新・介護百人一首

だんだんと
体が壊れて
いくと言う
老いたる母の
湿布をかえる

神奈川県大野奈美江 69歳)

大分県 吉﨑ゆみ

詞書

母は九十代の半ばを過ぎ手首や背中、腰などが常に痛むようになり湿布が欠かせません。背中の湿布は「この辺?」と聞きながら娘の私がはります。

感想コメントをいただきました

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

90年以上も取り替えのきかない一つの体を酷使されてきて、湿布やマッサージなどどんな手段を講じてもなかなか痛みが和らがないのだろう。対策が症状の悪化に追いつかず、体が壊れていっている感じがする。それを泣き言としてではなく、「壊れちゃってねえ」と現状認識の言葉として発する忍耐強いお母さまを想像した。娘さんはそれでもないよりは楽なはずだからと湿布を貼る。やはり心配に耐えている。ものすごく優しい心のやり取りが起こっている。

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

脳科学者。2007年東京工業大学総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(学術博士)。専門は自意識と感情。2015年に同居の母親がアルツハイマー型認知症と診断される。母親の「その人らしさ」は認知症によって本当に変わってしまうのだろうか?という疑問を持ち、生活の中で認知症を脳科学者として分析、2018年に『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社)を出版。認知症になっても変わらない「その人」があると結論づける。NHK「クローズアップ現代+」、NHKエデュケーショナル「ハートネットTV」に出演。2021年には、母親に限らず、認知症についてのさまざまな「なぜ?」に対して脳科学的に解説する『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』(中央法規。ソーシャルワーカー・永島徹との共著)を出版。現在、金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。