8K医療応用の研究現場から 第2回 医療から見た8Kの魅力の画像

放送から生まれた8K*と映像伝送の最新技術を用いた医療への取り組みが始まっています。
前回は、5月に行った8K遠隔手術指導の臨床試験についてお話ししました。今回は、8Kの特徴、特に医療分野から見た優れた性能と8Kに寄せられる期待についてご紹介します。

*8K…ハイビジョン方式の16倍の画素数があり、表現できる色や明るさの範囲も広がっている。きめ細かで立体感のある映像が特徴


8Kの特徴とは?

図1

8K映像では図1のように縦、横それぞれの画素数が、現在放送されているハイビジョン(2K*)の4倍あり、全体では16倍の画素数を持っています。大変きめ細かな映像を大画面で楽しむことができるわけです。

*ハイビジョンの画素数は横1,920、縦1,080です。横方向の画素数が約2,000のため2Kと呼ばれることがあります。つまり“K”は”1,000“という意味で使われています。同様に4Kは横方向画素数が約4,000ですが、実際には2Kの2倍すなわち3,840画素、8Kでは同じく約8,000画素で2Kの4倍の7,680画素あります。

結果として、これまで以上に広い視野を覆う映像を見ることができるので、あたかも映像の世界に入り込んでいるように感じる“臨場感”も高くなることが実験で確認されています。

明るさや色の表現力UP 実在する色をほぼ再現

8Kは画素数が多いというだけではありません。明るさや色の表現力が2Kに比べて優れており、滑らかな明るさ変化や微妙な色の変化をより忠実に表現できます。このためこれまで以上に、なめらかな明暗表現や微妙な色の違いもモニタ上に映し出すことが可能になっています。さらに色に関しては、ハイビジョンに比べてはるかに多様な色を表現できるようになっています。**

**8Kの規格化に際して色の三原色点(赤、緑、青)の見直しを行い、ハイビジョンに比べてより広い範囲の色表現が可能となりました。ハイビジョンでは自然界に実在する物体色の74.4%程度を表現可能なのに対して、8Kでは99.9%すなわち、存在する物体色のほぼすべてを表現可能となっています。

8Kでは、モニタ上に表示された被写体があたかも目の前に存在するような「実物感」を感じられるのが特徴ですが、それは、画像のきめ細かさに加えて、このような明るさや色の表現力がその要因ではないかと言われています。

画像のきめの細かさや微妙な明るさ・色の変化は日常ではなかなか気が付かないのですが、8K映像システムができて初めて、2K映像の世界との差が感じられ、人間が目で見て感じている実世界との近さが明らかになったと言えるでしょう。


肉眼を超えた高精細大画像が、手術をサポート

こうした8K映像システムの特徴は、医療分野でその実力を遺憾なく発揮します。

写真2  8K腹腔鏡カメラでとらえた動物の腸間膜

写真2は8K腹腔鏡カメラでとらえた動物の腸間膜(腸を支え、定着させている腹膜の一部)です。8K映像により、

(1)血管が2重に走行していてそれぞれの色が微妙に違う(動脈と静脈)
(2)細い毛細血管のレベルまで2重走行がみられる
(3)腸間膜の表面側なのか裏側なのかによって血管の見え方が微妙に異なる

​などが映像として捉えらました。外科医によると「解剖学の教科書では見たことはありますがこれまで肉眼でもモニタ画面でもここまで見たことはない。8K大画面ならではです。」とのことでした。

写真3は8Kカメラを利用した顕微鏡下での脳外科手術の様子です。

写真3 顕微鏡下の脳外科手術の様子(左上の黒い箱は手術記録用に取り付けた8Kカメラ)

中央に執刀医がいて、手元の脳表面を双眼の顕微鏡でのぞきながら手術を行っているところです。執刀医の前方に見える黒い箱が8Kカメラです。

8Kカメラで撮影された、顕微鏡下での脳外科手術の様子を術後に見た執刀医は、「これだけはっきりと、しかも大画面で術野がみられるのであれば、脳外科でも、将来は顕微鏡をのぞきながらではなく画面を見ながら手術を行う時代が来るでしょう。」とコメントがありました。

顕微鏡下の手術では執刀医と助手など限られた人しか、手術中の様子を見ることができません。術中の執刀医が見ている術野を8Kの大画面モニタで他の関係者も見ることができるようになれば、手術室内の医師や看護師全員で手術の状況を共有でき、スムーズな手術進行や突発事象への対応などで威力を発揮することになると思われます。


正確な病理判定にも力を発揮

少し違う視点で8Kの特徴を見てみましょう。写真4は顕微鏡に搭載された2Kカメラと8Kカメラで悪性リンパ腫をとらえたものです。

写真4 悪性リンパ腫組織の顕微鏡像

2K(写真左)と8K(右)のズーム画像を比べてみると、8Kでは細胞核の内部構造までよく見えるのに対して、2Kでは明確ではありません。

病理学の専門家によると、核の内部構造の様相は、細胞ががん化しているかどうか判定する手がかりになります。

2K搭載の顕微鏡でも対物レンズの倍率を上げてプレパラートを移動させれば、核の内部構造を観察できるようにはなりますが、8Kでは低倍率で大きい画面に表示された顕微鏡像で全体像を観察でき、画面に近づいて見ると核内の微細な構造が見えるため、病的な細胞がどのように分布しているかを把握しやすいという強みがあります。

全体像と詳細像をほぼ同時に見えるという特徴は8Kならではのものと言って良いでしょう。このような特徴は、「顕微鏡をのぞくという従来の病理学の観察法にはない特徴で、効率よく正確な病理判定ができる可能性がある」と病理学の医師は話します。

第2回では、8Kの特徴と、それらの特徴が医療分野でどのように有効に働くか、いくつか具体例を示しながら紹介しました。このような8Kの特徴を生かした医療機器の開発への期待が高まります。次回は、私たちがこれまで行ってきた8K腹腔鏡用小型カメラの開発について詳しく紹介する予定です。

(文/NHK財団 技術事業本部 伊藤崇之)