どこかの町の普通のおうちで暮らしている、ちょっぴり不思議な住人たちが、うれしいとき、楽しいとき、リズムにのっておどりはじめることで、全国の子どもたちの心をつかんで離さないEテレのミニアニメ「チキップダンサーズ」。その「♪アメ~ジング」な魅力を声優・花江夏樹の言葉で深掘りしていく特集記事の後編は、アフレコ収録の舞台裏を紹介!
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キャラクターの多さで感じる難しさ

「チキップダンサーズ」の作品テーマは、「からだがうごくと、こころもおどる♪」。「ほねチキン」と仲間たちは、いろいろなシチューションの中で、ときに楽しく、ときに全力を尽くして目の前の状況と向き合っていく。花江はそういったテーマに寄り添いながら、多彩なキャラクターの見た目や性格を考え、どんな声の表現が最適なのかを常に模索しているという。それでも、演じるキャラクターの多さに難しさも感じているようで……。

やっぱり、自分の声の種類、バリエーションが減っていくんですよ。例えば、「スキップガエル先生」は(声色を再現しながら)“こんな感じのトーン”で演じていたのですが、「ぎゅうにゅうアイス」が少し似たトーンなんですよね。カエル先生は中性的な、すこしうねるような感じで、ぎゅうにゅうアイスは正統派で、青年、爽やかな感じをイメージしてやっているのですが、気を抜いてしまうと、この2つのキャラクターが一緒に聞こえてしまうこともあるので、そこがちょっと難しいなと思っています。

僕自身は、こういったキャラクターの声を、自分の地声とは全く違うように演じてきた経験はそれほど多くなくて、――アニメ以外の、ゲームだとたまにあったのですが ――今までは、できるだけ地声でやりたいと思っていたんですね。やっぱり地声は、いちばん出しやすいし、自分の気持ちいいトーンで、無理なく響かせることができるから。キャラクターの見た目と自分の地声が合わないときに、無理に変えてもキャラクターにぴったりの地声の人には、絶対勝てないと思っていました。

なので、どんどんキャラクターが増えていって、「ああ、今度はどうしよう……」と(笑)。ただ、その難しさの中にも楽しさがあるし、それはそれでいい勉強になっていますね。声の出し方のアイデアのひとつとして、「昔、あんなキャラクターを演じて、こうしうしゃべり方をしたときにハマったな」ということは覚えているので、それを今回のキャラクターに組み替えて採用しているところもあったりします。

ⓒSan-X/チキップダンサーズおどるん会

実は、こういった「ザ・キャラクター」という感じの、ちょっとデフォルメしたお芝居は、昔は自分の中ではしっくりきていなかったんです。いわゆるアニメ的な誇張したしゃべり方に、違和感を持っていた時期があって。例えば、人が振り向くときには、実際には何も声を出さないじゃないですか。でも、アニメだと「っっ」とか「ふっ」みたいな息が入る。なぜだろう?みたいなことを思っていたんですよ。

それが作品が持っている性質だったり、作品の伝えたいことによって変わってくることは、わかってはいましたが、自分の中では不自然さが拭えなくて。それでも仕事をしていく中で、デフォルメも表現のひとつであることを実感するようになって、それをすごく求めてくれる作品や現場もあるので、今では苦手意識を持たなくなって、ちゃんと向き合っていこうという気持ちに変わりました。

また、花江と同じく何役も演じている石川由依(以前掲載したインタビュー記事は、こちら)については、これまでにも共演を重ねていることから、演じるときに安心感を感じているという。

石川さんとは何度も共演させていただいて――だいたいは、シリアスな作品でしたが――、セットというか、ペアになるような関係性のキャラクターが多かったですね。なので、「また、この2人だ」とうれしく思いました。ご本人が人間的にとても穏やかだし、すごく優しくて、魅力的な方というのがまずあって、さらにお芝居をしていて安心感があるというか。「石川さんなら、こうくるだろうな」とか、「ちゃんと(こちらの芝居を)受けてくれるだろうな」とか、そういう安心感があって、すごくやりやすかったです。

ⓒSan-X/チキップダンサーズおどるん会

子どもたちの信頼感があるからこその3期

多くの視聴者に愛されて、新キャラも登場し、「楽しさも、もりもり増量!」している「チキップダンサーズ」第3期。新たな声の表現を駆使して作品作りに向き合っている花江に、今期の見どころを聞いてみた。

1期、2期は、日常生活のスタンダードなものを題材にしたお話が多かったのですが、だんだん回が進んでいくと、「あ、今回は、こういうものを題材にした話なんだ」と思うエピソードが増えてきたような印象を受けています。

3期では「工事現場の音に合わせておどる話」など、おもしろさが子どもたちにちゃんと伝わるかな?と思えるところまで題材になっています。でも子どもたちって「えっ、それ、どこで覚えてきたの?」というものもしっかり覚えて、自分のものにしているものですよね。そういう視聴者、子どもたちへの信頼が、回を重ねるごとに伝わってくるように感じています。そういう意味で、3期は、見てくださっている人の感じ方、発見が、より豊かになると信じていますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。

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花江夏樹(はなえ・なつき)
1991年6月26日生まれ、神奈川県出身。2011年に声優デビューして、数多くの作品に主演。大ヒットした「鬼滅の刃」シリーズでは、主人公・竈門炭治郎の声を担当している。NHKでの出演は「ピアノの森」雨宮修平役、「進撃の巨人」ファルコ・グライス役ほか。

「チキップダンサーズ」(3期)
9月25日(月曜)から毎週月曜 Eテレ 午前8:45~8:50

監督:ラレコ
脚本:田辺茂範、ラレコ
ダンス振付:康本雅子
主題歌:「ボーン! ボーン! ボーン! 」作詞・作曲・うた/弓木英梨乃

取材・文・撮影/銅本一谷