世帯視聴率が過去ワースト2でも世帯占有率は断トツだった今回の『紅白』。

視聴率を上げるための努力はどう有効だったのかを検証するシリーズ第2弾は、女性グループの日韓対決を採り上げる。


女性グループ花盛り

今回の『紅白』には、女性グループが6組出演した。
出演順は以下の通り。

<前半>
LE SSERAFIM(初)「FEARLESS -Japanese ver.-」
日向坂46(4回目)「キツネ」
NiziU(3回目)「CLAP CLAP」
IVE(初)「ELEVEN -Japanese ver.-」
<後半>
TWICE(4回目)「Celebrate」
乃木坂46(8回目)「裸足でSummer」

ここまで書いてお気づきの方も少なくないでしょう。
前回の「『紅白』でジャニーズのMVPは…キンプリ・関ジャニ・Snow Man・Kinki Kids?」でとり上げたジャニーズも6組、しかも前半で3組、後半3組とほとんど同じ構成だった。

ちなみに初出場組も似ている。
全部で10組いたが、前半に8組が登場し、後半は2組しかいない。明らかに前半にジャニーズ・女性グループ・初出場組を並べ、若者の視聴率を稼ごうとしている。

後半の21時台でも状況は似ている。
ここに大半を集中させ、22時台以降は中堅や大御所アーティストの時間。中高年視聴者の満足度を上げようという作戦だったのである。

かくして21時台まで、T層(13~19歳)の視聴率は急伸した。
ところが後半22時台以降に失速し、逆に65歳以上が右肩上りだったのである。


魅了の度合い

では視聴者は、どの女性グループに魅了されたのか。
視聴者が番組に飽きてチャンネルを替えたりテレビを消したりの割合を、インテージが測定する流出率データでチェックしてみよう。

『紅白』の全出場者の平均は2%台後半。
つまり40人に1人が15秒ごとに番組から脱落しているが、残念ながら女性グループは平均ゾーンに3組、残る3組は平均以上と芳しくなかった。

視聴者を流出させない女性グループの順位は以下の通りだった。

1位:NiziU   2.52%
2位:乃木坂46 2.61%
3位:TWICE 2.66%
4位:IVE 2.94%
5位:日向坂46 3.18%
6位:LE SSERFIM 3.73%

結果は日本人グループが1・2・5位。韓国人グループが3・4・6位だったので、日韓対決は日本の勝ちのように見える。

ただしトップのNiziUは微妙な存在だ。メンバーこそ日本人だが、日韓合同のグローバルオーディションで選ばれた。所属も韓国の芸能プロダクションだ。つまり韓流風な日本人ガールズグループなのだ。

TWICEも単純ではない。
韓国のグループだが、日本人も入る多国籍軍となっている。日韓対決は表面的には日本がより注目されたように見えるが、内実も考えると明確な差とならない。

さらに最下位のLE SSERFIMにも5人中2人が日本人だ。
日韓と区別する意味が、女性グループではかなり希薄と言わざるを得ない。


馴染みの問題

これら6組の女性グループは、ジャニーズと比べると流出率がかなり高い。

ジャニーズでトップSnow Manの流出率は1%台。
そして4位King & Princeでも 2.19%だったので、女性グループの首位より0.3%以上も脱落者が少なかった。

この差は“馴染み”の問題なのではないだろうか。
日本人だけのジャニーズは、初出場の「なにわ男子」ですらどこかで見聞きしたことがある人が少なくないだろう。ところが韓国の初出場グループは、名前も「LE SSERFIM」「IVE」だ。読み方すらわからない中高年の視聴者が大半だったはずだ。

その傾向は、データにも表れる。
乃木坂46を除くと、他はみな最初の30秒から1分の流出率が高い。19~20時台で両韓国グループは登場している。ところが両者とも、若者の視聴率こそ上昇させているが、65歳以上は急落した。流出者のほとんどは、高齢者だったのである。

ちなみに一瞬流出率が跳ね上がった日向坂46。
高齢者の視聴率は横ばいとなった。孫の運動会での集団お遊戯でも見るように、安心して見ていたのかも知れない。


皆さまのNHKは可能か?

ジャニーズ以上に流出率が高かったガールズグループ。

その決定的要因は“馴染みのあるなし”だろう。
その象徴的な存在が、4位のIVEだ。彼女たちは世界的には凄い存在だ。K-POP第4世代を代表しており、シングル3曲のミュージックビデオ総再生数が5億回を超える。2022年に最も話題となったアーティストと言えよう。

ところがそれは主にネット上の出来事であり、海外も含めた話だ。
ネットに疎く、海外に興味のない日本の中高年には“馴染みのない”存在だったのである。流出者が大量に出たゆえんだ。
音楽の多様化と先鋭化が進む中、全ての人に関心の高いアーティストや曲だけで『紅白』を構成するのは至難の業となってきたと言えよう。

であるならば、若者と高齢者の溝が深まる一方の今、『紅白』には新たな知恵が必要だ。番組全体を通じて注目されたアーティストと、そうでもなかった歌手の差をデータで明らかにしつつ、次世代の『紅白』とは何かを3回目で考える。

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。