11月21日(木)、教育コンテンツの国際コンクール「日本賞」(NHK主催)の授賞式が行われました。
(当日の様子についてはこちらの記事をご覧ください)
この「コンテンツ企画部門」で南スーダン公共放送(以下「SSBC」)の記者レイラ・オスマン・カミスさんが、優秀賞を受賞しました。
※日本賞の企画部門とは
日本賞には作品コンペにあたる「コンテンツ作品部門」(幼児・児童・青少年・一般の4つに分かれる)と「コンテンツ企画部門」がある。コンテンツ企画部門は、予算・機材など制作条件が十分でない国や地域の制作者たちへの支援を目的としている。最終選考では「こんな番組・作品を作りたい」ということをプレゼンし、受賞者には制作費の一部が提供される。
公共放送のノウハウを伝える
今回、優秀賞を受賞したレイラさんが働くSSBCでは、NHKインターナショナル(現NHK財団・国際事業本部)がJICA・国際協力機構の一員として、職員の人材育成や組織強化を支援し国の民主化を進めるプロジェクトを10年以上にわたって続けています。
支援の様子についてはこちらをごらんください。
2013年に始まった南スーダンの放送局支援
私たちとレイラさんとの出会いは、2013年にさかのぼります。当時「世界で最も新しい国」として南スーダンが独立し、2年がたった頃。国営放送から公共放送になったばかりのSSBCに対して、JICAの「公共放送局支援プロジェクト」の活動が始まり、私たち財団メンバーも南スーダンに入りました。記者のレイラさんは、報道のイロハを学びながら、番組作りにも興味を持ち、提案を積極的に書いていました。レイラさんの初めて制作した番組は、現地で少しずつ成長していた女性によるビジネスについてでした。
当時、財団の講師が伝えた内容の中で、NHKの取り組みとして「日本賞」も紹介しました。現地の職員に少しでも将来への希望を感じてほしいと考えたからです。
内戦の危機と将来について悩むレイラさん
2016年、南スーダンでは内戦の危機が高まります。JICAの支援事業が現地では困難になり、かろうじて第3国研修(ウガンダ、ルワンダ、ドバイなど)という形で継続されましたが、支援業務は限定されたものになりました。
一方、レイラさんは将来のことを考え、ウガンダの大学での学び直しを決意し、しばらく放送現場を離れます。
2022年、学部を無事卒業したレイラさんが今後のことを思案していたところ、NHKインターナショナル(現NHK財団)によるSSBCでの支援業務が再開されたことを知りました。また、プロジェクトメンバーの講師も変わっていないことがわかり、レイラさんは南スーダンに戻ってきました。
記者としてレイラさんは日々ニュース業務に携わりながら、ドキュメンタリー制作も再開しました。翌年、彼女は現地の野球チームに関するドキュメンタリーを制作し、南スーダンのジャーナリスト連盟(The Union of Journalists of South Sudan)からUJOSS賞を受賞しました。
日本賞に初めてエントリー
「今かもしれない」。
レイラさんは、プロジェクトメンバーとともに日本賞の「企画部門」について議論を始めました。「盲目のミュージシャンを追った番組を制作してみたい」温めていた企画で今年5月、日本賞にエントリーしました。
企画のタイトルは、INTO THE LIGHT(光の中へ)。内容は、長い内戦の中で視力を失ったミュージシャンを主人公に、障害のある人々が直面している様々な問題と、その問題に音楽活動を通してどのように取り組んでいるかを描くものです。障害のある人たちには平等な社会参加を享受する権利があり、それは社会にとっても有益であることを伝えようとしました。
レイラ、ファイナリストとして東京へ!
8月7日、日本賞「企画部門」のファイナリストの発表がありました。レイラさんは6人のうちの1人に選ばれ、東京で行われる最終審査でプレゼンテーション(以下、プレゼン)をすることになりました。
審査委員の前で自分の企画をプレゼンするのは11月。日々の業務の合間に準備を始めました。ストーリー展開に弱い部分があり、何度も主人公のミュージシャンに話を聞くなどして、企画内容をブラッシュアップしていきました。
11月14日、レイラさんは、現地から2日かけて日本にやってきました。2014年夏にJICAの研修で来日して以来、東京は2度目です。ただ、“寒い”日本は初めて。長旅の疲れもあり、レイラさんは風邪を引いてしまいました。財団メンバーは、厚手の衣類や消化の良い食べ物、風邪薬などを急きょ集め、レイラさんに提供しエールを送りました。レイラさんは休息をとりながら、プレゼンの練習を繰り返しました。
いざ、日本賞へ! 全力で臨んだプレゼン本番
そして迎えた11月19日のプレゼン本番。レイラさんは堂々と7分の制限時間をいっぱいまで使って思いの丈を伝えました。後に続く審査員による質疑応答は予定の10分を超え、印象に残る企画となりました。最終審査は、世界各地から集まった放送局関係者、制作者、メディア研究者などから成る12か国12人の本審査委員によって行われました。
11月21日の授賞式。午後4時半前。国際事業本部内にチャットメールが飛び交いました。
企画部門の受賞結果が発表されたのです!
優秀賞
INTO THE LIGHT Leila Osman Khamis
レイラさんは、当初、賞はおろかファイナリストになるのも無理ではないかと思っていたそうです。今回の受賞は、SSBCはもちろん、南スーダンに自信と誇りをもたらすものと話しています。
2013年、南スーダンで始まった放送局支援。10年あまりたって、レイラさんが日本賞企画部門・優秀賞受賞という一つの形になりました。
レイラさんは、この受賞を経て、来年9月30日までにこの企画の完成を目指すことになります。どんな番組になるのか、私たちも楽しみにしています。
(取材/文 国際事業本部 塩津和已)
【関連番組の放送予定】
日本賞特番
「未来を創る世界の教育コンテンツ 日本賞2024」※グランプリ日本賞を含む4作品を放送予定。
12月21日(土) Eテレ 午後2:00~4:30
どーも、NHK 世界唯一「日本賞」教育コンテンツの国際コンクール
※受賞作品や映像祭の様子を特集します。
12月8日(土) 総合 午前11:00~11:25