2021年からBSでスタートし、ことし5月から総合での放送が始まった、武術トークバラエティー「明鏡止水 武の五輪」。
武術の心得がある岡田准一と、格闘技通のケンドーコバヤシがMCをつとめ、武術の達人たちが熱いトークと秘伝の技を披露、スポーツの神髄に迫る。

今回のシリーズは“運動”をテーマに、さまざまな競技を武術ならではの身体操作の視点で深掘りする。MCを務める2人に、武の達人たちとの収録エピソードや番組の見どころを聞いた。


――2021年から放送スタートした「明鏡止水」ですが、今回の新シリーズへの意気込みをお願いします。

岡田 「明鏡止水」は、武術や格闘技という文化を通して、体を動かすことの魅力を再発見してもらう番組です。本来、体を動かすことは教育だと考えているので、僕がこれまで実践してきた武術や格闘技から学んだこと、経験してきたことを自分の言葉で伝えていきたいと思っています。

ケンドーコバヤシ 岡田君のおっしゃる通り、「明鏡止水」には教養番組の要素も詰まっています。武術をいろいろな角度から分析しつつ、僕らの生活にもタメになる情報もお届けしているので、ぜひメモを用意しながら見ていただきたいですね。

すでに僕は、新シリーズの第1回(5月22日放送)「二足歩行を極める」で学んだ歩き方は、全ての体の使い方に通ずるものがあるということで、ふだんから実践するようにしています。

岡田 ことしはオリンピックイヤーということもあり、新シリーズではいろいろな「スポーツ」を武術ならではの身体操作の視点で分析しています。実は、武術の身体操作とスポーツの身体操作にはすごく親和性があって。

武術における複雑な体の使い方や動かし方は、意外と皆さんとなじみのあるスポーツともつながる部分がたくさんあるので、番組を見れば親近感を持っていただけるはずです。

6月12日(水)放送の第4回のテーマは「拳を打ち抜け」。3階級を制覇したWBC世界バンタム級王者の中谷潤人がミット打ちを披露。

ケンドーコバヤシ こんなことを言っている岡田君ですが、これから放送される「スポーツクライミング」や「パルクール」は、きっと岡田君自身が映画の演出やアクションにも生かせると思って、この競技をねじ込んできたんじゃないかなと思っています(笑)。

岡田 そうですね、ロープさえあれば僕も得意な競技なので(笑)。この回は「重力を操る」ことがテーマになっているので、そこに武術がどう絡んでくるのか注目していただきたいです。

2021年の放送開始以降、この番組にはコアなファンがついてくれているので、その期待を裏切れないなという危機感も徐々に出てきましたね。

――「明鏡止水」の面白さはどんなところだと思いますか。

岡田 ゲスト出演される武の達人やアスリートの方たちが、今まで関わりのなかった方たちをリスペクトする姿が本当にすばらしいなと思っています。他の方が実践する体の使い方や動かし方を目の当たりにして、「それはすごい!」「私もこうやっているんだ!」と共感しながら楽しそうに話してくれるんですよ。

好きなことを話すときってこんなにも生き生きするんだなと改めて思いましたし、僕もそこに加わってつい熱く話してしまうんですが、その時間は本当に楽しいですね。熱くなりすぎて話が脱線しそうになると、ケンコバさんがちゃんと止めてくれるので、そこは助かっています(笑)。

ケンドーコバヤシ すぐに逸脱しますからね(笑)。ゲストの皆さんは、その道を極められた達人ばかりで、収録の合間の姿を拝見すると、本当に人間ができた方たちなんだなと感服しております。

礼儀礼節がしっかりしているのはもちろん、いろいろ質問すると物腰柔らかく丁寧に教えてくださる、すばらしい方たちが多いです。

あと驚いたのは、武の達人たちがスタジオのセットに置かれた武道場に上がったときの殺気ですね。放送コードに引っかかるのでは?と思うくらい、とてつもない殺気を出す方もいますから(笑)。ある意味、そこも見どころだと思います。

岡田 この番組では「武術翻訳家」という肩書で出していただいていますが、熟練の達人たちが実践してきた技や動き方など、ご本人たちも言語化してこなかった部分を僕が分析して、言葉で伝えられるのは非常に面白いなと感じています。

天才と呼ぼれる方たちが積み重ねてきた技術には奥深いものがあるので、それをわかりやすく伝えられたら、番組を見ている方たちももっと面白く感じてもらえるのではないかと思っています。

――「武術翻訳家」として心がけているポイントはありますか。

岡田 言葉で表すのは難しいんですけど、視聴者の方が「へえ、なるほど!」と思ってもらえるような表現を心がけています。

例えば、武道において人間が組み合って投げる場面で、「相手がここに重心を置いているから、片方の手を使えなくして、こっち側に投げているんだ」と丁寧に伝えることによって、動きが速すぎてわからなかったことも理解できるようになりますよね。

昔は、武術は秘匿とされ、なかなか教えることがなかったそうなんですが、今の武術家の皆さんは難しいこともすぐに体現してくれますし、それを言語化して伝えるのを許してくれる方が多いので、誰もが理解できるようにわかりやすく伝えることが大事だなと思って言葉を選んでいます。

ケンドーコバヤシ 僕らは普通に使っていますが、そもそも「武術翻訳家」なんていう職業はないですからね(笑)。でも、この番組における岡田君の役割を表現するには最高の言葉だと思います。「ここでひと言ほしい」というタイミングでちゃんと翻訳してくれますし、とにかく解説もわかりやすいですからね。

――今回のシリーズで印象に残っている回を教えてください。

ケンドーコバヤシ 僕はボクシングの回ですね。何かに特化している格闘技は見応えがあるということを岡田君も話していて。「ボクシングはパンチだけの攻撃に特化している格闘技だから、パンチの進化がすごい!」と解説してくれました。

また、オリンピックなどのアマチュアボクシングと、プロボクシングの違いもわかりやすく教えていただいたので、非常に興味深かったです。

岡田 僕はどの回も印象深いですね。各界で活躍されてきた達人たちが、毎回バランスよく集まるとすごく見応えのある番組になっているなという実感はあります。ただ、先日放送された柔道の回を見たら、めちゃくちゃカットされていました(笑)。2時間の収録だったので、しかたないんですけど……。

ケンドーコバヤシ 台本通りに進めても、30分の放送時間には入りきらないボリュームですから。でも、柔道の回は野村忠宏さんの投げは圧巻でした。あんなに近い距離で見られたのは役得ですよ。

第1回の歩行に関しては、僕も実践していると言いましたが、「明鏡止水」は学校教育にも生かせることがたくさんあると思うんですよね。

岡田 そうですね。今は、作法や舞といった、かつての“たしなみ”と言われるものを習う機会がとても減っているので、それを学べるのも「明鏡止水」の魅力だと思います。

最初はマニアックすぎて、チャレンジ枠で制作してきたこの番組も、おかげさまで少しずつ認知度が上がってきました。周囲でも「明鏡止水、好きで見てます」と言ってくれる人が増えたのがうれしいですね。これからもどんどんコアな番組を作っていけたらと思っています。

【プロフィール】
岡田准一(おかだ・じゅんいち)
1980年生まれ、大阪出身。2014年の大河ドラマ「軍師官兵衛」では主人公・黒田官兵衛を好演。NHKでは、大河ドラマ「どうする家康」織田信長役、「ザ・プロファイラー~夢と野望の人生」MCなどに出演。

ケンドーコバヤシ
1972年生まれ、大阪出身。お笑い芸人のほか、俳優やMCとしても活躍。NHKでは「歴史秘話ヒストリア」「あさイチ」などに出演。

明鏡止水 武の五輪

第4回「拳を打ち抜け」
6月12日(水) 総合 午後11:00~11:29

岡田が「絶対危険領域」と呼ぶ、近い間合いでの「原初的戦い」である「ボクシング」。すでに紀元前7世紀には古代オリンピックでボクシングが競技化され、拳に革ひもを巻いて殴り合ったという。革ひもがグローブに変わり、ルール、技術が洗練された現代のボクシングの最高峰のパンチと防御テクニックを、プロボクシングの世界チャンピオン、オリンピックの金メダリストが披露。そして、武器術・サイの使い手で沖縄空手の達人と、中国武術散打の世界王者で古武術と合気柔術を修めた知る人ぞ知るつわものが、ボクシングとは異質の「武器の理合い」を素手に活かした強烈な打撃で競演。それぞれの威力の秘密をさぐる。
出演は3階級を制覇したWBC世界バンタム級王者の中谷潤人、東京オリンピック・ボクシング女子フェザー級金メダリスト入江聖奈、沖縄拳法空手道六代目師範・山城美智、内動武術・阿吽会創始者の阿久澤稔、俳優の山本千尋。

「明鏡止水 武の五輪」NHK公式サイトはこちら