NHK財団では社会貢献活動の一つとして、大学が取り組む教育プログラムのお手伝いをしています。2021年から流通経済大学(千葉県松戸市、茨城県龍ケ崎市)で行っている障害者アートを通じたSDGsの取り組みをご紹介します。


「であうアート展」開催の打合せに、流通経済大学の学生たちが、社会福祉法人みぬま福祉会・工房集(埼玉県川口市)を訪問しました(2024年7月9日)。

障害者アートと出会う「であうアート展」

「であうアート展」は、流通経済大学が取り組むSDGsに関する教育プログラムの一環として企画されたプロジェクト。学生が障害者福祉施設を訪問、施設に所属する障害者アーティストを取材して交流を重ねながら、彼らが制作した絵画や立体、手芸作品などの作品を大学内の特設会場に一般公開展示するものです。

学生、障害者、地域の方々が「であう」「つながる」ことを通して「地域共生」や「多様性」を考えていく場を創っていくことを目標にしています。取材に参加した学生は、活動の中で感じたさまざまな思いをこの展示会で発信していきます。それが学生の自発的、主体的な活動にもつながっていきます。

学生からの感想です。

工房集に訪問させていただき、今まで、障がいのある方はできることが限られる、というマイナスな印象を持っていましたが、そうでないと気付かされました。
見学した際には、自慢の作品をうれしそうに自ら紹介してくださる方もいらっしゃり、私たちが帰る際には最後まで笑顔で手を振ってくださって、とても温かい気持ちになりました。

最初の年、2021年はコロナ禍の影響もありましたが、地域の人たちを中心とした来場者が約800人にもなりました。

来場者の多くが「初めて障害者アートを見た」という方々でした。会場では「感動した」「すごい」という言葉が飛び交っていました。


障害者アートの魅力

「X JAPAN」黒川幸司郎(社会福祉法人みぬま福祉会 工房集)
カッティングシートを丸や四角に切り、紙に貼っている。専用のハサミやバケツを使用。

障害者のアートについては、公募展などの展覧会も全国で開催されていますから、ご存じの方も多いと思います。福祉施設や一部のアート関係者の間にとどまっていた関心が、一般に広がりを見せています。

NHKでは2020年1月から、アーティストの素顔や創作過程を紹介する番組「no art, no life」(毎週日曜 Eテレ 午前8:55~)を放送しています*1。またNHK厚生文化事業団では「HEART&ARTS」*2としてHPで継続的に作品を紹介して、その魅力を広く伝えています。

*1 「no art, no life」(毎週日曜 Eテレ午前8:55)番組HP
*2 「HEART&ARTS」NHK厚生文化事業団HP
(※ステラnetを離れます)

「茶太郎」田中悠紀(社会福祉法人みぬま福祉会 工房集)
かつて施設で飼っていた犬の「茶太郎」を2000年ごろから描き続けている。毎日楽しそうに大好きなテレビの話をしながら、画用紙いっぱいに茶太郎を描いていく。

障害者アートは描き方が独特で「障害者の第2の言語」と言われるほどです。障害特性が反映している個性的な作品からは、これまでにない新たな価値観が見いだされています。本人たちは意識して個性的な作品を描こうと考えているわけではないといいます。思うままに線を引き、形を生み、色を塗ることで、いつの間にか類例を見ない作品が出来上がっているのです。

この魅力的な特徴を生かしてビジネス分野でも商品化販売が行なわれ、新たな障害者の雇用を生み出しています。


釜石でも「であう」 新しいステージへ

「であうアート展 in釜石」のステージ(2023年6月25日/釜石市民ホールTETTO)。

この「であうアート展」は新たな取り組みとして、去年(2023年)から、流通経済大学が連携協定を結ぶ、釜石市でも実施されています。

釜石市民ホールTETTOでは障害者アート展のほか、ステージイベントも行われました。大学からはラグビー部、チアリーディング部、ダンス部、「であうアート展」の企画を担当している学生など総勢100名が参加し、地域の人たちと交流しました(※2023年の様子はこちら)。

「であうアート展 in 釜石」(2024年9月/イオンタウン釜石特設会場)

去年に続き今年も、障害者アートの展示のほかにラグビー部が参加して市民チームとの交流試合を行うなど、地域を越えた「であう」「つながる」を実現しています。


そして交流の輪は高校生たちにも

障害者施設「多夢多夢舎中山工房」(宮城県仙台市)を訪問した、仙台育英学園高等学校インターアクト部の部員たちと所属アーティストたち(2024年10月5日)。

今年は同じく大学と連携協定を結んでいる仙台の高校、仙台育英学園高等学校の文化祭(育英祭)でも実施しました。

インターアクト部に所属する高校生たちが主体となって仙台市内にある障害者福祉施設を訪問。文化祭でその成果を発表しました。

多夢多夢舎中山工房で実際に作業を見ながらアーティストたちと交流しました(2024年10月5日)。

高校生たちからはこんな感想が。

アート作品はどれも個性的で、見ていてとても楽しかったです。電車や動物、さらには漢字の「田」だけを描く人もいて、そのユニークさと新しい表現に感動しました。今回の活動を通じて、障がいを持つ方々への意識が大きく変わるきっかけになりました。

障害者の方たちと私たちとが安心して生きていくために、私たちから社会的障壁をなくすことが第一歩なのだと学びました。お互いがお互いを尊重し合える世の中になるように願っています。

「であうアート展 in仙台育英学園」の展示風景(特定非営利活動法人黒川こころの応援団・nisipiricaにしぴりか[宮城県大和町]で制作されたダンボールアートほか)。

こうした活動を知った別の高校の先生方から「ぜひわが校でも実施してみたい」という問い合わせもいただきました。今後のプロジェクトの広がりを感じさせます。


まだまだ出会える! 今年の「であうアート展」

この「であうアート展」は現在、流通経済大学のキャンパスがある茨城県龍ケ崎市内で11月3日(日・祝)まで(期間は下のポスターをごらんください)、そして大学の本部がある千葉県松戸市では11月11日(月)~24日(日)まで行われます。お近くの方は是非ぜひ、新しい感動に「出会って」ください。
※11月24日は「であうアート展」関連イベント「であう広場」も開催されます。

「であうアート展」ポスター
「であう広場」ポスター

障害者アートの展示などのイベントにご興味のある方はこちら 

(取材/文 社会貢献事業部 宇佐美英志[社会福祉士])