この一週間はのぶと嵩、二人の受験で明暗が分かれました。
嵩にはまたもや母との別れが待っていました。
金曜日、伯父・寛が言った「絶望の隣はにゃあ、希望じゃ」は救いの言葉でした。やなせたかしさんの著書のタイトルにも。(『絶望の隣は希望です!』小学館)
今週も、心に残るセリフとともに一週間を振り返ります。
もちろんネタバレですので、ご承知おきください。

女子師範学校合格に向けて猛勉強しているのぶ(今田美桜)が、通知簿を受け取るところから。……乙と丙ばかり(今でいう「ABC」の「B」と「C」?)が並んでいるのは“お約束”、ということで……。

一方、嵩(北村匠海)もいい勝負……なんと数学は丁!(丁は、よほどのことがないと取れないほど悪い成績らしい)答案用紙の裏に漫画で先生の似顔絵を描いた結果だ。
それでも、母・登美子(松嶋菜々子)は強気。
「嵩はまだ本気で勉強していないだけです。やればできるわよね~……私が環境を整えますのでっ!」

夏休み、のぶのラジオ体操は参加人数がずいぶん増えている。
ここで母の羽多子(江口のりこ)は嵩に、のぶに勉強を教えて欲しい、と頼む。

パンを売り歩くのぶとメイコ(原菜乃華)を見かけた自転車の屋村草吉(ヤムおじさん・阿部サダヲ)が追い抜きざまに「受験はどうだ?」
のぶが嵩に勉強を教わることになったことを話したメイコは「おかあちゃんも大船に乗った気でおるがやき」
「それは、泥船だぞ」って、ヤムさんが言い残して去っていく。(見ていた自分の心の声がハモった(笑))

柳井家で嵩と勉強するのぶだが……
「あ~僕に聞かないで。……てか、問題の意味すら分からない。数学、丁なんだよね」
「たまるか~。え? 丁、丁、……丁かえ?」

そこに千尋(中沢元紀)が登場。弟の千尋がすらすら問題を解く。千尋は学年で一番なのだ。(※今田美桜 振り返りインタビュー)
夜、一息入れようと部屋を出た嵩は、伯父の寛(竹野内豊)が千尋に言った言葉を偶然聞いてしまう。

「千尋、おまえひょっとして、嵩のために医者になるがをやめたがやないか?」
千尋の答えは……嵩は聞かずにその場を離れた。こういう中途半端な聞き耳は、よくない結果につながることが多いが……。

ある日、嵩は……線路に耳をつけて横たわっていた。
屋村が声をかける。
「おい、何やってんだ? なんか聞こえんのか?」
「汽車の音。こうして聞いていると落ち着くんです」
その時、汽車が来る、嵩は起き上がらない! 汽車が迫る!

危機一髪、屋村が抱え上げて助かった!
叫ぶ嵩「こんな情けねえ俺、もうやだよ。やだやだ。わーっ」

そのころ、のぶは勉強しに柳井家を訪れるが、嵩がいない。
のぶは千尋から兄への気持ちを聞いた。
「兄貴がおらんなるのが、怖かったがよ。……(母親が出て行ったときも)兄貴があの人とおらんなってしまうがやないのかと思うて、また一人になるのが怖かった」
小さいころ、兄弟2人で川を泳いで渡った思い出——
同じ場面を千尋はのぶに、嵩は屋村に話していた。
こちら、川辺での嵩と屋村の場面。
嵩「……千尋は僕が守ってやんなきゃって、ずっと思ってたけど」
屋村「立場が逆転しちゃったんだな~」
嵩「シーソーみたいに……」
帰ってきた嵩と千尋が兄弟喧嘩を始める。

約束をすっぽかした嵩を咎める千尋に向かって
嵩「おまえまた優等生ぶりやがって。おまえのそういうところが気に入らないんだよ」
取っ組み合いの喧嘩を止めて欲しいと呼ばれて駆けつけるのぶと屋村。喧嘩はヒートアップしていく。
嵩「病院継ぎたきゃ継げばいいだろ。俺に譲ったりなんかするな」
千尋「はあ? わしは兄貴に譲ったりしちゃあせん……」

2人の言い合いを登美子(松嶋菜々子)も千代子(戸田菜穂)もハラハラしながら遠巻きに見ている。が、当の本人たちは気づいていない。
千尋「兄貴はなんで? お袋の言いなりになるがな」
「言いなりになんか……」
「なっちゅうやんか。ずいぶん前に捨てたと思うちょったら、急にまた戻ってきて母親面して。……兄貴はあの人に利用されゆうがよ。兄貴だって本当はわかっちゅうハズや」

嵩「だまれ! お前はどうなんだよ。ここにもらわれてきてから、伯父さんと伯母さんの顔色ずっとうかがって、優等生になって。立派だよお前は。兄弟でも月とスッポンだもんな。胸の中じゃ、こんな兄貴いなくなればいいと思ってんだろ」

ここでのぶが嵩の頬を叩く。
「あんたは、千尋君の気持ち、ひとっちゃあ知らん。……あんたなんか、たっすいがぁのすっぽんじゃ」
二人の母千代子(戸田菜穂)と登美子(松嶋菜々子)がお互いにぷいっと出ていく。
ここまでのモヤモヤをぶつけ合った兄弟喧嘩の幕引き。
(※中沢元紀インタビュー)

喧嘩のあと、嵩と千尋、寛の対話。
寛「この際ふたりにはっきり言うちょく。……千尋は嵩に気兼ねして医者になるがをやめたわけやない」
嵩が立ち聞きした会話はほんの一部分で、その後千尋は自分が本気で法学を目指していることを伝えていたのだった。
そして……まだ言ってないことがある、といって、
「わし、血が苦手やがです」あ、やっぱりそう来たか! 予想通り(笑)

「で、嵩はどうするがや」という寛の問いかけに、ひとまず超難関校・高知第一高等学校を目指したいという嵩。
「あの人が喜ぶ顔を見たくて」
なんと切なく一途な思いなんだろう。喧嘩の時も絶対に母をかばい、悪く言われれば否定していた嵩。その気持ちは報いられることがあるのだろうか。
最後に寛が言う。
「なんのために生まれて、何をしながら生きるがか、見つかるまで、もがけ、必死でもがけ」(※中沢元紀 振り返りインタビュー)

年が明けて昭和11年。
受験のために戸籍を取り寄せた嵩は、自分がひとりぼっちだということを知ってしまう。再婚した登美子も養子に行った千尋も、戸籍から抜けているので、大きなバッテンがついているのだ。それを見つめて……嵩の途方もない孤独が苦しい。

受験当日。
釜次はのぶを送り出す。
「気合じゃ! 気合じゃ気合じゃ気合じゃ」(レスリングのあの有名な……)
屋村は「合格」印を押したアンパンを持たせると「いつもより粘り強い生地で作った」と……
ここでのぶは、嵩が受験票を忘れて会場に行ってしまったことを知る。

のぶは走って嵩に受験票をとどける。間に合った!
受験票とアンパンを渡して
「そんな大事なもの忘れるなんて、嵩のボケーぇ」
そして自分の受験にも、遅刻ギリギリで滑り込む。

女子師範学校の入試は学科だけでなく、実技も面接も! 怖そうな先生(瀧内公美)もいて……。

帰ってくるのぶはちょっとうつむき加減。
一方嵩は手ごたえがあったよう。
「今朝はありがとう、助かったよ」
落ち込むのぶに、「合格発表まで希望を捨てずにいようよ」
その夜、久しぶりに封印していた漫画を描く嵩なのだった。

そして合格発表の日。
のぶは笑顔で戻ってくる。駅で会った千尋に「おかげさまで、合格した」
ところが嵩は……
「のぶちゃん、ダメだった、よ。走って受験票持ってきてくれたのに。ごめん」

嵩の家で家族ががっかりして食卓でうなだれているところに、のぶがアンパンを持ってやってくる。
「うちの家族はうれしいときも、しんどい時も、あんぱん食べるがです」
出ていくのぶに嫌味を言う登美子。
「あなた、嵩に勉強を教わりに来てたのよね。そのあなたが受かって、嵩は落ちたの。嵩はあなたのせいで勉強ができなかったんじゃないかしら」

怒る千尋。
「兄貴が高知高校に行こうと誰のために頑張っちょったと思うちゅうがな。あんたのためやろ……兄貴、もうこの人の言いなりになるがはやめちょけや」

翌朝。駅に向かう登美子の姿があった。鮮やかなブルーの縞の着物に御所車の帯。別れのシーンはいつも印象的な着物だ。

嵩は、1年浪人して次はきっと受かってみせるから、と追いすがるが……
「一年なんて待てないわ。もういいわ、好きにしなさい。私の言いなりになるなって千尋にも言われたでしょ? 二人ともこのお腹を痛めて産んだ子なのにね。じゃあね、嵩……ごきげんよう。さようなら」遠ざかる後ろ姿。
嵩はまた、母親に捨てられた。

嵩は屋村と川面を見つめながら、
「ヤムさん、ぼくって何のために生きているんだろ」
戸籍から、自分がひとりぼっちだと知ったことを話す。
屋村「ひとりぼっちも気楽でいいじゃないか……どうせ一回こっきりの人生だ。自分のために生きろ」
ところが……嵩はその夜、うちに帰ってこなかった。心配する千尋に、のぶと屋村も加わり探すが見当たらない。そこに往診から帰ってきた寛も合流。
屋村が思いつく。「あそこかもしれない」

嵩は、あの線路で寝ていたのだ。
縋りついて怒鳴るのぶ。言葉にならない。
「嵩のドあほー!! こんなところで何しうがかね。死にたいがかえ」

「みなさん、心配かけて」と事の重大さがわかっていない様子の嵩。
のぶ「どればぁ、どればぁ心配したと思いちゅうがで」
嵩「違うんだ、違うんだのぶちゃん」「何が違うの?」

嵩「僕は、母さん一人も笑顔にできんかった。ぼくは何のために生きてるんだろう、そんなことを考えてたら……」
のぶ「無事でよかった。うちは、うちは死ぬばぁ心配してたやき」
周囲が明るくなってきた。朝日が昇る。寛が言う。
「泣いても笑ろうても陽はまた昇る」
「嵩、絶望の隣はにゃあ、希望じゃ」
(※北村匠海 振り返りインタビュー)
嵩を励ます寛のセリフはやっぱり、やなせたかしさんの言葉でした。
こんなに大変な思いをした嵩だもの、次は希望が見えて欲しいものです。
さて、来週からのぶは高等女学校へ。嵩はどうするのでしょうか?
タイトルは「人生は喜ばせごっこ」
これもやなせさんの言葉です。著書『もうひとつのアンパンマン物語』(PHP研究所)のサブタイトルでもありました。またNHK財団が企画して熊本市現代美術館で行われている「やなせたかし展」も、この言葉がタイトルになっています。やなせさんの言葉を、絵を、改めて味わってみたいものです。
ほいたらね!
(「やなせたかし展公式サイトはこちら ※ステラnetを離れます)