聞き手 佐治真規子
認知症に向き合いながら働ける
——ハリーさんは今、認知症に関する取材をされていますよね。
ハリー ある介護施設では、利用者1人1人に仕事を与えていました。例えば生け花が得意な方に、施設で飾るお花のデコレーションを任せると、責任感が生命の炎になって、その方がすごく元気になるんですよ。
また、ある介護施設の中には子どものための駄菓子屋があって。店員役は施設を利用している高齢者なんです。店に来た子どもたちと触れ合うとみんな元気になるんですよ。
——不思議ですよねえ。
ハリー お話しした方の多くは受け答えが活発で、認知症と向き合っている方だということを忘れました。「認知症と診断されたら人生終わり」と感じる方も多いかもしれませんが、そうではありません。僕の父親はめちゃくちゃ元気というわけではなかったですが、診断から10年たっても力強く生きてきました。
いちばん伝えたいのは、認知症と向き合うようになっても仕事はできるってことです。もちろん前ほどできないところもあるかもしれませんが、できることだってたくさんある。実際、認知症が発症したあとも仕事をしている方はたくさんいらっしゃいます。
——2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるといわれています。もはやマイノリティーではありませんね。
ハリー これから認知症と向き合う方が増えていきます。認知症とは何か、向き合うことでどう人生は変わるのか、できることは何かなどを10代のときから認識できるよう、学校のカリキュラムに加えるといいと思います。
僕も年を取れば、認知症もしくは何らかのトラブルと向き合わなきゃいけなくなる。もし明日そうなったら、自分に何ができるのかを日記に文章で書き留めて「こうなりました」と普通にメディアで話します。それで仕事がなくなるかもしれませんが、一方でサポートしてくれる人もたくさん現れるでしょう。
そして認知症と向き合うことになったとしても、僕はできるだけ体を動かしていたいです。なんならフルマラソンも(笑)。そうやって家に自分を閉じ込めなきゃいけないと思ってる当事者の方々にも社会の一部としてまだ機能できると分かってほしいです。
支える人自身が、自分を最も大切に
ハリー 認知症と向き合うようになると、介護施設の介護福祉士やケアマネージャーなどの方々にお世話をお願いすることになります。コロナ禍の中で頑張って命をつないでくれた彼らをもっと称賛すべきですし、日本社会全体で支えるべきだと思ってます。
——本当にそうですね。
ハリー 日々認知症と向き合う方を支える皆さん、本当にありがとうございます。でも自分を最大のプライオリティー(優先順位)にしないといい介護、いい介助はできません。ご自分のケアの重要性も忘れないでください。
——今後、どんなお仕事をしたいですか。
ハリー 微々たる力かもしれませんが、認知症やヤングケアラー、終活などについて、自分が今、五感を通して感じていることを伝えて、社会をよい方向に持っていきたいです。
最愛の父・ヘンリーさんの容体が心配な状況の中で、インタビューに応じていただいて本当にありがとうございました。「〝認知症と向き合ってる人〞と表現したい」という言葉は心に深く響きました。これからもヘンリーさんと認知症のこと、伝え続けてください。
※この記事は、2022年4月12・19日放送「ラジオ深夜便」の「最愛の父から学んだこと」を再構成したものです。
(月刊誌『ラジオ深夜便』2022年9月号より)
購入・定期購読はこちら
12月号のおすすめ記事👇
▼前しか向かない、だから元気! 池畑慎之介
▼闘う現代美術家 村上隆の世界
▼毎日が終活 菊田あや子
▼深い呼吸で心を穏やかに 本間生夫 ほか