体が不自由になっても認知症になっても、自宅で安全・快適に暮らすにはどうすればいいのか。収納のコツや片づける際の注意点を紹介します。
聞き手/佐治真規子
片づけの極意は“知る”こと
――片づけをするときに大事なことは何でしょうか。
弘瀨 長く住んでいる人の習慣を変えないことと、この先の心身の変化を想定することです。車椅子になるかもしれないなど、特に体に起こる変化を考えておくといいですね。
また、お子さんが実家を片づける場合には、自分の価値観で片づけないように注意しましょう。大切なのは、今そこに住んでいる人の生活を知ることです。ここでは何をするのか、朝起きたらどう動くのかなど、住む人の気持ちや習慣をいちばんに考えてください。
――片づけをすることは、自分や家族の歴史を振り返ることにもつながりそうですね。
弘瀨 物が教えてくれる情報というものもあります。親子なら、一緒に父や母の時代へ時間旅行に行くような感覚ですね。
私が以前、母と実家のクローゼットを整理していたら、すごく派手なスーツが出てきました。今はもう着られないのになぜ大事に持っているのかと聞いたら、それは母がお給料をためて初めて洋服屋さんであつらえたものだったんです。父の家に結婚の挨拶に行ったときにも着ていたという思い出のスーツで、たとえ着られなくてもそれがあることで昔を振り返り、自分が輝いていたころに立ち戻れる大切なものだと知りました。
――一緒に片づけながら、思い出を語り合う。
弘瀨 その時間がとても大事だと思います。思い出を話して誰かに伝え、そうすることで物への執着が薄れることもあります。
――お互いに理解し合う機会でもあるんですね。
弘瀨 そこに住んでいる人のことを知らないと、片づけはできません。その人が置かれている状況が分からなければ、単なる優しさの押し売りになってしまいます。何事にも、人を理解することが大切だと思っています。
生活しやすさのポイント
――家の中で転ばないようにするなど、安全面で気を付けることは何でしょう。
弘瀨 床に散らばったものを踏んで転倒、骨折して入院というのはよくある話
です。家の中には転倒を招く危険がたくさんあるので、ぜひ「 “ぬかづけ”に注意」(後編で紹介)と覚えてください。
――具体的に、どう片づけるといいですか。
弘瀨 まず、物は取り出しやすい位置に収納してください。一般的に、腰骨から目の高さの間が物の出し入れがしやすい高さです。背伸びしたりしゃがんだりする上下の動きが少なくなって、横の動きだけで物の出し入れができるので体の負担が減ります。さらに、そこに集中して収納することで床に散らばるものが少なくなり、つまずいて転倒する危険性が下がります。
また、長年の習慣で「ここにあるべき」と思い込んでいることはないでしょうか。例えば冬にしか使わない土鍋。食器棚の上に置いている方も多いでしょう。それを低い位置、流しの下などにしまえば、出し入れの際に椅子に乗って転落する心配もありません。
――転倒して骨折したのが原因で、寝たきりになってしまうケースもあります
ね。
弘瀨 体が動かなくなると気持ちも沈んでしまい、骨折が治っても動けなくなる
方もいます。そうならないためにも、転倒しない工夫、床に物を置かないようにしましょう。
また、記憶力や体力が衰えて、自分ではもうできないと諦めていたことも、ちょっとした工夫で「できる」に変えられます。後編で紹介する「『できる』が増える!片づけのコツ」を参考に、 「できる」を増やす片づけを実践してみてください。まだできるんだという気持ちになっていただけたらうれしいです。
▼後編はこちらから▼
https://steranet.jp/articles/-/1728
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