2021年4月4日に95歳で亡くなったはし​田​壽​賀​子さんは、連続テレビ小説「おしん」、大河ドラマ「おんな太閤記」(ともにNHK)をはじめ、「渡る世間は鬼ばかり」(TBS)など数々のヒットドラマを生み出してきました。4月10日にご自宅のある静岡県熱海市より、その功績をたたえ名誉市民の称号が贈られています。2020年3月に熱海市でお話をうかがった「わたし終いの極意」を追悼掲載します。
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聞き手 遠田恵子

■自分の年齢相応の問題をテーマに書いている

——これまでの作品の主人公の中で、いちばん印象に残っているのは誰でしょうか?

橋田 やっぱり「おしん」の乙羽信子さんとか泉ピン子ちゃん、小林綾子ちゃんですね。あの作品は昭和天皇の時代にどういう女が生きたかを描きたかったんですよ。

——橋田さんの脚本にはそれぞれの時代の、例えば最近ならインターネットのゲームにはまる子どもが出てきたりとか、社会現象がドラマの中にキーワードとしてちりばめられていますよね。

橋田 はい。今はミステリーでもホームドラマでも、その中に時代を映したテーマやメッセージがあるんです。だから、ただの物語にならないよう、それぞれその時代に沿ったテーマを入れて作っています。誰が何を言いたいのか、このテーマはどんな人に言わせようかと考えます。

——ホームドラマ「渡る世間は鬼ばかり」では、岡倉家の五人姉妹それぞれが家庭を持ち、子を持ち、孫を持ちと、歴史があります。そして視聴者も、書いている橋田さんも一緒に時間を重ね、年齢を重ねてこられたんですね。

橋田 あのドラマは、最初1年で終わるつもりが30年も続いて、登場人物もみんな年を取って。でもどの世代にも問題はあるし、テーマもあります。人は皆それぞれ、幸せの価値観が違いますし、それを書くには、あのドラマはすごく便利な設定なんですね。


■死ぬことへの恐れは全くないんです

——高齢化とか、介護の問題もありますね。

橋田 はい。年を取ったとき、どう生きるかというのを、あの5人姉妹で書こうと思っています。例えば結婚・離婚を経て元夫とビジネスパートナーとなった三女のふみは、結婚しているときよりも夫と仲がいいんですよね。結婚していると、けんかするんですよ。でも別れて仕事の関係になると、プライベートの面倒事が切り離されて、お互いの才能を認め合ってうまくいったりする。

——中田喜子さんが演じる三女の文子ですね。

橋田 はい。ピン子ちゃん演じる次女の五月も一生懸命お店やってたけど、年を取って足手まといになってくる。そうなったときどうするかとか、在宅医療や高齢者の居場所の問題とかね。そういうテーマは若いときではなく年を取ってから書いてきました。私も「渡る世間」も一緒に年を取り、年齢相応の問題を書いているということですね。

——ご自身は著作『おしんの遺言』の中で「いつお迎えが来てもおかしくない」と書いてらっしゃいました。

橋田 そうなんです。だから毎朝起きて、「えー、まだ生きてる」と思ってますね。死ぬことへの恐れは全くないです。眠ったままおしまいでいいと思ってます。

お骨は両親のお墓ですが、別のお墓を買ってあって、そこに主人と私の時計を入れてもらうことにしています。死んでからも一緒に時を刻むという二人、というつもりなんですが、死んだらもう、何も分からないかもしれませんね。

インタビューを終えて 遠田恵子

お訪ねしたのは熱海市の高台に建つ橋田さんのゲストハウス。大きな窓からは、相模湾が一望できました。部屋の一角には亡き夫・岩崎よしかずさんの笑顔の遺影と、優しい色合いのポピーが飾られていました。嘉一さんが作った花畑に毎年咲くのだそうです。「いつ死んでも思い残すことは何もないけれど、せっかく生きているなら元気でいなくちゃね」という橋田さんの言葉に、私も毎日を楽しみながら、日々を丁寧に生きていかなくちゃ! と思いました。

※この記事は、2020年4月15,22日放送「ラジオ深夜便」の「わたし終いの極意」を再構成したものです。

(月刊誌『ラジオ深夜便』2021年7月号より)

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