立川たてかわしゅうさくは、主人公のよねゆい(橋本環奈)が就職した星河電器社員食堂のベテラン調理師です。食堂の献立や調理方法の全てを取り仕切っている立川は、結が栄養士としてメニューについて意見することに猛反発。

しかし、結と一緒に仕事をするうちに立川も栄養士の必要性を理解して、結を認めていくようになります。阪神タイガースの熱心なファンで、料理を大盛りにするなど、野球部員になにかとサービスしてしまうことも。

そんな立川を演じるのは、三宅弘城さん。演じる立川というキャラクターへの思いや、「15の夜」を熱唱したシーンの撮影裏話を聞きました。


「おむすび」はちゃんと明日も見たいと思わせてくれる“朝ドラらしい朝ドラ”

――毎回登場する社食メニューはとっても美味しそうですね。

これはどうしても皆さんにお伝えしておきたいのですが、本当に美味おいしいんです! 社食のメニューも料理指導の広里(貴子)先生が作ってくださっているのですが、全メニューが美味しい。ちょっとつまみ食いさせてもらいたくて、撮影中は僕も広里先生の調理場にお邪魔してばかりいました(笑)。

今後の放送に出てくるある料理も、何か特別なものが入っているわけではないのに、野菜の味が生きているんですよね。59話(12月19日放送)に登場したスコッチエッグも美味しかったなぁ。

――今作で「あさが来た」(2015年放送)以来の朝ドラ出演となりましたが、出演が決まった時はどんなお気持ちでしたか?

「あさが来た」に出演した時は楽しい思い出しかなかったですし、脚本の根本ノンジさんとはいろいろな作品でご一緒させていただいていて、僕も「おむすび」出演できたらいいなと思っていましたので、念願がかなってうれしさ倍増でした。

――根本作品に何度か出演経験がある三宅さんですが、今回の「おむすび」の脚本を読んでどんな印象を持たれましたか?

ほぼ現代が舞台の朝ドラって久しぶりですよね。だからなのか、すごくポップな印象を受けました。ギャルが出てくるし(笑)。すごくストレートな内容なのですが、1話15分という限られた時間の中で、ちゃんと明日も見たいと思わせてくれる“朝ドラらしい朝ドラ”だなと思いました。

――三宅さんはご自身が演じる立川周作をどんなキャラクターだと捉えていますか?

立川は職人気質かたぎで、自分がいままでやってきたことにものすごい自信やプライドを持っている人。でも、プライドが高いだけじゃなくて、ちゃんと自分がこの社員食堂の責任者だっていう強い思いもあるんですよね。セリフでも「責任者の俺が謝んの当然やろ」とか「朝一番に来て、最後に帰るんは、当然やろ」とか出てきますが、自分の仕事に対してちゃんと責任感を持っているんだと感じました。

あとは、僕も阪神タイガースファンなので、試合結果に一喜一憂する部分ではすごく共感しましたね。それに、僕は料理を作るのも食べるのも好きなので、調理師という職業を演じられることはすごく楽しみでした。

――社員食堂の調理師という職業を演じる上で難しかった部分はありましたか?

社食なので、一度にたくさんの量を調理するんです。だから、大きい鍋に入った大量の食材を混ぜるような作業が多かったので、フライパンを軽々と振るといった技を見せるシーンは少なくて助かりました。

一番難しかったのは、包丁を研ぐシーンですね。普段から料理はするのですが、砥石で包丁を研ぐのは初めての経験でとても勉強になりました。包丁は立川の30年来の相棒ですから、そういう愛情が見えるように演じたつもりです。


結がした失敗は、きっと立川自身も経験してきたことなんじゃないかな

――立川は栄養士として職場にやってきた結を、初日から「うちに栄養士なんかいらん」と一方的に拒絶します。どういう思いがあったのでしょうか?

立川には立川なりのやり方があったからではないですかね。栄養士がいなくても、いままで自分のやり方でやってこられたという自負もあるし、舞台は平成ですが、立川には昭和の人間特有の「いっぱい食べて、体をでっかくする」みたいな考え方があったのでしょうね。だから、「栄養士ってなんや? こっちまで入ってくるな」みたいな感覚だったと思います。

――そんな立川も次第に結のことを認めていきますが、心境が変わったポイントはどこだったと思いますか?

特定のポイントがあるというより、結ちゃんにちょこちょこと言われることがボディーブローのように効いていったんじゃないでしょうか。味が濃いとか、脂っこいとか、立川自身もそれを口では否定しつつも、どこかで引っ掛かっていたと思うんです。

そういう時に結ちゃんの書いたレシピノートを見て、「なるほど、こういう考え方もあるのか」と感じたんだけど、それを職人気質が邪魔して素直に出せなかったのかなと。

――立川が結に日替わりメニューを考えさせたことが、結にとっては大きな成長のきっかけになったと感じました。結果的に結は失敗してしまったわけですが、そこには立川のどんな狙いがあったのでしょうか。

ちょっとずつ結ちゃんに影響されてきて、立川も彼女のやり方を見てみたかったんじゃないかな。ラードを使わないとか、今まで自分が作ってきたものじゃない新しいやり方で、食堂に来る社員さんたちの反応を見たかったんだと思います。

もし、結ちゃんが考えたメニューがうまくいっていたら、たぶんそのまま採用していたんじゃないですかね。立川にも、新しいものを取り入れたい気持ちがあったんだと思います。

――結は立川から“働くことの覚悟”を学んだ一方で、立川も結から学ぶことがあったんですね。

結ちゃんの日替わりメニューがうまくいかなかった時に、立川が「働くことは、金を稼ぐこと」と言うシーン(12月19日放送)はすごく緊張しました。

一度感情的になった後で、冷静になって淡々とセリフを言うのですが、あまり感情を出さずに、でも、思いはちゃんと伝えなければいけませんでした。立川がいつもふざけているようでいて、意外とちゃんとしているんだなというところを見せないといけないので、当たり前ですけど、真面目まじめに演じました(笑)。

でも、きっと結ちゃんがした失敗は、立川自身も経験してきたことなのではないかなと思うんです。


たった一人で熱唱した「15の夜」は本当に恥ずかしかったです(笑)

――結役の橋本環奈さんと原口役の萩原莉久さんとのシーンが多かったと思うのですが、撮影はいかがでしたか?

環奈ちゃんと萩原くんが古くからのお友達だそうで、すごく仲良くしていてリラックスした雰囲気だったので、僕も緊張せずに楽しく撮影できました。環奈ちゃんと僕はサウナ好きという共通点があったので、おすすめのサウナを紹介したりされたりして、サウナ話ですごく盛り上がりました。

――立川といえば、尾崎豊さんの「15の夜」をカラオケで熱唱したり、B’zの「ultra soul」を鼻歌で歌ったりと、表情豊かに歌うシーンが印象的でした。

「15の夜」を歌うシーンは、根本さんが僕を想像しながら書いてくださったのだと思います(笑)。正直、僕自身はそんなにこの曲に思い入れはなかったんですけど、根本さんが尾崎豊さんを大好きらしいんです。自分が好きなものを僕に歌わせるっていうのが根本さんらしいなと思いましたね。

――カラオケで熱唱するシーンの撮影はいかがでしたか?

そのシーンは、他のキャストのシーンがすべて終わった後、一人だけ残って撮影しました。スナックのカラオケみたいなセットを簡易的に組んでもらって、ミラーボールが回っている中で、僕がたった一人で歌うっていう……。しかも、1コーラスじゃなくて、1番をフルコーラスで……。とにかく恥ずかしかったですよ。

みんなに「今日は『15の夜』ですね。楽しみにしてます!」なんて言われたりして、プレッシャーもすごくありました。ちゃんと尾崎豊さんみたいな白いTシャツと革ジャンを着て、大勢のスタッフさんに囲まれながら、一人で歌いきりました。いや、でも、本当に恥ずかしかったです、あれは(笑)。

【プロフィール】
みやけ・ひろき

1968年1月14日生まれ。神奈川県出身。1988年より「劇団健康」(現:ナイロン100℃)に参加し、主要メンバーとして活躍。舞台のみならず、映画、ドラマなど幅広く出演する。パンクコントバンド「グループ魂」では、「石鹸」名義でドラムを担当。NHKの出演作には、大河ドラマ「新撰組!」「篤姫」「いだてん〜東京オリムピックばなし〜」、「大河ドラマが生まれた日」などがある。また、Eテレの「みいつけた!」では、イスの応援団長・みやけマンとして出演中。連続テレビ小説は「あさが来た」以来、2作目の出演。