松本潤主演の『どうする家康』。
2話の世帯視聴率は初回とほぼ同じだった。連続ドラマは通常、“2話の谷”と言って、2話目で1~2割視聴率が下がり、3話目でその半分ほどを取り戻すことが多い。
ところが今回は、若年層や男性が多少減ったものの、女性やTVドラマ好きが増えると共に、SNSなどで話題となったため、数字は減少せずほぼ横ばいとなった。
おそらく物語の展開が、視聴者を惹きつけたのだろう。
視聴者がどこに魅了されたのかをデータで分析してみた。
視聴データの波形に異変!
まずインテージ関東地区データで、初回と2話の見られ方を比較してみよう。
初回は松本潤主演ということもあり、番組開始10分間で視聴者が一挙にチャンネルを合わせて来た。ところが以降の接触率はほぼ横ばいに留まった。
一方2話では、開始前後は落ち着いていたが、その後は右肩上りの波形となった。
物語の展開に引き込まれる視聴者が多くなってきたことを意味する。ドラマの魅力が増していると言えそうだ。
ただし課題が1つ浮上した。
オープニング映像と曲が始まると一挙に流出者が4~5倍となり、接触率を急落させてしまった(☆1)。
実は初回のオープニングでは、流出増は全く起こっていない。
初めて見る映像と音楽に、視聴者が興味を示して見続けたからだ。ところが同じ映像が2分40秒以上続くと、ザッピングする人やそのまま戻ってこない人が発生する。
やはり番組序盤の長いオープニングは、『どうする家康』でも悪手であることが証明された。今後の課題と言えよう。
ただし初回の失敗からの改善もあった。
終盤56分以降で場面転換にタイトルロゴを入れたために、物語が終わったと勘違いした視聴者が大量に見るのをやめてしまった(☆2)。
制作陣は奇抜な演出と思ったのかも知れないが、視聴者の誤解で0.3%を一瞬にして失った。きっちり総括したのか、2話では同じ過ちは繰り返していない。
流出率データから見えるもの
流出率とは、番組途中でチャンネルを替えたりテレビを消したりした人の割合だ。
初回は60分といつもより長い放送だったため、見どころを複数にして視聴者を引き込み続ける工夫があった。
前半の注目ポイントは、松本潤と有村架純の場面。
人形あそびや鬼ごっこに興ずる二人、家康出陣前の二人の心温まるラブシーンで、流出率は極端に低くなった。
後半は一転して戦場シーン。
今川義元(野村萬斎)と家康の「王道と覇道」についてのやりとりなどに視聴者は魅了されていた。
※詳細は【どうする家康】松本潤×有村架純で初回から新境地 | ステラnet (steranet.jp)参照
ところが2話は戦術を一変させた。
グラフで一目瞭然、流出率は山場に向けて徐々に下がっていく。盛上げがじわじわ効くような展開が計算されていたことがわかる。
接触率が右肩上りになった所以である。
特筆すべきは山場までの展開。
ジャンプする前に一度身を屈め、その後に思いっきり跳躍するような構成だ。
まず岡崎に出向いた家康が、大樹寺で敵に包囲され万事休す。父の墓前で自害を覚悟するプロセスで流出率はかなり低くなった。
さらに大ピンチから覚醒して、はじめて立ち上がるシーンが最高の山場。
浄土教の用語「厭離穢土欣求浄土」の別の意味を知り、家康が一皮むけ“兎から虎”に大化けした瞬間だ。
普通は「現実の世の中は、穢れた世界であるからこの世を厭い離れ、次生において清浄な仏の国土に生まれることを願い求めること」と解釈される。ところが居合わせた榊原小平太(杉野遥亮)から、“あの世に行けではなく、穢れたこの世をこそ浄土にすることをめざせ”と教えられたことが転換点だった。
二人のシーンは、流出率0.2%未満を記録した。
初回から2話までの最高記録だ。やはり物語は、パワーワードがうまく展開にハマると威力を発揮する。
ちなみに私事で恐縮だが、筆者はこの言葉と縁がある。
岡崎高校の時の担任が、近隣の幸田町のお寺の住職だった。彼から欣求浄土を滾々と説かれたことがあったが、生意気盛りの当時の高校生は「何を言ってんだか?」と歯牙にもかけなかった。
つまり覚醒したのは“松本潤”家康だけでなく、筆者も同様だったことを白状しなければならない。
学校教育よりテレビドラマの方が霊験新たかだったと認めざるを得ない。
視聴者層の変化
覚醒は視聴者にもあったようだ。
特定の視聴者層での視聴率を測定しているスイッチメディアのデータに変化が表れている。まず男性陣は年齢層を問わず、軒並み数字を落としている。
典型的な大河とテイストが異なるためか、相容れない男性が少なくなかったようだ。
ところが女性は異なる。
F1(女性20~34歳)とF4(女性65歳以上)で、1~2割数字を伸ばした。若い女性は家康の人間性が深掘りされ、松本潤の魅力が増した点に反応したのだろうか。そして高齢女性は、人間的成長と仏の教えの奥深さに共感したのかも知れない。
特定層の反応も興味深い。
そもそも「歴史好き」は、初回でも以前の大河ドラマより落ちていた。それが2話でさらに下がっている。ところがTVドラマ好き」は、逆に数字を伸ばしている。物語として面白くなって来たと一般の視聴者が増えているのだろう。
さらにインターネット回りの変化。
ヘビーユーザーが数字を落としているのは、NHKプラスなどタイムシフト視聴に回っているのかも知れない。ところがSNSをよく使う人の間では、反対に数字を上げている。
ネット上の口コミが活発になっている以上、2話での総視聴量が落ちていない点とあわせて、3話以降に期待が持てる。
以上が視聴データから見る初回と2話の変化だ。
初回の「王道と覇道」、2話の「厭離穢土欣求浄土」など、歴史的に意味のある言葉が物語の中核に置かれた。それでもラブシーンや絶体絶命など、ドラマチックな演出が奏功して普通のTVドラマ好きを惹きつけている。
あと数話、蘊蓄・教養とわかり易いドラマ性を駆使すれば、視聴者は一見奇抜な『どうする家康』にハマっていくだろう。
これまでにない新しい大河ドラマの定着に期待したい。
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。