賢丸まさまる(後の松平まつだいら定信さだのぶ)は幼少期より聡明で、やす徳川とくがわ家の後継者と目されていたが、さんきょうつぶしを企むぬま意次おきつぐ(渡辺謙)によって陸奥むつ白河しらかわ藩への養子入りが決まった。田安家存続のため、賢丸は妹の種姫たねひめ(小田愛結)と次期将軍・家基いえもと(奥智哉)との縁談を仕掛けるが……。意次への対抗心をき出しにする賢丸について、演じる寺田心に聞いた。


「直虎」の時には感じなかった緊張感を、日々感じています

——2017年の「おんな城主 直虎」以来の大河ドラマです。出演のオファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。

とてもうれしかったです。と同時に緊張感も走りました。

「直虎」の時は、まだ8歳くらい。セットも衣装も初めて見るものばかりで、現場を走り回ったり、小道具を触ったりしていました(笑)。自分なりに一生懸命やりましたが、まだ大河ドラマの素晴すばらしさや重みを理解していなくて、ある意味、緊張感はありませんでした。今回、16歳になった自分が日々感じる緊張感は、当時とはまるで違います。

——大河ドラマならではの魅力とは何でしょう。

武士の所作を身につけたり、れいな着物を着たりする機会は、他ではありません。動作に気を配ることやセリフの立て方など学ぶことも多く、改めて大河ドラマや時代劇の素晴らしさを実感しています。

それに、歴史の勉強にもなります。高校1年生になって、日本史で学ぶ範囲が広く深くなっていくので、出演するドラマで歴史の勉強ができるのはありがたいです。実際、「直虎」に出演したおかげで井伊いい家について詳しくなりました(笑)。授業で井伊直政なおまさや井伊直弼なおすけが出てきた時には、理解がとてもスムーズでした。

そういう意味では、あまり時代劇に馴染なじみがない若い世代の人たちにも、「大河ドラマを見たら将来のためになりますよ!」って言いたいです。歴史が好きじゃないという人にも、ぜひ見てほしい。たまたまドラマで出てきたことが試験に出たりすることも、あるかもしれないですから(笑)。


賢丸は、まっすぐで、静かにキレる人。頑固なところは自分に似ています

——松平定信という人物について、どんなイメージを持っていましたか?

僕は歴史が大好きで、定信が行った「寛政かんせいの改革」がどんなものかについては知っていました。でも、演じるとなると、どんな性格で、何が好きで、どんなことを考えていたのかまで追究する必要があります。だから、さらに多くの本を読み込んで、きっと彼は感情に振り回されず、冷静かつ淡々と振る舞う人なのだろう、と考えました。

でも、「べらぼう」で描かれる賢丸(定信)は、ちょっと違っていて、ときに感情的になることがあります。真面目であるがゆえに、武士の道義に反する事や人物に対しては冷静でいられない。曲がったことが嫌いな、本当にまっすぐな人──。台本を読み込んだり、監督とお話をしたりするなかで、そんな人物像との理解を深めました。

また、兄の治察はるあき(入江甚儀)が病弱で、だからこそ自分が家を支えていかなきゃいけないという責任感も強く持っています。徳川吉宗公の血を引いている自分は、武士としてのあるべき姿を守らなくてはならないし、時代に流されてはならないのだと強く思っていたはずです。

——演技の際、誇り高き人物であることを、どのように意識していますか?

所作や声、あるいは顔の表情、頭のてっぺんからつま先まで、どう演じるか考えていて、自分なりに、だんだん馴染んできてはいます。

ただ難しいのは、賢丸は感情的にはなっても、強く怒るわけではありません。どちらかと言うと、静かに怒る人。口調はきつくなっても、何かを蹴り倒すという振る舞いはしません。武士の心に反すると思って抑えているんでしょう。座った状態でずっと静かにキレているような人なんです。そこをどう演じるかがポイントだと思っています。

——賢丸がいちばん大事にしているのは、どんなことなのでしょうか?

敬愛する吉宗公から受け継いだ武士の心じゃないでしょうか。自分の中にもう一人の自分がいて、常に「あるべき姿」や「絶対に曲げちゃいけない何か」を追究しているんだと思います。そこに反する物事や人物に出くわすと、感情が噴き出してしまうんでしょうね。

でも、本当のところ、定信が何を考えていたのかは、誰にもわかりません。歴史上の人物については、彼らが行った単なる出来事しか記録に残っていませんから。だから、大河ドラマは、歴史について「こうだったんじゃないか」と想像を形にすることができる、素晴らしいチャンスだと思います。

おそらく、僕が考える賢丸、定信と、他の方が考える賢丸、定信は違うはずです。監督をはじめとして、様々な方のアドバイスも参考にしながら、自分なりの賢丸、定信を「べらぼう」で表現できたらいいなと考えています。

——ところで、寺田さんと賢丸(定信)の間に、何か共通点はありますか?

頑固なところですね。賢丸は、時代が変わっても自分の考えを変えないんです。田沼意次が主導する経済至上主義が主流派になっても、自分が信じる、武士としてのあるべき姿や守るべきものを、絶対に譲らない。僕にもそういうところがあって、芝居に対する思いや、人としての生き方については、絶対に曲げません。そこは似ているかなって思います。

そして、賢丸は興味を持ったことについては徹底的に調べる人のようですけど、僕も同じです。面白いものを見つけると、すぐ調べ始めて、いつの間にか時間が過ぎていくタイプ。知り尽くすまで終わらないところが似ているので、演じやすい面はあると思います。

——逆に、異なっている点は何でしょうか?

賢丸は、周りの人間が芸事を楽しんだりしている中でも、一人で勉強をしているような人ですよね。自分が家を守るという責任感も本当に強い。でも僕はあそこまで真面目ではないと思います(笑)。


6年ぶりに共演する渡辺謙さんに、成長したところを見せたいけど……

——蔦屋重三郎について、どのような印象をお持ちでしたか?

蔦屋重三郎のことは、今回、初めて知りました。賢丸と共演することはなさそうですが、蔦重もまた、賢丸と同じように譲れない何か、曲げられないものを持っている人なんだろうと感じています。

横浜流星さん自身、とてもかっこいい方ですね。僕は筋トレが大好きなんですけど、横浜さんの筋肉はすごくきれいだと思います。

──渡辺謙さんとは、2019年のNHKドラマ「浮世の画家」以来の共演です。前回は孫役で、今回は敵対する関係。演じてみてのご感想は?

そうなんです。前回はおじいちゃんと孫という、仲睦なかむつまじい、微笑ほほえましい関係でした。でも、今回は敵対するシーンがたくさんあります。何しろ、意次は賢丸が必死に守ろうとしている田安家を潰そうとしているわけですから、対立せざるを得ません。

それに、吉宗公への忠誠心や、武士のしきたりを大切にする賢丸としては、そのあたりがおろそかになっている意次は許せない存在なのだと思います。

僕としては、「浮世の画家」から6年って、成長したところを謙さんに見ていただきたい気持ちもあるんですけど、実際に芝居になると押されてばかりで、ついていくのに必死です。時には謙さんからアドバイスをいただくこともあります。

——謙さんとは、どんなお話をされましたか?

まず、「背が大きくなったね」と言われました(笑)。それから「学校はどう?」「部活は何やってるの?」など、いろいろと聞いてくださって、とてもうれしかったです。

芝居については、賢丸が感情的になるシーンで「賢丸はもっと強く言うんじゃないかな」と。そして、「言葉が強くなれば顔にも力が入るはず」というアドバイスをいただいて、なるほどと思いました。顔、手、脚の動きと感情はつながっているんだなって。一つわかると、どんどんわかっていきますね。改めて、学ぶことが大きいです。

そういえば、僕の撮影初日は、第4回で意次から吉宗公がのこした文書を見せられ、田安家に戻る希望を絶たれるという、謙さんとバチバチやり合うシーンでした。しかも、その日はちょうど僕の誕生日でもあって、スタッフの皆さんがケーキを用意して祝ってくださって……。

クランクインの緊張感や、大河ドラマの現場で誕生日を祝っていただける喜び、そして意次に対する怒りなど、いろいろな感情を一度に味わって、忘れられない一日になりました。

——松平武元たけちか(石坂浩二)のことを賢丸はどのように見ていますか?

武元は昔からの重臣で、自分のことをずっと見守ってくれている人物なので、賢丸は信頼しています。だから、頼みごともできる。きっと賢丸は武元のことを大切な人だと思っているでしょう。

石坂さんは、撮影の間隔が少し空いてお会いするたび、「また背が伸びた?」と声をかけてくださるんです(笑)。普段は本当に優しくて、とても明るい方。でも、いったんお芝居が始まると、それまでとは違う、肌にビビッとくるような、風格が立ちのぼります。


白河、福島の皆さんの期待に応えられるよう、力を尽くして白川藩主を演じます

――定信の領地・白河は、現在の福島県白河市周辺にあたります。何かご縁がありますか?

福島県には、何度も旅行に行っています。自然も文化も豊かで、空気が澄んでいてきれいだし、都会では味わえない時間を過ごせて、大好きな場所です。今回、賢丸(後の松平定信)役と聞いてすぐに「あ、白河藩主だ」って思ったくらい、親しみを感じています。

先日、NHKの紀行番組の撮影で初めて白河を訪れることができました。小峰城こみねじょうやぐらの設計図を後世に残すなど、定信らしい几帳面きちょうめんな性格を垣間かいま見ることができました。その一方で、身分に関係なく誰でも入れるよう公園を整備したり、飢饉ききんの際には米集めに奔走するなど、定信が民の幸せを必死に考えていたことも知りました。

いろいろな場所を巡って、今も白河の皆さんが定信のことを尊敬し、愛していることを実感しました。白河、福島の皆さんの期待に応えられるよう、力を尽くして、白河藩主を演じさせていただきます。ぜひご注目ください。