「アロマンティック・アセクシュアル」の男女が、周囲の反応や価値観の違いに戸惑いながらも“家族(仮)”として歩む姿を描き、大きな話題を呼んだよるドラ「恋せぬふたり」。
その脚本を手がけた吉田恵里香さんは、優れたテレビドラマの脚本作家に与えられる名誉ある「第40回向田邦子賞」を受賞。
5月12日に行われた駒澤大学でのトークイベントに参加した吉田さんに、「恋せぬふたり」に込めた思いについて聞きました。

  きょうの駒澤大学のトークイベントに参加されたご感想をお聞かせください。

学生の皆さんとお話しする機会はなかなかないので、とても貴重な時間でした。まず、「恋せぬふたり」を大学の授業で取り上げていただいたことがありがたいですし、ことし放送したばかりの作品を題材にするスピード感もすばらしいですよね。「恋せぬふたり」を作った意味を実感することができたので、非常にうれしかったです。

実際、学生のみなさんには「恋せぬふたり」を深く読み解いていただいて、その視野の広さに驚きました。率直な思いを語っていただいたからこそ、アロマンティック・アセクシュアル(以下、アロマ・アセク)のさくと高橋という2人の主人公をとおして、恋愛感情を抱かないことへの理解の難しさや、家族の形について違和感を覚えたなど、いろいろな声を聞くことができました。そういった疑問や違和感という部分の溝を埋めていくことが、エンターテインメントの力でもあると思っています。
 

  「恋せぬふたり」の脚本を書く中で、大事にしていたことは?

2点ありまして、1つはアロマ・アセクというセクシュアル・マイノリティーの方たちを題材に描くので、当事者の方たちが「こんなアロマ・アセクはいない」と思わないように、間違った情報を伝えないこと。アロマ・アセクの方たちの目線を優先することを心がけました。

もう1つは、アロマ・アセクについて知識がない方でも、作品にのめり込めるように、人間の普遍的な寂しさや、誰かと共に生きていく人と人との関係もしっかり描いていく。この2点を軸に書くことを大事にしていました。

そして、物語全体をとおして、いちばん伝えたかったのは、ドラマの最終回にも出てくるのですが、「私の人生に何か言っていいのは私だけ。私の幸せを決めるのは私だけ」ということ。自分の人生を他人に認めてもらう必要は本来なくて、自分の幸せも周りが決めることではありません。これはアロマ・アセクに限らず、普遍的なことではあるけど、なかなか実行できていない人が多いのではないでしょうか。それゆえ、息苦しさを感じて生きている人も多いと思うし、「恋せぬふたり」はそういった方たちに寄り添える作品にしたいという思いが強かったです。
 

  「恋せぬふたり」のように、新しい家族のあり方や多様な生き方を、ドラマで伝えていくことの重要性をどのように感じていますか?

私自身、すごく興味があるんですよね。人それぞれ多様な生き方があるので、「恋せぬふたり」では恋愛関係のない家族のあり方というものを伝えました。それらを伝えることこそが、エンターテインメントが持つ意味であり、ドラマの力だと思っています。

今回、「恋せぬふたり」を作って満足とは全然思ってないので、今後もさまざまな家族のあり方や人々の生き方を、知るきっかけや考えが変わるきっかけになる作品を発信していけたらなと思っています。

後編へ続く)

吉田恵里香 (よしだ・えりか)
1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は、ドラマ「花のち晴れ~花男 Next Season」(TBS系)「Heaven?~ご苦楽レストラン」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。「恋せぬふたり」が第40回向田邦子賞を受賞。