新米ドッグトレーナーの成長を通して、犬と人との絆を描くEテレのアニメ「ドッグシグナル」。その原作になったのは、プロトリマーの経験がある漫画家・みやうち沙矢がWEB連載している人気作「DOG SIGNAL」だ。

アニメの放送を毎回楽しみにしているというみやうち先生、そして原作の担当編集を務めている株式会社KADOKAWA COMIC BRIDGE編集部・宮内彬起氏にも話を聞き、アニメ化に対する思いや作品のテーマなどについて、2回にわたって紹介する。


©みやうち沙矢/KADOKAWA/NHK・NEP

まさかのアニメ化に、呆然としていました

――最初に、作品のアニメ化という話が持ち上がったときの印象を聞かせていただけますか?

みやうち そんなことがあると思っていなかったので、喜ぶよりも、ただ呆然としていました。私は30年以上漫画を描いてきたのですが、自分の作品がメディア化されるような機会は、何もなかったんです。まさか、ここに来てアニメ化なんて……。びっくりするというか、「えっ、うそやろ?」という感じでした。

©みやうち沙矢/KADOKAWA/NHK・NEP

「DOG SIGNAL」は連載を始めてから、コミックスもあまり売れていなかったので、いつ打ちきりになるかなと思いながら描いていました。ただ、数は多くなかったのですが、作品を見つけてくれた読者や愛犬家の方たちが、すごく入れ込んでくださって。

1人の熱量が50人分くらいある感じで、周りの方たちに勧めてくださっていたんですね。だから「もうちょっとだけ広がって、誰かに気づいてもらえたら、読んでくれる人が増えるかもしれないな」という気持ちを持ちながら描いていました。

――では、それだけ応援してくださった方たちも、アニメ化を喜ばれたでしょうね。

みやうち 読者さんとは、ずっとSNSを通じてやり取りをさせていただいていたので、アニメの第1話を見て、みんな私以上に泣いていました。(オープニング曲の)高橋優さんの「雪月風花」が流れる中で「『みやうち沙矢』って、いちばん最初に(クレジット表記で)出た!」って言いながら泣いてくれていて、私もうれしかったです。

このアニメがEテレで放送されることも、うれしかったですね。私の描いた「DOG SIGNAL」って、一般的なアニメ好きの方たちに向かっていくタイプの作品ではないので、子どもたちや家族のみなさん、犬を飼っていらっしゃる方たちに届くほうがありがたいと思っていましたから。

©みやうち沙矢/KADOKAWA/NHK・NEP

――編集の宮内さんは、先生と二人三脚で「DOG SIGNAL」を作ってこられたと思うのですが、アニメ化の話をどのように受け取られたのですか?

編集・宮内 いま先生がおっしゃられたように、書籍の部数的には途中で厳しいところもあったのですが、作品自体にすごく力があって、より多くの人に届けられるべき作品だと一貫して思っていたので、アニメになることで我々だけでは届けられないところに届けられる、広がっていくだろうと思って、すごくうれしかったですね。

この「DOG SIGNAL」は、児童書版も出版しているように、子どもたちにも届けたいと思っていました。それが作品にとっても、そして犬たちにとっても良いことなんだろうなと思っていましたので。

――作品に登場するサンジュとウルソンは、先生の愛犬である「う~き」くん(トイ・プードル/通称:兄くん)と「た~坊」くん(スタンダード・プードル/通称:坊ちゃん)がモデルになっていますよね?

左が兄くんで、右が坊ちゃん。(写真提供:みやうち沙矢)

みやうち はい。「DOG SIGNAL」は、ふたりと暮らしていた時間が私を作り上げて、そこで感じたことを描いたものなんです。サンジュは「兄くん」そのもので、去年、兄くんは亡くなったんですけど、15年生きていて、その生きていたことがアニメになったことで、形として鮮明に残り続ける。

もちろん、漫画も残りますけれど、アニメは動いているし、エンディングの映像にもふたりの写真を入れていただいているので、もう思い出とか、そういうレベルではなくて……。こうして画面の中で動いている姿を見られるというのは、私にとっては夢のような展開だったりします。

兄くんも、自分が生きていたことが残っていてちょっとうれしいかな、と思ったり。ずっとずっと漫画を描いてきて、メディア化されることもなかったのに、あの子たちと暮らしたことで「犬の漫画を描きたい」という願いが叶って、考えてもいなかったアニメ化にまで転がっていったので、あの子たちと出会ったことにすごく意味があったというか、あの子たちが私のところに来て、これをプレゼントしてくれたものだと思っています。だから私は、この贈り物を死ぬまで大切にして、棺桶にも入れたい(笑)。

©みやうち沙矢/KADOKAWA/NHK・NEP

――そのアニメの制作にあたって、先生からスタッフの方に「ここを大事にしてほしい」と要望されたことなどはありますか?

みやうち アニメにしていただくことになって、スタッフのみなさんにご挨拶させていただいたときに「できる限り、犬をちゃんと犬らしく動かしてください。それだけでいいです」とお願いしました。

犬のトレーニングにかかわる漫画なので、犬として動いてくれないと描いている意味が伝わらないかな、と思ったからです。でも、アニメで動物を描くのが大変だという話は前々から聞いていましたので、「たぶん、きついだろうな」とは思いながらも、犬がしっかり描いてあれば、それだけで大丈夫ですとお伝えしました。

――その犬の動きについて、実際にアニメをご覧になっての印象は?

みやうち やや簡略化されているかな、と思いましたし、全体的に私の原作とは少し違うタイプの絵になっているようにも感じましたが、逆に子どもたちが見る分には、わかりやすくていいんじゃないかなと思いました。その簡略化された動きも、塗られた色合いも。

大人の方で「犬をめっちゃ見たい!」という方は、ぜひ原作の犬も見ていただければうれしいですね。あと、アニメを見ていると、漫画とは時間の長さの感覚が違っていることに気づきました。

いつも「早っ、もう終わった!」と思って。いわゆる「尺」の違いだと思うのですが、アニメは筋をパパパッと追っていて、とてもわかりやすくなっていますね。おそらくダラダラ長くやっても集中力が途切れるから、こういう凝縮したもののほうがいいと思います、アニメとしては。

古橋一浩監督をはじめ、アニメのスタッフさんたちには本当に感謝していて、この場をお借りして「ありがとうございます!」と伝えたいです。


犬は、犬として扱ってほしい

――作品の内容についてうかがいたいのですが、主人公の未祐と丹羽は、先生ご自身が投影されていると聞いています。それは、具体的にどんなところでしょうか?

©みやうち沙矢/KADOKAWA/NHK・NEP

みやうち 丹羽については、もう昔の私自身ですね。彼は犬のことしか考えていなくて、犬のことをちゃんとできない飼い主に対して正直に、言いたいことを言うところがあるのですが、私も若いころは変な正義感というか、社会的にまっすぐ主張しなければいけないという思いがすごく強かったんです。

私は少し変わったファッションが好きだったのですが、周りからジロジロ見られたりするのが嫌で「見た目で中身が決まるわけじゃないのに!」と思う人間だったので。そんな思いを、私は口にすることなく漫画に込めていたのですが、丹羽には「あのとき、こう言ってやりたかったな」ということを、これではダメだということをわかりつつ、やってもらっている感じですね。

また未祐は、私の視界がもうちょっと広くなって、「人にはいろんな状況があるんだから、その人のことも考えながら物事の判断をしよう」と思い始めた自分から作ったキャラクター。なので、犬のことを考えつつ、周りの人のこともちゃんと考えられる、ちょっと柔らかい子になっています。ああいう子がそばにいてくれたら、ダメな丹羽も何とかなるんじゃないかな、と思って。

――その一方で、年明けの放送から本格的に物語に登場している優子には、犬を飼うことを安易に考えている人たち、意識していなくても犬を巡る問題に結びつく行動をとっている人たちの姿が投影されているように思います。

みやうち 優子のエピソードは、小さな犬を求める人がすごく多くなった時期に、小さければ小さいほど高い値段がつくという状況で、私が「どういうことなんだ?」と悩んだり、腹を立てたりしていたことがあって、いつか犬の漫画が描けることになったら、それも入れ込みたいと思っていたものです。

優子と小さいプードル
©みやうち沙矢/KADOKAWA/NHK・NEP

だから、犬を見た目や珍しさで飼ったり、お人形さんのように扱ったりする人たちの象徴として、ダメなところ「全部盛り」のようにして描きました。私は、優子に対しては厳しくて、絶対に許せないなと思っているのは、彼女がサンジュ(当時の名前は、プリンス)を捨てたという事実があるから。

もし、兄くんが誰かが捨てた子で、私が飼い始めたとしたら、私は捨てた人のことは一生許せないと思うから。……ただ、優子を演じてくださっている伊瀬茉莉也さんの声が、めちゃくちゃかわいいんですよ。優子にはもったいないと思うくらい、本当にかわいくて。あと、担当さんが優子にちょっと優しいです(笑)。

編集・宮内 優子は「更生」していきますからね(笑)。

▼優子が登場する12話の見逃し配信はこちら▼
アニメ ドッグシグナル(12)未祐のパートナー - NHKプラス

――この作品で、丹羽のドッグトレーナーとしての信念である「人が変われば(犬を飼う人間の意識が変われば)、犬も変わる」ということはテーマのひとつであると思うのですが、ほかにもありますか?

みやうち そうですね……。たくさん描きすぎて、特に「ここ」という感覚はあまりないのですが、「犬を犬として扱ってください」ということは、大きなテーマになっていますね。

――アニメの第8話「ひとりじめ」で、丹羽が「犬の習性を理解し、人間とは違う生き物として、『犬』として扱ってやることが本当の幸せに繋がるんです」と言っているところですね。

みやうち はい。どんなに可愛くても、人間の感覚で大事にしていたら、犬は幸せにならないと思っています。この「犬は犬」という言葉には、SNSでも反応してくださっている方が割といるので、アニメを通しても伝わったかなと感じました。

――丹羽のドッグトレーニング法については、先生のご経験がベースになっているのでしょうか?

みやうち そうですね。私も昭和のころから犬と関わってきたので、ドッグトレーニングの移り変わりも見てきているし、昔は本にも、今では間違っているとされるトレーニング法が書いてあったりしたので、その通りにやってみて上手くいかなくて「しつけって、大変なんだな」と思っていたんですよ。

その私が、今、犬をコントロールする勉強をしたうえで犬に何かを伝えると、「こうしてくれる?」とお願いしたことをやってくれるようになったので、「あ、そんなに難しいことじゃなかったんだ」と思うようになって。

昔からのやり方や常識とされてきたもの、それぞれの家庭の状況もあると思うのですが、私はちょっと視点を変えただけで本当に犬のしつけが楽になって、いろんなことを一緒に楽しくできて、楽しかったんです。この15年間、兄くんや坊ちゃんと、それ以前に一緒に暮らしたワンちゃんとはできなかったことが、たくさんできたんですね。それを、多くのみなさんにも気づいてもらえたら、と思っているんです。

©みやうち沙矢/KADOKAWA/NHK・NEP

――ドッグトレーニングなんか必要ない、楽しく遊ばせて、やんちゃなくらいがかわいいんだと考えている人もいるかもしれませんね。

みやうち トレーニングって勉強や学習ではなくて、楽しく過ごすためのセオリーというか、遊びなんですよ、犬にとっては。だから、ただ遊んでいるだけで、こちらの遊ばせ方が違うだけで犬はいろんなことを覚え始めるので。それを覚えてくれると、こっちも楽しくなるので。

もしかしたら、トレーニングという言葉で、ちょっと一歩引くのかもしれませんね。「勉強しなさい」と言われているみたいで。例えば、ゲームが好きな人が、ただ楽しくゲームをやっていたら、いつの間にかいろいろな技を身につけているのと同じで、犬は遊ぶことが大好きだから、一緒に楽しく遊んでいるうちに犬の扱い方を覚える、という感じでしょうか。


「雪月風花」を聴くたびに泣いています

――高橋優さんが歌うオープニング曲の「雪月風花」は、歌詞もメロディーも強く胸に迫ってくるものだと思うのですが、先生は曲を聴いてどのように感じましたか。

みやうち 放送が始まる前に「雪月風花」を聴かせていただいたのですが、もう聴くたびに泣いて「私、何か月泣いているんだ?」と思うくらい泣いていました。本当に、今もちょっと思い出すと涙が出てくるんですけど。こんな音楽が、私の作品に……。(オープニングテーマソングの公式X投稿はこちら)※記事の末尾に移動します

あと高橋さんが、私の漫画を読んで歌詞を書きました、みたいなことをおっしゃってくださって、私の作ったものが高橋さんの手に渡ったら、「こんなにすごいものができ上がるんだ!」と思ったら、また感動して。あの歌詞が、もちろんメロディーもいいんですけれど、そこに乗った歌詞が、私の兄くんが闘病して亡くなったことに重なって、ほんまに泣くんですよ。

冒頭の「並んだ影 追いかけて」のところで、私と兄くんと坊ちゃんが3人で歩いていたことを……(涙声)、思い出して……、泣いちゃうし。あと「君が好きだ とても好きだ」と何度も繰り返してくれるじゃないですか。

それが私、兄くんが私に言ってくれているように感じて、ダメなんです。泣いてしまって……。最近、ちょっと聴いたくらいでは泣かなくなっていたのですが、やっぱり時々気持ちが入っちゃいますね。

――高橋さんご自身も、原作について「泣きながら読み進めたシーンが多数」と公式サイトでコメントされていましたが、それだけ感動が大きくて、それがあの歌詞に結びついたのかな、と感じました。

みやうち 私は漫画を、自分の全部を出し切って、それこそ血ヘドを吐くような思いをしながら描いているのですが、それを受け取った方にどんな感情が芽生えたのか、私の気持ちがどんなふうに入ったのが、計り知れない部分もどこかにあって。もちろん、それを言葉にしてお手紙やSNSでいただいて、喜んでくださったこと、泣いてくださったことは理解できるんですよ。

それがやっぱり音楽ってすごいなと思うのは、「雪月風花」は私の心の中に「ドンッ」って入ってきて、直接心を揺らされたんですよ。あの高橋さんの中に私の作品が入ったことで、こういう音楽が誕生する……。

何と言えばいいのかな、「電子レンジの中に入れてみたら、ものすごいものができ上がった」みたいな。私が思っていたことが、何倍にもなって戻ってきたという感じです。

――それがまた、みやうち先生にとって大きな刺激となって、これからの物語にも影響してくるかもしれませんね。

みやうち きっと、そうなると思います。
(以下、インタビュー後編に続く)

みやうち沙矢 (みやうち・さや)
3月29日、大阪生まれ。大阪在住。1988年、講談社「別冊フレンド」に投稿した作品が評価されて、同年に漫画家デビュー。主に「別冊フレンド」で活躍し、「書き順の問題」「ネイキッド」「ほんまに関ジャニ∞!!」など多くの作品を発表。犬をテーマにした作品としては、盲導犬の成長を描いた「永遠のウィズ」、セラピードッグを描いた「キミノココロ ボクノココロ」、トリマー女子高生の恋愛を描いた「あたしとハサミは使いよう」などがある。2018年から「DOG SIGNAL」の連載がスタート。
宮内彬起(みやうち・よしき)
株式会社KADOKAWA コミック第2局 コミック第4編集部 COMIC BRIDGE編集部 編集長。編集者として「DOG SIGNAL」を担当。

☆インタビュー後編では、原作「DOG SIGNAL」が誕生した経緯や、アニメのアフレコ現場に立ち合った際の印象などを紹介しています。後編はこちらからご覧いただけます。

取材・文/銅本一谷

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。


 

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