朝田のぶ(今田美桜)の祖父である朝田釜次は「朝田石材店」の三代目で、その道一筋の石工。頑固者だが、のぶ、蘭子(河合優実)、メイコ(原菜乃華)たち3人の孫娘には少し甘いところも。釜次は息子の結太郎(加瀬亮)が病死してから、より一層仕事に励んでいたが、そんな中、息子同然に思ってきた弟子の原豪(細田佳央太)の出征が決まる。釜次は豪のために壮行会を盛大に開いてやるのだった。

そんな釜次を演じるのは、吉田鋼太郎。吉田に、豪の壮行会の撮影エピソードや釜次を演じる上で意識していることなどを聞いた。


メイコが壮行会で歌った「よさこい節」は悲しかったけれど、素敵でした

――今日は出征する豪のために壮行会が開かれました。壮行会のシーンの撮影はいかがでしたか?

やっぱり豪の壮行会のシーンは悲しくて、いままで撮影した中でも特に印象に残っていますね。あの時は出演者の方も多くて、表向きはみんなで「おめでとう」って言って、お酒を飲んでワーワー騒いでいるんですけど、本心ではそうではなくて。そこで、メイコが最後に「よさこい節」を歌うんです。その歌が非常に悲しかったですね。あのシーンのメイコがすごく素敵すてきでした。

――弟子である豪は、釜次にとってどんな存在だったのでしょうか。

息子の結太郎は家業を継がなかったので、豪のことは自分の息子みたいに思って、すごく可愛かわいがっていたんだと思います。時代が時代だから、豪が出征するのも想像していたことではあったはずなんです。でもやっぱり、「まさか、うちの豪が」って、御国のためだから仕方がないとは思いつつ、ある種の理不尽さも感じていたんでしょうね。

当時の人たちも、きっとそういう気持ちだったのかなって。僕らはそれを芝居の中で体験することしかできませんけれども、実際にその時代を生きた方々の気持ちは、いかばかりであったろうかと想像しながら演じました。


釜次は典型的な頑固ものだけど、根は家族思いで愛すべき人

――釜次は石屋ひと筋の職人ですが、吉田さんは釜次をどんな人物だと捉えていらっしゃいますか?

釜次は明治生まれの職人で、典型的な頑固ものというか。悪く言えば、亭主関白で、ちょっと独善的なんですけど、根は優しくて家族思いで、愛すべき人ではあると思います。表には出しませんけど、3人の孫娘たちを溺愛しているんですよね。

――職人である釜次を演じる上で苦労された部分はありましたか?

最初に本職の方にレクチャーしていただいたんですが、それはそれは大変な作業なんだということがよくわかりました。50kgの石を一人で持つなんてことは日常茶飯事で、それを一日に何回も繰り返すわけじゃないですか。

石を削るから粉塵ふんじんまみれにもなりますし、とんでもない重労働ですよね。だから、その片鱗へんりんを見せられればいいなと思うんですけど、釜次が作業してるシーンはそんなに映らないんです(笑)。

――「ハチキンおのぶ」とも呼ばれるのぶは、とても魅力あふれる女の子です。孫を溺愛している釜次としては、のぶに対してはどんな思いを抱いているのでしょうか。

脚本にもありますけども、釜次は古い人間なので、のぶのおてんがちょっと気になるわけですよね。女性はおしとやかじゃないといけないっていう時代でしたから、そこに関してはちょっと頭を痛めていると思いますね。もちろん、そういうところもわいく思っているんですけど、古い価値観を教えられてきた人間としては、そのはざで悩んでいるっていう感じなんじゃないでしょうか。

――そこで悩む人間らしさも、釜次の魅力的なところですね。

そうなりますよね。「もういい加減にせえ!」って口では言いながらも、「しょうがないか」みたいな気持ちもあって(笑)。

――釜次の妻であるくら役の浅田美代子さんとの共演はいかがですか?

私が出演した「花子とアン」に浅田さんも出ていらっしゃるんですけど、共演シーンがまるでなかったんです。だから、今回は、浅田さんと「リベンジだね!」って話したりしています(笑)。以前から浅田さんって素敵な方なんだろうなあと思っていたんですけど、実際は想像した以上に素敵な方なんです。

撮影初日から、「釜じい、釜じい」って呼んでくれて、お互いが演技しやすいように距離を詰めてきてくださるんです。長年夫婦として連れ添ってきた釜次とくらのいい空気を、私と浅田さんの間できっちり作れるような接し方をしてくれました。


僕のアドリブに阿部サダヲさんは迷惑そうです(笑)

――釜次は草吉役の阿部サダヲさんとは犬猿の仲というか、いつも言い争いばかりですが、釜次は草吉のことをどう思っていたのでしょうか。

まあ、よそ者ですし、1人だけ標準語を話していますしね。高知の田舎ですから、東京の言葉をしゃべる人間がいるっていうこと自体が非常に奇異なことですし、草吉の風体も天然パーマというか独特ですから、最初はものすごく警戒していますよね。

しかも、のぶをたらし込んで家に入り込んできたと誤解していたので、いろんな悪い想像をしていたんだと思います。ずっといぶかしんで、最大限の警戒をしていたんでしょうね。

――でも、釜次と草吉の小気味良い掛け合いを楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。

阿部さんとはドラマで一度ご一緒したことがあったのですが、その時はあまり絡むシーンがなかったんです。今回の「あんぱん」は、すごくドキドキしていました。共演するのがうれしくて、僕の方からいろいろアドリブを仕掛けてみているんですけど、ちょっと阿部さんは迷惑そうにしている気がします(笑)。

――掛け合いのシーンを見ていると、お2人は息がぴったりなのかなと感じていました。

最初はどうやってコミュニケーションを取ろうかなと探っていたところもあったんです。でも、芝居の中ではちゃんと受けてくれるし、最近は阿部さんから仕掛けてくれるようになってきて、徐々に関係性が構築されつつあるような気がしています。やっぱり阿部さんとの芝居は非常にエキサイティングですね。


奇をてらっていないのに飽きさせない脚本

――朝ドラは「花子とアン」以来ということですが、今作は「花子とアン」を担当された中園ミホさんの脚本です。「あんぱん」の脚本を読まれた感想をお聞かせください。

やっぱりすごいな、さすがだなと思って、もう最初から号泣しながら読んでいました。文句なしにすごくいい作品だと思います。

――中園さんが書く脚本の魅力はどのようなところにあると思いますか?

中園さんの脚本はわかりやすいんですよね。奇をてらっていないのに、飽きさせない。結局、それが一番難しいことなんじゃないかなと思うんです。ちょっと変化球を投げたり、トリッキーなことをやったりすると、一瞬は人の目を引くかもしれないですけど、中園さんの脚本にはほぼそういうことはないですから。

おそらく、みなさんが思っている通りに話が進んでいくんだけど、やっぱり泣かされる、やっぱりじんとくる、やっぱり考えさせられるっていう。ある意味、非常に深い脚本なんだと思います。


真っ直ぐで純粋で勝ち気なのぶは、今の日本に元気をくれる存在

――釜次として、この「あんぱん」の時代を生きてみて、どんな感想をお持ちですか?

まだ戦争前だから、商店街のセットには昔の町並みが残っているわけです。朝田家の石屋の向かいには、お花屋さんやお米屋さんがあって、非常にリアルに作られているので、美しいんですよね。木造の家のたたずまいとか、コンクリートではない砂利道とか、なんだか空気もいいような気がして、この時代の方がいいなって思っちゃいますね。

もちろん、きっと朝田家は囲炉裏いろりしかなくて、冬なんか寒いだろうけど、それでもみんな、これが当たり前だと思って暮らしているわけじゃないですか。その頃の日本人の質素さといいますか、質素でも家族の愛情があって、家族が一緒にいればそれが一番いいっていうところは、今の時代よりも、そっちの方がいいんじゃないの? と思ったりしますね。

――最後に視聴者の方へメッセージをお願いいたします。

今田さん演じるのぶの、ぐで、純粋で、勝ち気なキャラクターは今の日本にきっと元気をくれるんじゃないかと思うんですよね。ぜひ、のぶちゃんを見て元気になって欲しいし、とにかく「アンパンマン」のように登場人物のキャラクターが多彩なので、それも見どころです。

まだ言っちゃいけないのかもしれないけど、ドラマを見ていると、「アンパンマン」のキャラクターと重ねたくなると思うので(笑)、そこは素直に楽しんでいただければいいなと思います。