新・介護百人一首

叔母からの
届きしはがき
千余通
中身は同じ
迎えに来てと

奈良県中村宗一 79歳)

奈良県 中村宗一

詞書

面会時に、宛名を書いたはがきを五十枚渡していました。日に一枚、日に二枚届くこともありました。あの地震の最中に看取みとりも経験いたしました。十年程の長い施設の暮らしに悲しかったと思われますが、私が、元気な時でよかったと悔いはありません。

感想コメントをいただきました

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

同じ内容のはがきが、日に複数届く。これほど気持ちが伝わることはないだろう。会いにはなかなか行けないから、行くたびに五十枚も宛名を書いて用意する。それが繰り返されて千枚以上。なかなか行けないと言っても何十回と会いに行って、お互いに力を尽くしたことがうかがえる。こんなコミュニケーションもあるんだと思った。相手がしてほしいことに100%応えるのは無理だし、応えたとしたらそれは言いなりになることかもしれず、本当のコミュニケーションにはなっていないのかもしれない。

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

脳科学者。2007年東京工業大学総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(学術博士)。専門は自意識と感情。2015年に同居の母親がアルツハイマー型認知症と診断される。母親の「その人らしさ」は認知症によって本当に変わってしまうのだろうか?という疑問を持ち、生活の中で認知症を脳科学者として分析、2018年に『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社)を出版。認知症になっても変わらない「その人」があると結論づける。NHK「クローズアップ現代+」、NHKエデュケーショナル「ハートネットTV」に出演。2021年には、母親に限らず、認知症についてのさまざまな「なぜ?」に対して脳科学的に解説する『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』(中央法規。ソーシャルワーカー・永島徹との共著)を出版。現在、金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。