新・介護百人一首

ベッドにて
父の背中に
背をあてて
呼吸を感じ
涙あふれる

静岡県杉山泉 56歳)

愛知県 山本美優
愛知県 和田梨央
愛知県 後藤尚耶

詞書

夜になると、父の呼吸が心配で父のベッドに潜り込み、自分の背中を父の小さく丸まった背中にあて、呼吸を感じながら一緒に寝、涙あふれ出した日々を思い出します。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

背中と背中をあてて、伝わってくるその呼吸に、確かな生命の存在を感じる。人間の脳にとっては、身体と身体のつながりが重要で、そのふれあいを通して相手の心をしっかりと受け止めることができるのです。背をあてられたお父さまも、背中を通して、温かい気持ちをしっかりと受け止めていたことでしょう。背中の温もりが、大地の慈しみ、大海原のうねりといった
命のふるさとにつながっていくかのようです。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。