わのくに久保田藩(秋田藩)藩士で江戸城の留守居を務める平沢常富つねまさは、朋誠堂ほうせいどうさんの名で、奇想天外な戯作を数多く発表、人気作家として名をはせていた。蔦重(横浜流星)にとって最高かつ最大の協力者となる喜三二を、どんな思いで演じているのか。尾美としのりに聞いた。


喜三二は、楽しみながら生きることを第一に考えている人物

──演じられる戯作者・朋誠堂喜三二を、どういう人物だと捉えてらっしゃいますか?

楽しみながら生きることを第一に考えている人ですね。喜三二のセリフに「売れる売れないはどうでもいい、楽しくやれりゃ」という言葉があるんですが、まさにそれが彼のモットー。こと本を書くという行為は、自分が楽しいからやっている、ただそれだけなんです。そんな喜三二を演じていると、僕自身もどんどん楽しくなってきますね。台本に、うまくのせてもらってます。

──かたや、武士の顔も持っていますね。

秋田藩の留守居役で、今でいう外交官のような仕事をしている人物です。吉原によく出入りしているのは、江戸で留守居役を務めるために必要な情報交換をしているからでしょうね。あれだけ吉原に顔を出しながら、きちんとお役目も全うしているんだから、すごく頭の切れる人物なんだと思います。

──第12回から本格的に登場しましたが、それまではちらっとしか映らないと言う登場のかたでした。SNSでも話題になりましたね。

僕も、台本を読むまでは、こういう登場の仕方だとは聞かされていなかったんですよ。毎回、どこかしら吉原の一角にちらっと登場するっていう。面白いですよね〜。

友人や親戚などの親しい人たちが探して面白がってくれるかなと思っていたんです。そうしたら、SNSで「オーミーを探せ」という話題になっていると聞いて、思いがけず注目していただいて、僕自身がいちばんびっくりしました。

毎回、2時間ほどかけてきちんと支度していただいて、いざ収録が始まると、なるべく目立たないように歩くだけとか(笑)。クランクインから数か月はそんな感じでした。だから、12回から本格的にセリフを話し始めるんですけど、視聴者の方々にがっかりされないかと少し不安でしたね。「オーミーを探す楽しみがなくなって、つまらない」と言われたらどうしようって。


収録現場に臨むときは、落語を聞くようにしている

──やがて蔦重の盟友のような存在になりますが、喜三二は、蔦重のことをどう見ているのでしょうか?

喜三二は、吉原が大好きですからね。本屋の板元である蔦重は、喜三二の仕事の仲間でもある上に、吉原で遊ばせてくれる。もちろん、これまでの馴染なじみの店もあるでしょうけど、蔦重のおかげだともっとうまい具合に遊べる。それが楽しいんじゃないかなあ。

それに、喜三二は「どうせやるなら楽しい方がいい」という人物。本を書く上で、他にないアイデアを出してくれる蔦重と手を組んだ方が、そりゃあ楽しいでしょう。

──喜三二は、蔦重にとってどんな存在になればいいなと思われますか?

蔦重のことを支えている人物はたくさんいますし、蔦重の存在を心の支えにしている人もたくさんいます。その中で喜三二は、蔦重のことを支える存在の一人で、ちょっと他の人より太めの柱くらいの存在になれればいいかなと思いますね。

──主演の横浜流星さんとの共演の印象は?

演技力もすばらしいですが、身体能力がずば抜けてるんですよ。第2回で、平賀源内さん(安田顕)が居る座敷に、正座の姿勢で滑り込んでほしいとディレクターがリクエストしたんです。僕には到底無理だけど、流星くんは見事に一回でやってのけました。しかも、正座のままきれいに滑っていって源内さんの前でピタッと止まるんです。「かっこいい〜!」と思いましたね。

僕も流星くんも格闘技好きなので、収録の合間には「この間のボクシング、見た?」なんて話で盛り上がったりします。彼は、朝から晩まで出ずっぱりで大変だと思いますが、楽しみながら収録に臨んでいる姿を見ると、心から尊敬します。

流星くんはじめ、若い世代の方々との共演は刺激になります。恋川春町こいかわはるまち役の岡山天音くんや、歌麿うたまろ役の染谷将太くん、みんな達者なんですよ。僕は、皆さんのお芝居に乗っからせてもらってます(笑)。

特に、江戸言葉でのやりとりが楽しいですね。僕は落語が好きなので、収録現場に臨むときは、江戸っ子の気分になるために、毎回落語を聞きながら移動しているんです。現場で自然に江戸言葉が話せる気がしています。


第18回は、笑ってばかりだった喜三二が、初めて苦痛を味わう重要な回

──第18回では、喜三二に思わぬ事態が訪れますね。

そうなんです。吉原好きの喜三二が、腎虚じんきょになってしまう。台本を初めて読んだときは、あまりにぶっ飛んだ内容にびっくりしましたね。

18回は喜三二にとって重要な回です。それまで笑ってばかりだった喜三二が、初めて苦痛を味わう。それまで「楽しい」ばかりだったのに、18回の気落ちした演技をするうちに、僕自身もどんどん気持ちが落ち込んでしまいました。でも、喜三二の見せ場でもあるので、そういう意味では楽しんで演じさせていただきました。

実は、普段自分が出演している連続ものは、撮影期間中見ないようにしているんです。「こうすればよかった」なんて私見が入るのはよくない。「どう演じるか」「どう描くか」は演出の方にお任せすべきだと思っているので。でも、今回のVFX技術を駆使して作られるシーンは見たいですね。大蛇おろちがどんな風に登場するのか、自分の目でぜひとも確かめたいです。

──「べらぼう」という作品や、描いている時代の面白さは?

まず、森下佳子さんがお書きになる台本が面白いですよね。新しい台本をいただくと、最初は読み物として読ませていただいてます。面白いから、自分が出てない回も楽しみなんです。物語にしろ絵にしろ、ものをゼロから作りだす職業にスポットを当てているのが特にいい。改めて、クリエイティブな仕事をしている人って魅力的だなあと感じました。

現代にも通じるタイムリーな要素がたくさん登場するのも興味深いですし、背景を巨大LEDパネルに映し出しての撮影も、僕自身、初めての体験でした。いろんな意味でとても新しい大河ドラマだと思います。

何より、スタッフの皆さんにはつくづく頭が下がります。大河ドラマって、戦国時代や幕末が人気で、本作のように江戸時代中期を舞台にした作品ってこれまでありませんでしたよね。前例がないだけに、スタッフの方々もいつも以上に大変なはず。全てのことを一から調べないといけなかったわけですから。

ですから、ちゃんと資料に基づいて組まれているセットに入ると、毎回感心させられます。「大河ドラマってやっぱりすごい!」って、楽しみながら演じさせていただいています。