い人が多いです。台本を読んでいるだけでも、米田との掛け合いがどんなシーンになるか、ワクワクしています。

私にとっては初めての朝ドラですが、気負わず、命を大切に、患者さんたちに医療や食事療法で少しでも元気になってほしいというメッセージをお伝えできたらなと思っています。撮影現場では、実際の外科医の先生方がいつも見守ってくださっていて、私たちの質問になんでも答えてくださるので心強いです。私自身とは全然違う頭脳を持った方々だと思うんですけど、そういう方々の気持ちも大切にしながら、お芝居につなげていけたらと思っています。

【プロフィール】
なかむら・あん 

1987年生まれ、東京都出身。Instagramのフォロワー数は300万人近く、男女問わず幅広い世代から支持されている。2022年のTBS「DCU~手錠を持ったダイバー~」では第4回アジアコンテンツアワードの助演女優賞にノミネートされるなど、その演技力が日本国外からも評価されている。NHK「大奥 Season2」幕末編、NHKアニメ「アニ×パラ~あなたのヒーローは誰ですか~第10弾」では声優も務めた。ほか、TBS「グランメゾン・東京」、映画『グランメゾン・パリ』など出演作多数。