幼少期は体が弱く、兄の陰に隠れているような少年だったものの、たくましく成長して文武両道の青年となった柳井千尋。そんな千尋を演じている中沢元紀は、何を意識しながら撮影と向き合っているのか。千尋が抱えている、兄・嵩(北村匠海)や柳井家の雰囲気、心に刺さったシーンについて語ってもらった。
北村匠海さんとのお芝居で生まれてくる感情を大切にしながら

――撮影開始前に発表されたコメントに「演じながら生まれる気持ちを大事にしながらやっていきたい」とありましたが、実際に演じていて印象に残ったシーンは?
兄貴とのシーンがいちばん多いですが、いちばん印象に残っているのは、今日放送された兄弟げんかのシーンですね。嵩とぶつかり合う最初のシーンで、激しめのアクションもありました。そのときの親に対する思いが兄弟で違っていたので、結構胸に刺さるような厳しめの言葉を兄貴に吐きますし、逆に吐かれますし、というのもあるので、そこは結構印象に残っていますね。
アクションがあったので段取りも重ね、本番のときは匠海さんの目だったり、動きだったりを含めて“刺さったな”という感覚があって。その場でしか生まれない気持ちというのは、これからの役者人生でも絶対に大事になってくるものだと思ったので、そこは一つ一つ忘れないように大切にしながら演じていました。

――それが、お芝居の中で生まれてきた感情ということですね。
そうですね。「よーい、スタート」がかかったら集中して、という感じだと思います。僕はアクションに興味があって、匠海さんはアクション作品にたくさん出演されていますので、カメラが回ってないときはずっとアクションの話を聞いていました。前蹴りの仕方や、体の受け流し方だったり(笑)。
――千尋は優秀で、嵩から「出来すぎ」と言われたりもしますが、文武両道の優等生という役柄を聞いたときの印象を教えてください。
簡単に言うと「完璧人間だな」と感じました。自分がそんな人間になれるのか、演じるうえで不安はありましたが、やなせたかしさんの弟の柳瀬千尋さんという実在された方をモデルにした人物なので、そこはちゃんと責任を持って演じなければいけないなと思いました。

――この「あんぱん」の中での千尋の性格については、どんなふうに考えましたか?
彼は早い段階で大人の目を持ってしまっていることで、心だけが成長しているな、と。周りから見ると、一見大人だけれど、まだ10代でもありますし、子どもの部分も持っていると思うんです。そういう子どもに見える部分はちゃんと子どもに見せて、というところは意識しながら演じています。2人きりの兄と弟なので、兄貴にだけ見せる笑顔みたいなところとか。
兄思いの柳井千尋を責任を持って演じたい

――家族思いで、兄思いな役ですが、千尋にとって兄の嵩というのはどんな存在だと捉えて、お芝居をしていますか?
やっぱり、たった1人の兄貴で、本音で相談できる唯一の人だと思います。嵩は思い悩むことが多く、頼りない感じの描かれ方はされていますけれど、千尋にとっては頼もしい兄貴だったと思います。それは演じている匠海さんの“像”も僕の中では重なっているので、頼れる兄貴という印象がやっぱり強いですね。
――千尋を演じるにあたって、何をいちばん大事にしようと考えましたか?
身体つきも含めて兄貴と対極な部分が多いですが、やっぱり兄弟なので、考え方が似ているところもあるなということを台本を読んで感じました。セリフの言い回しや、後々出てくるシーンでも「あ、意外と千尋も流されるんだな」というところがあったので、ちゃんと血がつながっているという感覚を持ちながら演じていましたね。

――朝田家もそうですが、柳井家も魅力的な俳優陣が勢ぞろいしていますが、柳井家のキャストを最初に聞いたときにどんなことを思いましたか?
もう、震えました(笑)。柳井家の食卓のシーンでは、僕の目の前に北村匠海さんがいて、右に竹野内豊さんがいて、左に戸田菜穂さんがいて、そこに松嶋菜々子さんがやってくるという……。たまに我に返って「僕はここに座っていていいんだろうか?」みたいな気持ちになるんですけれど、だからこそ自分の思っているものを出せば、ちゃんと返していただけるだろうなという安心感もありつつ、その緊張とお芝居に対しての安心感というのが半々だったかなと思っています。
柳井家と朝田家の違いにも注目です
――子どものころ、やなせたかしさんの作品に触れられていたエピソードなどはありますか?
小さいころから「アンパンマン」が好きで、よくロールパンナちゃんの真似をして、母親に遊んでもらっていました。風呂敷を巻いて、洗濯棒にリボンをつけて、掃除機をかけている母親を怪人に見立てて遊んでもらい、掃除が終わっても「もう一回、もう一回」とせがんでいたみたいで……。
だから母親に「あんぱん」出演を知らせたときはすごく喜んでくれました。本当にアンパンマンとともに育ってきたという思いがあります。

――今回の「あんぱん」に対する思いを、改めて聞かせてください。
やっぱり元気をもらえる作品ですね。そして、素晴らしいセリフがたくさん出てきますので、見てくださっている方には、セリフにも注目して見ていただきたいなと思います。そして朝田家の雰囲気と柳井家の雰囲気は全く違っていますが、どちらにもすごく魅力があって、そういう違いにも注目していただければと思います。
千尋としては、大人な部分もそうなんですけれど、心の中に持っている本音の部分というか、かわいらしさも含めて本当に人間味のある役なので、そういう千尋の魅力を伝えられたらうれしいですね。
戦争の時代も描かれることで、明るい話ばかりではないのですが、それでも前を向いて元気を与えてくれる作品だと思います。僕自身もこの先を早く見たいし、作品から元気をもらって頑張りたいなと思っています。