新・介護百人一首

「ふるさと」を
口遊くちずさはは
老い深む
眼裏まなうらに青き
古里あるや

鹿児島県田中洋子 71歳)

愛知県 中村ミチ子

詞書

晩年、めしいた目で小さな声でハミングしていました。古里から遠く離れた夫と私の住む町に来ていました。切ない思いで聴いていました。

感想コメントをいただきました

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

人間は目が見えなくなったり、住む場所が移ったり、思ってもみない人生になることがある。それをその人がどう思っているのかは近い関係の人でも聞くのは難しい。人は全ては口にしないし、そもそも自分すら気づかない感情もある。意外と楽しんでいるところもあるかもしれない。ふるさとに帰りたい気持ちもあるかもしれない。感情は一つではない。「青き古里」という言葉で、老いた人に潜む膨大な記憶と感情が、青い豊かな森のように見えてきた。

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

脳科学者。2007年東京工業大学総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(学術博士)。専門は自意識と感情。2015年に同居の母親がアルツハイマー型認知症と診断される。母親の「その人らしさ」は認知症によって本当に変わってしまうのだろうか?という疑問を持ち、生活の中で認知症を脳科学者として分析、2018年に『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社)を出版。認知症になっても変わらない「その人」があると結論づける。NHK「クローズアップ現代+」、NHKエデュケーショナル「ハートネットTV」に出演。2021年には、母親に限らず、認知症についてのさまざまな「なぜ?」に対して脳科学的に解説する『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』(中央法規。ソーシャルワーカー・永島徹との共著)を出版。現在、金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。