NHK財団は、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社と連携し、8K技術とAI音声合成技術を活用した『災害の記憶 デジタルミュージアム』を開発しました。このミュージアムにも掲載する震災資料を活用した授業が都内で行われました。その模様をリポートします。
2023年10月、成城学園初等学校4年生の子どもたちは、江戸時代の史料から災害のようすを読み解く、というちょっと難しいミッションにチャレンジしました。
地盤や地形、気象現象などに由来する地域特有の複合災害は、切り開いて造られた都市では意識しづらいことです。そこで授業では、デジタル・アーカイブを活用し、江戸時代のさまざまな資料を読み解いていくことにしました。
8K防災授業の準備は猛暑の7月、「授業のテーマ決め」から始まりました。
同校社会科の宮田諭志教諭は、デジタル・アーカイブを活用した授業の達人です。4年生の社会科単元「自然災害から人々を守る」に合わせて、8Kデジタル化された史料を使った、「過去の災害から何を学び、伝え、繋ぐか」を子どもたちに考えてもらうことになりました。
東日本大震災の後に生まれた4年生の子どもたちも「大地震と津波」は何となく知ってはいる。けれど、東京で暮らす自分たちが何を心がけるべきなのか、知る、考える機会は多くはありませんでした。
この日の授業は、「地震と気象」に詳しいNHK番組「ニュースウオッチ9」の気象キャスター斉田季実治さんと、「地震に関する史料を読み解くこと」が専門の東京大学地震研究所准教授 加納靖之先生が特別講師として参加してくれました。
授業前半【江戸の地震と文化(歴史の中の地震情報伝達)】
はじめに、斉田さんから「緊急地震速報が出たら、まず何をするか」、3つのポイントを教えてもらいました。
子どもたちは真剣に耳を傾けます。
続いて100年前の1923年9月1日、関東大震災当日の天気図が登場します。
被災した日は、台風による強風が、火災の延焼を引き起こし、被害を大きくしました。風が強く、1日のうちにその風向きが大きく変化したことで延焼の方向が次々に変わり、被害範囲が広がったことを斉田さんは説明します。
関東大震災に限らず、地震と他の要因が重なったことによる複合災害は過去に何度もありました。
例えば、2004年の新潟県中越地震では、台風と地震に加えて2か月後の豪雪が建物などの被害を拡大させました。また、2011年の東日本大震災では、地震により大きな損壊を受けた原子力発電所が、約50分後に押し寄せた津波により、非常用電源までもが損傷し、大規模な原発事故につながりました。授業では、こうした実例を通して、度重なる複合災害について詳しく学びました。
「自分の身を自分で守らないとだめだと思った」(授業に参加した児童)
斉田さんからも、
「災害時には自分のことは自分で守れるように考えて行動してほしい」
というコメントもあり、子どもたちは自分ごととして考えることの大切さを改めて学びました。
続けて、宮田先生は子どもたちを現代から過去へタイムスリップさせます。
「どこか見覚えのある写真、さあどこでしょう?」(宮田先生)
「浅草!」(子どもたち)
との声があちこちから。
さすが、東京を代表する国際的観光地なだけあって、みんな知っていますね。
みんなが知っている現代の浅草、今とそこまで大きく変わらない昭和の浅草の映像を見て、さらに時間をさかのぼって江戸時代に。子どもたちの目の前に広がった映像は、1855年(安政2年)の浅草です。
いよいよここから、過去の地震について調査・研究をされている加納先生の授業の始まりです。
「これは、安政江戸地震の大火の記録が残された絵図です。当時の人々が描いたものから、いろいろなことが分かります。江戸時代の人々は、何を伝えたくて描き残したのでしょうか?」(加納先生)
「浅草観世音(浅草寺)周辺の地図だけど…、何か黒いモヤモヤが描かれている」(子ども)
と、絵図を見て、震災後の火災の発生に気付いた児童もいました。
「安政江戸地震は安政二年十月二日(1855年11月11日)の午後10時頃発生しました。現在の東京や神奈川県、千葉県のあちこちで震度5、あるいは震度6を超える揺れがありました。江戸市中では死者数1万人前後、火災による全焼失面積は1.5 平方キロ程度でした。火災の発生場所は、揺れの強いところとほぼ対応しています」(加納先生)
現代の東京は、この地震が発生した約170年前よりずっと広い範囲にわたって都市が展開されています。南関東地域を震源とする、過去最大の直下地震である安政江戸地震の被災情報には、現代に生かせるものも多くあり、来るべき都市直下地震への備えが必要なことを学ぶことができました。
授業後半【防災グループワーク(地震の2次災害を考える)】
後半の授業では、グループワークを行いました。震災絵図の拡大画像を手元で見られる「8Kズーム視聴用タブレット」を使い、江戸安政地震の絵図から、「自分ごととしてどう捉えるか?」「過去からの教えを身近な人にどう伝えるか?」を考えていきます。
大画面モニターには、他のグループが見ているタブレット画像の範囲が表示されます。これを見ながら、他のグループと重ならないポイントを探す工夫をしているグループもありました。
さあ、子どもたちは、災害絵図のどこに着目し、話し合いをしたのでしょうか?
◯村から火が出て人が逃げている。子どもがいるから火事になったら危ない、と伝えている。
◯煙の数を数えたら約20カ所あった。そのぐらい大きな被害があったということを江戸時代の人は伝えたかった。
◯火災も起きているし、建物が崩れ落ちて埋もれている人がいて、そういう大変な被害があったことが伝わってきた。地震が起きたことで、その振動で埋もれたんだと思う。
これを受けて、加納先生より子どもたちへ問いかけがありました。
「人それぞれ感じたことが違うかも知れないし、同じことを感じたかも知れない。私たちが住んでいる地域に地震が起きた後、どんな災害が起きそうだと思いますか?」(加納先生)
「ビルが崩れて火災が起きる」
「建物が崩れたり人が埋もれたりするよと、伝えてくれている」
などといった子どもたちからの答えを聞いた加納先生は、子どもたちにこう語りかけます。
「江戸の人たちは、被害の様子を絵や文字として残してくれました。こういう記録が、今後の地震に備えるための助けになったらいいなと思います。今日学んだこと、気付いたことは、避難訓練の時にも思い出してほしいです。江戸時代と違って、ビルなどの建物が安全になってきた一方で、建物の中には危険があります。家に帰ったら、自宅の本棚など、倒れる可能性のあるものを点検してください 」(加納先生)
最後に宮田先生が、
「関東大震災から100年が経過し、大きな地震は70~80年に一度来ると言われています。この出前授業で学んだことは自分を守るために大切なことです。家族や友達にも、ぜひ伝えてください」
と発言され、授業を締めくくりました。
子どもたちはこの授業を通して、170年前の江戸の人々からのメッセージをしっかりと受け取ってくれました。学校教育にデジタル・アーカイブの活用の輪が広がり、継承と学びを紐づけた教育の大切さを現場でも感じました。
【授業を終えて】
今回の8K防災授業は、貴重な史料の活用とデジタル化を進めているあいおいニッセイ同和損害保険株式会社、歴史資料の解読に取り組まれている「みんなで翻刻」プロジェクト、全国各地で防災教育に力を注がれる気象キャスターネットワークのご協力により実現しました。
子どもたちの学びの場がデジタル世界にシフトしていく今日、情報空間の健全性や情報の信憑性がさらに重要になると、NHK財団は考えています。貴重な史料のデジタル化とともに、その出会いが確かな情報のもとに生まれるよう、今後も事業の開発と必要な場への支援を行っていきます。
【国立科学博物館 関東大震災100年企画展への出展】
今回の防災授業で活用した江戸時代の災害史料は、関東大震災100年企画展 「震災からのあゆみ ―未来へつなげる科学技術―」(開催期間:2023年9月1日~11月26日)の特設会場、8Kで観る『災害の記憶 デジタルミュージアム』で体感いただけます。
(特設会場/会期:日本館1階中央ホール/10月11日(水)~11月26(日))
企画展の詳細はこちらから(国立科学博物館サイト)※ステラnetを離れます
▼詳しいイベントの内容はステラnetでも公開中です!▼
8Kで観よう!!『災害の記憶 デジタルミュージアム』が私たちに教えてくれること
NHK財団 社会貢献事業本部 木村与志子