新・介護百人一首

絞り出す
声で歌った
だいじゅ」よ
途切れ途切れに
苦しみながら

北海道上原詩穂子 71歳)

詞書

母は女学校で覚えた「菩提樹」が大好き。私と二人でよく歌っていた。私が歌い出すとすぐに一緒に歌っていた。
だんだんに声を出せなくなった母は力をふり絞って歌ってくれ、この時が一緒に歌った最後になった。

感想コメントをいただきました

野村正育(のむら・まさいく)

なつかしい思い出に満ちた女学校時代、お母さまはシューベルトの歌曲に出会い、歌い続けてこられたのでしょう。母となり幼い娘に何度も歌って聞かせ、娘が成長してからはともに歌ってきた愛唱歌『菩提樹』。時は流れ、つややかな声の響きはいつしか失われ、呼吸も苦しい歌いぶりには切なさがつのります。「冬の旅」の終着点で娘さんの歌声に支えられての絶唱。歌詞の締めくくり「ここに幸あり」は、お母さまからの感謝のことばにも聞こえます。

野村正育(のむら・まさいく)

アナウンサー。NHK放送研修センター所属。滋賀県出身。「おはよう日本」「ニュース7」など、ニュースや報道番組を中心にキャスターを担当。現在「正午のNHKニュース」「NHKきょうのニュース」(ラジオ第1)キャスター。