「超多様性トークショー!なれそめ」
Eテレ  毎週(金)午後10:00~10:29
再放送 毎週(火)午前0:00~0:29(月曜深夜)
NHKプラスでは同時配信、放送から1週間見逃し配信しています。

女子校出身のトランスジェンダー正木菜々瀬が、これまでの経験などをもとに番組をレビュー。独自の視点で感想や見どころなどを綴っていきます。誰かの背中をそっと押すような、そんな番組との出会いを皆さんに届けていきます。

「今の自分が好きでいられるように、自分らしく正直に生きたい――」。
私がそう願うのは、自分に正直に生きられなかった過去があるからだ。ありのままの自分を受け入れ認めることは、私にとっては葛藤と苦悩の連続であった。しかしその中で、どれだけ長い時間をかけても、何度道に迷っても、今の自分を信じて受け入れることが、モノクロの人生に彩りを添えると知った。
「超多様性トークショー!なれそめ」4月14日(金)の放送は、私の人生を見つめ直す機会となった。

この回のゲストカップルは、元警察官のKOTFE(コッフェ)さんと元消防士のKANE(カネ)さんの同性カップル。

元警察官&元消防士のふたりは、どのように出会い、カップルになったのか? 同性愛者としての戸惑いや苦悩、そしてそこにはどんな葛藤があったのか? 今回も「なれそめ」のキーワードを記した「なれそメモ」をもとに、司会の田村淳さんをはじめ、ゲストの方々が掘り下げた。

ふたりは元警察官と元消防士ということで、私も仕事の関係で出会ったものと想像したが、きっかけは同じ境遇の友達がほしいという理由で始めたSNSだった。そんな偶然の出会いを聞くと、運命的なものを感じるのは私だけではないだろう。

ふたりが初めて出会ったときKANEさんは、まだ自身がゲイであることを受け入れることができなかったという。

トランスジェンダーとして生きる私は、KANEさんが18歳のときに男性が好きだという気持ちに気づいてから自分を受け入れるまでの葛藤を聞いて、胸が痛くなるほどの共感を覚えた。

同性を想う気持ちがいけないと誰かに言われたわけでもなく、同性を好きになることがダメだと教わったわけでもない。 それでも、心と体の性別に違和感をもった自分の気持ちにふたをするべきだと、5歳のころの私は思っていた。ひとり孤独に感じた日々を、今でもよく思い出す。

きっとKANEさんも、世の中の“当たり前”に押しつぶされたことや、自分が思い描く希望を自然とあきらめてしまっていたのではないだろうか。

そして、KANEさんが自分の気持ちと正面から向き合う契機となったのが、 KOTFEさんとの出会いだった。KOTFEさんの大きくまっすぐな愛に、 KANEさんの止まっていた時間が動き出した――私はそんな印象を受けた。

自分を受け入れるのに長い時間がかかる人もいれば、なにげない日常の出来事がきかっけで救われる人もいる。自分の受け入れ方も多様であっていいと私は思う。人と違うから幸せを手にいれられないのではない。人と違うからこそ、得られる特別な幸せがあるのだと思いたい。
「多様な幸せのかたち」を、KANEさんとKOTFEさんは見せてくれている。

もうひとつ私が共感したのは「ウソの設定」。
職場などで恋人について聞かれたときに、ウソの恋人の写真を見せるなどして、その場を乗り切っていたという話だ。ゲストの方は首をかしげていたようだが、私は「ウソの設定」の意味するところが一瞬でわかった。

恋人がいることは隠したくないが、相手が同性であることは明かしたくないのだ。
かつて私も、男友だちの写真を使って「ウソの設定」を作っていたことがある。毎回ウソの話をしていると、どんな設定にしていたか忘れて焦ることもしばしば。だんだん自分がいやになり、疲れてしまった。

なぜ、ここまでして隠さないといけないのか――。
最初は自分を守るためについたウソだったが、気がつけばそのウソで自分を傷つけていた。ウソをつくことは良くないとわかっていても、そうするしかない。私をとりまく社会環境が、私らしく生きることを否定しているようにも感じた。

すべからく誰もが皆、異性が好きだとは限らないし、恋愛をしたいわけではないのだ。そのことは、いま社会のなかでまだまだ知られていないように思う。
「理解することと知ることは違うし、いろんな人間がいて当然」
ゲストのLiLiCoさんの言葉が私の胸に響いた。

悩み苦しんだつらい過去は、全て忘れてしまいたいとも思う。
しかし、次の世代のために、誰かがロールモデルとなって社会の“あたり前”を変えていかなくてはならいない。過去の自分も今の自分も否定せず受け入れ、ありのままの自分を好きでいたい。KANEさん、KOTFEさんがそう思ったように。

そんなふたりが考える「超多様性」とは?
「自分自身の多様な部分を認めること」(KANEさん)
「ひとりひとりが自分の人生に集中すること」(KOTFEさん)

ひとりの人間の中には、多様な考えや思いがあふれている。
それが社会の“あたり前”から少しずれていたとしても、多様な自分を認めることで人生は彩りを増していく。自分の人生から目をそらずに生きる大切さを、今回のふたりの「なれそめ」が教えてくれた。

(文/正木菜々瀬)

4月21日(金)の放送は、
安室奈美恵やBTSなど500以上の楽曲を手がける作詞・作曲家の岡嶋かな多さん&超ポジティブ思考で型破りに応援する澤田知之さんカップル!

https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/episode/te/18KJ5KQP39/
(放送後、1週間見逃し配信しています)

元警察官&元消防士の同性カップルのなれそめは、21日(金)深夜に総合テレビで再放送があります。
4月22日(土) 午前2:46【総合】(※金曜深夜)
https://www.nhk.jp/p/naresome/ts/KX5ZVJ12XX/episode/te/6QWJ6Z2V4M/
(放送後、1週間見逃し配信しています)

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。