「男たるもの、一国一城の主になってこそだろ!」と大文字屋からはっぱをかけられた蔦重。初恋の相手、瀬川と一緒に店をやる夢はかないませんでしたが、祝新装開店! ついに吉原大門前に自身の独立した店舗「耕書堂」をオープンすることに。この店をさらなる足掛かりにして、蔦重は江戸のメディア王への階段を勢いよく上っていきます。

今回の「『べらぼう』の地を歩く」は台東区千束に「耕書堂」跡地を訪ねます。

※この記事は、NHK財団が台東区と一緒に制作するPR冊子「べらぼう+台東区」のための取材などをもとに構成したものです。


吉原大門の前、十間道じっけんみち沿いに義兄・次郎兵衛じろべえの茶屋がありました。蔦重がその軒先を借りて書店兼貸し本屋「耕書堂」を開いたのは、安永元年(1772)、蔦重23歳のころ。蔦重はこの店から遊女を花に見立てた『ひと千本せんぼん』や朋誠堂ほうせいどうさんによる『しょう妃地理記ひちりき』などを出版し、吉原のPRに大きく貢献します。

「よし原大門」の看板

吉原遊郭、唯一の出入り口「吉原大門」があった場所はこの看板で知ることができます(台東区千束4-15付近)。(※其の一歩

蔦重の義父、姓は「喜多川」だった

蔦重は両親が離婚し、数えで8歳のときに喜多川姓の親戚にあずけられています。義父は吉原で茶屋を営んでいて、その屋号が「蔦屋」でした。

資料提供:大屋書房 *赤丸は編集部

写真は、蔦重が出版した『目千本』の奥付おくづけ。通常は「蔦屋重三郎」と書かれているのですが、上の写真は「喜多川重三郎」とあります。今年になって、神保町古書街にある江戸時代の書物を扱う書店で見つかったものです。

通常はこのように「蔦屋重三郎」と書かれている

五十間道に開店した耕書堂

念願の独立した店舗を構えたのは、耕書堂を開いて5年が経った安永6年(1777)の冬、蔦重が27歳のころ。開店資金を援助してくれたのは、なんと、義兄の次郎兵衛。ドラマでは中村蒼さん演じる、のんで、ちっとも働かないけれども愛すべき人物として描かれていますね。

茶屋を営んで貯めたお金を蔦重に渡したのでしょうか。意外だけど、さもありなん、という感じがします。耕書堂の場所も次郎兵衛の茶屋の数軒隣りでした。血はつながっていないけれども、しっかりとした絆で結ばれた、仲の良い兄弟の姿が浮かび上がります。

『吉原さいけん』(安永8年 [1779])国立国会図書館デジタルコレクションを改変 *青枠、赤枠は編集部 

蔦重が独立した店舗「耕書堂」を構えたのは大門のすぐ前、赤で囲んだ場所です。「細見板元本屋 つたや重三郎」とあります。青で囲んだのが「つたや次郎兵衛」の茶屋。

五十間道(台東区千束4-11付近)写真提供 :台東区

写真は現在の十間じっけん道の様子。直接吉原の様子が見えないよう、S字のカーブになっている道の形はそのままですね。今は民家が立ち並んでいますが、蔦重がいた時代には両側に店がひしめき合っていました。「耕書堂」があったのは通りの左側です。


『伊達模様見立蓬莱 2巻』,刊,安永9刊. 国立国会図書館デジタルコレクション

蔦重はこの店を拠点に、浄瑠璃の観劇ガイドブックや稽古本などを続けざまに出版して評判を高め、さらには、「黄表紙」や「狂歌本」でヒットを連発します。
写真は蔦重が最初に出した黄表紙とされる『伊達だてようたて蓬莱ほうらい』、巻末の1ページ。「耕書堂」の広告になっています。人目をひくように本の名前が短冊に書かれていますね。

一国一城の主となった蔦重は、いよいよヒットメーカーとしての地位を確立してゆきます。


さいごに、耳寄り情報です。
現在の台東区千束3丁目、吉原遊郭の一角、「九郎くろすけ稲荷いなり」があった場所に、新たに「史跡説明板」が設置されていました。ドラマの中で蔦重と瀬川が、おきつね様に見守られながら、ふたりだけの時間を過ごした思い出の場所です。

江戸時代、このあたりは「京町」と呼ばれていた 写真提供:台東区

台東区千束・「吉原大門跡」へは東京メトロ日比谷線「三ノ輪駅」より徒歩12分

蔦屋重三郎を知る ~蔦重ってどんな人?~|蔦重ゆかりの地 台東区
べらぼう 江戸たいとう 大河ドラマ館|蔦重ゆかりの地 台東区
※ステラnetを離れます

(取材・文 平岡大典[NHK財団])
(取材協力 台東区、台東区立中央図書館、大屋書房)  

主要参考文献
増田晶文『蔦屋重三郎 江戸の反骨メディア王』新潮選書
鈴木俊幸「陽のあたる戯作:蔦屋重三郎の戯作出版をめぐって」雅俗の会
安藤優一郎『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』PHP新書


この記事は、NHK財団が台東区と一緒に制作するPR冊子「べらぼう+台東区」のための取材などをもとに構成したものです。
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