吉原で引手茶屋を営む駿河するがいち右衛もん(高橋克実)の実の息子で、つたじゅう三郎ざぶろう(横浜流星)の義兄でもある次郎兵衛じろべえ。仕事よりも趣味が優先、自由気ままな次郎兵衛だが、ときに蔦重の行動を後押ししてくれる存在だ。演じる中村蒼に、蔦重との関係性などについて聞いた。


働かないのに嫌われないのは、次郎兵衛が持って生まれた性格の良さのおかげ

——「八重の桜」以来の大河ドラマ出演ですが、オファーを受けたときの感想をお聞かせください。

どの作品でもうれしいので、「大河だから」というのはありません。でも、以前徳川家斉いえなりを演じさせてもらったドラマ10「大奥」も森下(佳子)さんの脚本で、大原(拓)監督がチーフで演出されていたので、そこからのつながりにご縁を感じ、「頑張らなくては」という気持ちになりました。

——森下さんの台本を読んで、どんな印象を受けましたか?

すごくリズムが良く、江戸時代の勢いのよさが伝わってきて、読んでいて気持ちのいい台本だな、と思いました。

当時の吉原で行われていたことは、現代ではあってはならない、繰り返してはいけないものです。でも、実際にそこで生きていた人は、日々何か楽しみを見つけて生きていたはず。残酷で悲惨な部分をしっかり描きつつも、吉原にいた人たちの、力強く、明るく希望に向かって生きる姿が描かれているのが、すごくすてきだと思いました。

——次郎兵衛の人物像については、どのように考えていますか?

次郎兵衛はとても軽やかに生きている人で、あまり働かないで、常に自分の趣味に力を注いでいます。その趣味も広く浅く、いろんなことを知っていて、とても器用で、明るい性格でもあります。

じゅうは毎回いろんな壁にぶち当たって、それを乗り越えたと思ったら、また新たな壁にぶち当たって、ということを繰り返していますが、次郎兵衛はそんな重三の隣にいて、「どうにかなるんじゃないの?」と楽観視しています。この2人でバランスの取れた関係、と見えたらいいなと思っています。

——次郎兵衛が蔦重の次の行動に繋がるヒントを与えることがありますね。

おっしゃる通り、次郎兵衛は何気ないひと言で重三の悩みを“正解”に導く存在でもあります。これは監督もおっしゃっていたんですけれど、次郎兵衛は軽いけど、すごく勘のいい人間で、賢いは賢い。だから、「地頭はいい」つもりで演じています。

それに、深川などにも遊びに行っているので、吉原以外の世界も知っていて、経験値が高いんです。それが次郎兵衛のいいところだと思います。

——ただ、いかんせん仕事に興味がないという(笑)。

金勘定さえ、財布の重さで計る、みたいな……(笑)。働かないのに、なぜか誰からも嫌われないんです。それは、彼が持って生まれた性格の良さのおかげだと思うので、見ている人たちにも「重三は頑張っているのに、次郎兵衛は働かなくってダメだねぇ」というような愛され方をされたらいいな、と思っています。


忘八の親父さんたちから怒られないのは、次郎兵衛のことが視界に入っていないから

——次郎兵衛を演じるにあたって、気をつけていることはありますか? 

なるべくテンションが落ちないように気をつけているのと、おけいごとに励んでいる人独特の“品の良さ”を出せたらいいなと思っています。

高橋克実さん演じる父・駿河屋や忘八ぼうはち親父おやじさんたちは“ザ・江戸っ子”という感じで、怖くて腕っぷしが強く、まくし立てるようにしゃべるんですけど、次郎兵衛はそういう人たちに対して、「どうして、あの人たちは、あんな感じなんだろう?」と思っています。だから、忘八の皆さんとはちょっと違う雰囲気が出せたら、と考えて演じています。

——父親の駿河屋のことは、どのようにお感じですか?

役作りにあたって、まず父親に対する態度をどうするか考えたのですが、怖くて恐れている感じではないだろうと思いました。父親が来たからと言って、急に態度を変えて背筋を伸ばすような親子関係ではないだろう、と。でも、父親が店に現れるときは、基本的に重三に対して怒っているときなので、一緒にいる次郎兵衛としては、その迫力に押されそうになりますね。

——確かに、いつも蔦重が怒られている姿を見ていますね。

次郎兵衛が父親を止めようとしているのに、重三は立ち向かっていって、「自分はこうしたい」「これが吉原のためになる。親父さんたち、わかってください」と熱く主張するんです。次郎兵衛からしたら、火に油を注ぐようなもので、いつも隣でアタフタしています。でも、重三と2人きりになったら、全然引きずっていないんですよね。

——忘八たちの重三に対する態度も、次郎兵衛が間に挟まることで変わるように見えます。

あれだけ怖い忘八の親父さんたちが、なぜか次郎兵衛に対しては怒らないんです。もはや次郎兵衛のことは視界に入っていないんでしょう。重三が怒られているとき、次郎兵衛はいないものにされていて、何の力にもなっていない……(笑)。

親父さんたちから「重三より次郎兵衛の方が怠けているじゃないか」といじられても、「それだけは言わないでくださいよ」とふざけて、なんとか場を和まそうとして……。次郎兵衛の本音としては、「できれば関わりたくない」なんですけどね。

父親みたいになりたいとは絶対に思っていませんが、いずれを任されるときが来るかもしれません。その時には次郎兵衛も変わって、しっかりするのかも、と先々の展開を楽しみにしています。


血は繋がっていないけど、重三は愛すべき弟であり、いい友人でもあるような存在

——撮影に入る前に準備されたことは?

時代考証の方に話を聞いたり、美術館に吉原を描いた本や浮世絵を見に行ったりしました。展覧会では当時流行した髪型を紹介するヘアカタログがあったんですけど、次郎兵衛は流行に敏感だったと思うので、当時の“はやり”を肌で感じることができて良かったです。

——次郎兵衛は良い着物を着ていますね。

「全財産を着物につぎ込んでいるんじゃない?」と言われるくらい、次郎兵衛は何種類も着物を持っています。それこそ「花魁おいらんたちよりも衣装替えが多い」と衣装さんたちは言っていて……。当時の流行の最先端を担っていることを意識しながら、スタッフの力をお借りして、「流行りものが好きな次郎兵衛」という人物像を作っています。

——第9回と第11回で浄瑠璃を披露されましたが、いかがでしたか?

大変でした(笑)。ただ幸運なことに、「次郎兵衛は富本節とみもとぶしが下手でいい、いろいろと器用な人間だけど、それだけは苦手」という設定なので、非常に助かりました。

声の出し方に決まりがなく、リズムも後の時代に定まったものなので、当時の節は人それぞれ。町の人たちが「俺はあの人の節が好き」と、いろいろな流派の太夫のファンになっていたみたいで、自由だからこその難しさがあります。

第11回で富本とよ太夫(午之助うまのすけ/寛一郎)が登場しましたが、次郎兵衛も気分は太夫のつもりだと思ってください(笑)。

——これまで収録に臨んできて、印象的だったシーンはありますか?

次郎兵衛は、重三に対してヒントになるようなことを言いいますが、その本質には関わっていません。でも、第7回で重三と吉原細見よしわらさいけんを作るシーンでは、珍しく次郎兵衛も頭を悩ませて、「こうしたほうがいいんじゃないか」と一緒に考える場面があったのが印象に残っています。

もっとも、次のシーンでは、人任せになっていて……(笑)。そういうところも次郎兵衛らしくて、すごく好きです。「次郎兵衛さんは何もしない」と言われても、全く気にしないところが次郎兵衛の長所です(笑)。

——本作りに夢中になっている蔦重の姿は、どのように見えていますか。

重三が本屋をやることを父親が気に入っていないことは知っているので、次郎兵衛としては「なんで、そこまでムキになるんだ」とは思っています。でも、何度もくじけてはまた立って、立つたびに成長していく重三を見て、頼もしく感じていると思います。

——次郎兵衛にとって、蔦重はどんな存在ですか?

血はつながっていませんが、重三のことは本当の家族のように思っています。頼まれ事をされると、「嫌だなー」と思うことはありますが、次郎兵衛にとって重三は愛すべき弟で、心の底では繋がっています。と言って、兄らしいことをできるわけでもなく、重三と一緒に悩んで、応援して、という感じでしょうか。同じ目線に立てる、兄であり、いい友人でもあるような存在だと思います。

——横浜流星さんは、中村さんの目にどのように映っていますか? 

すごく根性があると思います。大河ドラマの主人公は見ているだけでも大変そうなのに、愚痴らず、大変そうな素振そぶりも見せず、集中して撮影に挑んでいる姿は頼もしくて、感心するばかりです。


第12回の「俄祭り」での次郎兵衛の活躍にご期待ください!

——視聴者の皆さんに伝えたいことがあったら教えてください。

次郎兵衛が重三のことをいとおしく思っている感じが、見ている人に伝わればうれしいです。そして、重いシーンの後に次郎兵衛が登場すると、一気に明るく、軽くなる良さに気づいていただけたら(笑)。

第12回にはご期待ください。吉原で「にわか」というお祭りが行われるのですが、これまで映像で描かれたことがないそうです。次郎兵衛も参加して、舞台で口上を述べるのですが、「ついに自分が目立つときが来た!」と、ずっと浮かれています。お祭り感満載で、視聴者の皆さんにも楽しんでいただけると思いますので、ぜひご覧ください。