神戸のさくら通り商店街で惣菜屋を営む佐久間美佐江は、明るく豪快な性格で、商店街の盛り上げ役。主人公の米田結(橋本環奈)と娘の菜摘(田畑志真)は同級生で、震災前はいつも、米田聖人(北村有起哉)が営む理髪店「バーバー米田」に商店街の仲間たちと集まって、おしゃべりを楽しんでいました。震災後は復興した商店街でパン屋を開き、神戸に戻って来た結たちをあたたかく迎えてくれました。
そんな美佐江を演じるのは、キムラ緑子さん。撮影現場の雰囲気や、ドラマで震災を描くことへの思いを聞きました。
美佐江はみんなの背中を押せる人。商店街にとって必要な存在です
――神戸編がスタートしましたね。美佐江たちがマシンガントークで米田家を出迎えてくれて、商店街のあたたかいムードが伝わってきました。
やっぱり商店街って、ご近所さんとの繋がりがすごく強いんですよね。みんなで一緒に助け合いながら商売をしているようなものだから、住んでいるだけの場所よりも一体感があるんでしょう。だから震災前も、「バーバー米田」にみんなで入り浸って、自分の家族と過ごしているみたいな居心地のよさを感じていたんです。
それに、みんな、米田家のことが大好きなんじゃないですか? 聖人さんの真面目な人柄とか、愛子さんの肝の据わったところとか、それが大好きなんだと思います。
――キムラさんは美佐江をどんな人物だと思いますか?
美佐江さんは阪神・淡路大震災で商店街が被害を受けた時にも、一番に店を再開してみんなを鼓舞しました。逆境に負けずに仲間の背中を押せる人なんでしょうね。そういう人って、グループの中に1人はいるじゃないですか。そんな人がいるかいないかで、そのグループのムードは変わるから、美佐江さんは絶対にあの商店街にとって必要な存在だと思います。
それに、私の経験から感じるのですが、震災でつらい思いをした人って本当に優しくて強くて元気な人が多いので、美佐江さんもまわりの人を幸せにしたいと思っているんだろうな、とイメージしています。
――ただ、明るく見える美佐江も震災を経験して、心の奥底にはいろんな思いを抱えていると思います。そういう役柄を演じることに難しさを感じましたか?
そうですね。きっと美佐江さんもいろいろあるんでしょうけど、脚本が登場人物たちを浮き上がらせてくれるので、私はあまり難しいことを考えずに演じようと心がけています。脚本に書かれていることを受けて、自分がどんな感情になるのか、それによって美佐江という人物が見えてくるといいのかな。
環奈ちゃん、かわいすぎるでしょ。内場勝則さんは笑いのプロ。私のツッコミもちゃんと受け止めてくれる
――主人公の結を演じる橋本環奈さんとは、3回目の共演だそうですね。橋本さんはどんな印象の方ですか?
かわいすぎるでしょ! 私、あの人の顔がすごく好きなんですよ(笑)。それでいて、カラッとしているし、なかなかの人です。だから、現場のみんなが環奈ちゃんのことを好きなんじゃないですかね。
女の子っぽい感じというより、シャキッとして男気がある人なので、一緒にいるとまわりがスカッとするというか。「はい、次行こう!」みたいなノリで、撮影していてすごく楽しいです。彼女がいると現場の元気が出るんですよ。
――商店街のメンバーが「ヘアサロンヨネダ」に集まるシーンはすごく楽しい雰囲気ですが、実際の撮影はいかがですか?
楽しいですね。みんな、いい人ばっかりなんです。高橋テーラーの要蔵さん(高橋要蔵)役の内場勝則さんも、福田整体院の福ちゃん(福田康彦)役の岡嶋秀昭さんも、穏やかで優しい人たち。
一緒に集まっても、何を言うでもなく、お茶を飲んでじっとしてるって、本当は夫婦くらいでしか成立しないと思うんですけど、それができる方々で。相性がいいのか、この人たちといるとすごく和むなって感じています。
――現場も役柄そのままの和気あいあいとした雰囲気なんですね。特に要蔵と美佐江のやりとりはまるで漫才のようで、2人のシーンを見るのが楽しみです。
内場さんは吉本新喜劇の元座長だけあって笑いのプロだから、アドリブで私が何をやっても内場さんがいれば、楽しいシーンになるんです。美佐江さんと要蔵さんとの関係性で、私が内場さんにツッコむことも多いんですけど、私はそういうのがあんまり上手じゃないので、もう好きなようにやらせてもらっています。
でも、それをちゃんと受け止めてくださるので、安心して演じられるんです。さすがって感じですね。要蔵さんはすごくさり気なく笑わせてくださるので、舞台で見せる内場さんの笑いがお好きな方も、いつもと違う内場さんが見られますから、楽しみにしてください。私が言うのもなんですけど(笑)。
阪神・淡路大震災の惨状は今でも忘れられません
――今作では、阪神・淡路大震災をかなり深く描いています。キムラさんは淡路島出身だそうですが、当時はどんな状況でしたか?
あの時は京都にいたんですが、淡路島が震源と聞いてすぐに実家に連絡したら、もうまったく電話が繋がらない状態で。被害の少ない地域だったので、夜には連絡がとれたのですが、短い時間でしたけど、ヤキモキしましたね。
震災の数日後に大阪で舞台の本番を控えていたんです。でも、喜劇だったこともあって、これは上演できないねっていう話をしていて。でも、来てくださるお客様もいるかもしれないし、劇場で募金を集めようということになって、やっぱり上演することにしたんです。
電車も動いていないので、客席は人がまばらなんですけど、それでも歩いて来てくださったり、なんとかしてたどり着いてくださった方がいらして。募金もかなりの金額が集まったことをすごく覚えています。それに、毎日のニュースや新聞で見聞きした惨状は、今でも忘れられないですね。
――喜劇の舞台はどんな反応でしたか?
すごく笑ってくださっていました。お客さまが盛り上げてくださるんですよね。必死で楽しもうとしてくださっているというか。お客さまがどんな事情を抱えていらっしゃるのかわからないですけど、劇場に来てくださるなら、私たちも精一杯のものをお渡ししたいと思って。
お客さまは力ずくで楽しむし、私たちは力ずくで楽しんでもらおうと思うし、変な一体感が生まれて泣きそうになりました。おかげで、この芝居をやってよかったなって。演劇なんてやっている場合じゃなかったんでしょうけど、なにかいいものも残ったんだと思います。
――そういうふうに実際に震災を身近に感じた経験がある中で、朝ドラで阪神・淡路大震災を描くと聞いたときはどう思われましたか?
ちょっと怖いなという気持ちがありました。怖いというか、難しいなって。実際に被災された方がどういう気持ちでご覧になるのかわからないですから。避難所のセットはすごくリアルだなと感じましたけど、私には「毎日の食べる物がない」っていう実感はどうしても湧かないし、撮影していてもすごくもどかしく感じていました。
見ている方も、ドラマで薄っぺらくやってもらっちゃ困ると思うかもしれないし、見なくなる方もいるかもしれない。どんな反応があるかはわからないけど、役者は脚本を読んで想像をするしかありません。でも、被災した方の気持ちを全部理解することはできないと感じながら演じることは、すごく大事なんじゃないかなと思うんです。
いろんなことを知って、想像して、なんとかして被災した方々の気持ちをうつしとれないかと悩みながら、頑張って演じていきたいなと思っています。だから、制作陣は朝ドラですごいことに挑まれたなと思いますし、この物語にどういうふうな決着をつけていくのか、私自身も楽しみにしています。
きむら・みどりこ
1961年10月15日生まれ。兵庫県淡路島出身。主な出演作に、映画『波紋』『大名倒産』、ドラマ「VIVANT」、舞台『パラサイト』『トッツィー』など。NHKでは、「白い濁流」「あなたのブツが、ここに」などに出演。連続テレビ小説「まんてん」「純情きらり」「ちりとてちん」「ごちそうさん」「半分、青い。」に続き、6作目の出演。また、「グレーテルのかまど」(かまどの声)にレギュラー出演中。