「N響×青のオーケストラ コンサート」
Eテレ 6月11日(日曜日) 午後3:55~4:55
【「青のオーケストラ」番組 HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/


5月7日に東京芸術劇場コンサートホールで開催された「N響×青のオーケストラ コンサート」では、日本最高峰のオーケストラであるNHK交響楽団が、アニメ「青のオーケストラ」に登場する名曲の数々を演奏。アニメに出演している声優たちもゲストに登場し、オーケストラとアニメの両方の魅力を楽しめるコラボ・コンサートになりました。演奏会の具体的な内容は、すでにお伝えしていますが、その模様がEテレで放送されるにあたり、ライター・銅本一谷がテレビ収録の舞台裏を紹介していきます。演奏会の最中に起きた、ある事件とは!?


綿密な打ち合わせを経てコンサートへ

日本を代表する指揮者のひとり・秋山和慶さんとN響の顔合わせ、そしてアニメ「青のオーケストラ」の主人公・青野一の演奏を担当する気鋭のヴァイオリニスト・東亮汰さんが参加することで大きな話題を集め、チケットも完売していた「N響×青のオーケストラ コンサート」。
ということで取材してきました、東京芸術劇場! あいにくの雨だったけれど駅近の立地だから、ほぼ無問題。会場に入ると、演奏中にアニメの映像を映し出す巨大なスクリーンやPA装置のセッティングはもう完了していました。聞けば、前日の夕方から夜にかけて機材の搬入・設置を行ったそうです。

私が到着したのは、午前11時30分から行われていたN響によるゲネプロの真っ最中でした。舞台裏まで伝わってくる、まごうことなきN響サウンド。午後4時開演の本番に向けて、着々と準備を整えている感じが伝わってきます。午前中に会場入りしていたという司会の秋元真夏さんと林田理沙アナウンサーも、このゲネプロを見学、そして現場確認をしていました。
というのも今回の放送では、演奏会の中継だけでなく、番組としての独自企画を用意。秋元さんと林田アナは、その中の「秋元真夏のN響突撃レポート」も担当します。おっと、これは盛りだくさんの内容になりそうだな。カメラ・クルーは、その映像素材を集めるために、客席や舞台袖などからゲネプロ風景も撮影していました。

司会を務めた秋元真夏(左)と林田理沙アナウンサー。写真提供:NHK交響楽団

午後1時25分には、ゲネプロが終了して休憩に。それでも何人かのN響メンバーはステージに残り、演奏する楽曲の中で自分が気になる箇所をさらっています。N響だけじゃなくて、演奏家はみんなそうなのかもしれないけれど、寸暇を惜しみ、妥協なく演奏を突き詰めていこうとする姿は、見ているだけで感銘を覚えますね。

休憩の後には、すでに到着していた声優の加隈亜衣さん、土屋神葉さん、佐藤未奈子さんを交えて、舞台脇でトークパートの打ち合わせがスタート。今回、声優の3人は、ステージ下手にあるバルコニー席でN響の演奏を楽しみながら、曲間で「青のオーケストラ」について話をするというスタイルになっています。キャラクターの説明やヴァイオリンという楽器の魅力など、何についてトークするのか、台本を見ながら段取りを確認していく出演者たち。コンサート開催日と番組放送日の間に1か月ほどあるから、どこまで詳しい内容を話していいのか、ネタバレにも気を遣いますよね。

その打ち合わせ中に流れてきたのが、パッヘルベルの「カノン」の音色。ステージの様子が映し出されたモニターには、東亮汰さんの姿が捉えられていました。おお、個人練習ですね! さらには、ヴィヴァルディの「四季」から「春」と「夏」も。えっ、それ、打ち合わせのBGMにするには贅沢すぎませんか!?(笑)
さらにトークパートの打ち合わせは、バルコニー席及びステージに移動して継続し、カーテンコールまでの動線を確認。声優の3人は初めてN響と同じステージに立つことで、すでに少々緊張しているように見えました。それはそうだよね。こんな機会、なかなかないもの。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

トークの打ち合わせが終了したのは午後2時45分くらい。ほどなく午後3時の開場を迎え、ロビーや客席にお客様の姿が増えていきます。一方、楽屋前では秋元さんと林田アナによる「真夏のN響突撃レポート」の収録がスタート。N響のメンバーである村尾隆人さん(1st ヴァイオリン)、長谷川智之さん(トランペット)、野見山和子さん(ホルン)にインタビュー取材を行い、「オーケストラで合奏する喜び」や「『青オケ』に対する印象」などについて話を聞いていきます。

その収録カメラの後ろにはN響の重鎮メンバーたちが控えていて、「そこは弾いてみようよ」「カンペ出そうか?」と口々に呟いて。うわっ、先輩たちの愛のある突っ込み、容赦ないな(笑)。さらに秋元さんと林田アナは、秋山マエストロにも突撃! はたして、どんな話が引き出されたのか!? それは放送をお楽しみに。


どうして? 東さんが登場しない!

さて、コンサートは午後4時に開演。N響のすばらしい演奏と楽しいトークを交えながら、順調にプログラムは進んでいきました。詳細な内容については、こちらの記事をご覧いただくとして、実は、ここには書いていない、おそらく放送もされないだろうと思われる、ある事件が起きたのです!

写真提供:NHK交響楽団
ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

それは3曲目の「四季」より「春」第1楽章と「夏」第3楽章の演奏直前。林田アナが曲名を告げて舞台袖に移動したところで、登場するはずの東亮汰さんがなかなか姿を見せず、不自然な「間」があったのです。すでにステージ上に控えていたN響メンバーたちも怪訝な表情を見せ、お客さんの間にも「?」という空気が流れ始めたときに、林田アナが再び登場。「四季」の楽曲紹介を始めたから、観客席にいた私も「あ、何かあったのだろうな」と直感しました。この間、時間にして約3分。その後、東さんがステージに現れて、何事もなかったように「春」の演奏を始めたのですが……。

後で話を聞いたところによると、実は「四季」演奏のためにステージ脇に控えていたところで、ヴァイオリンの弦、A線が切れてしまったそう。なんですと? 弦が切れた!? 東さんはすぐに弦を張り替え、調弦を終えて、ステージへ。でも特に動揺することなく、落ち着いて弾くことができたそうです。何その、鋼メンタル。そんなトラブルがあったことなど、聴いていて露ほども感じなかったよ……。

そして、サプライズがもうひとつ。こちらは紹介済みだけど、コンサートの休憩時間には、この日のほぼ同時刻、Eテレで放送されていた「青のオーケストラ」の第5話「原田蒼」が、スクリーンで上映されたのでした。
場内のアナウンスでは「トイレ休憩の優先を」と案内されていたものの、多くのお客様が客席で鑑賞。そりゃ、そうだよね。映画館でなければ、300 インチという大画面でアニメを見られる機会はなかなかないし、しかも「演奏バトル」のシーンなんて、音楽ファンなら聴き逃せないもの。
それは加隈さん、土屋さん、佐藤さんも同じ気持ちだったらしく、バルコニー席を見ると、いつの間にか3人の姿が! つまり声優さんと同じく空間で作品を楽しむ「同時視聴の会」になったわけですね。めちゃくちゃ貴重な機会だったなー。

 写真提供:NHK交響楽団
ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そして演奏会後半で、ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調「新世界から」が演奏されると、会場は熱狂と興奮のるつぼに。カーテンコールには声優の3人も登場して大きな拍手を受けました。終演直後、その興奮が冷めやらぬうちに、カメラ・クルーは取材を開始。声優の3人、秋元さんと林田アナ、そして東さんに、きょうのコンサートに参加した感想を聞いていました。
皆さんが異口同音に語っていたのは、「演奏のエネルギーに圧倒されました」ということ。そして「贅沢で、幸せな時間になりました」とも。

最前列左から佐藤未奈子、土屋神葉、加隈亜衣、秋山和慶。写真提供:NHK交響楽団

そしてまた、お客様も同じような印象を持ったようで、アンケートには「たくさんの人とたくさんの楽器が、ひとつの世界観にまとまっていて感動しました。声優さんを生で拝見できたこと、ホールでアニメを鑑賞できたのもうれしかったです」「アニメの世界に入り込んで、青春を共有した気分になりました」「『青のオーケストラ』で奏でられる数々の曲を、生演奏とアニメのシーンで振り返りながら聴けてよかった。新世界の演奏が圧巻でした」「コンサート第2弾もあるとうれしいです!」などの声が寄せられました。

きわめて満足度の高かった「N響×青のオーケストラ コンサート」のエッセンスを濃縮した 60分の番組は、Eテレで6月11日(日曜)に放送。アニメでは海幕高校オーケストラ部の部長・立石真理を演じた声優・小原好美さんのナレーションで、濃厚な時間を存分にお楽しみあれ!

*「N響×青のオーケストラ コンサート」は見逃し配信もあり! NHKプラスで6/18(日曜)午後4:55 まで。
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2023061102464

取材・文/銅本一谷