世帯視聴率35.3%で、過去最低だった前年より1ポイント増えた今回の『紅白』。

ただしHUT(総世帯視聴率)が去年より大きく減っていたので、占有率は逆に大きく伸ばしていた。その意味ではテレビ離れが進む中で、『紅白』は善戦していたと言える。

ちなみに20年の第71回以降、見続けてもらうための努力を『紅白』はしている。
その工夫を浮かび上がらせるために、各種視聴データを駆使して、出演者と曲の演出をシリーズで検証してみたい。

第1回は、ジャニーズの6組をとり上げる。


ジャニーズは視聴率を押し上げた!?

今回の『紅白』には、ジャニーズ所属が6組出演した。
出演順は以下の通り。

SixTONES(3回目)「Good Luck!」
なにわ男子(初)「初心LOVE(うぶらぶ)」
Snow Man(2回目)「ブラザービート~紅白みんなでシェー!SP~」
King & Prince(5回目)「ichiban」
関ジャニ∞(11回目)「T.W.L」
KinKi Kids(2回目)「25th Anniversary Medley」

6組の見られ方は、スイッチメディア関東地区データで見るとわかりやすい(図1)。

全体のトップバッターはSixTONES。
そもそも番組が始まって数分内は、慌ててチャンネルを合わせる人も少なくないので、視聴率は急伸することが多い。
SixTONESはその流れを壊さず、ロケットスタートさせる役割を果たしていた。かつては番組冒頭で凝った作りをしていたが、直ぐに歌で入る演出は成功だったと言えよう。

全体5番目のなにわ男子はちょっと違った。
視聴率があまり伸びなかったのである。右肩上がり基調の7~8時台にあって、「知らない」という視聴者が多かったようで、ややブレーキとなってしまったようだ。

8時台のSnow Manも右肩上りを促進する役割を果たした。
22年に『silent』や朝ドラ『舞いあがれ!』でブレークした目黒蓮の存在が大きかったようだ。やはり『紅白』は、その年に話題となったネタが強い。

ただし21時台のKing & Princeと22時台の関ジャニ∞とKinKi Kidsは、それほどでもなかった。
後半は数字がフラット気味に推移していたが、ジャニーズの力をもってしても大きく改善するには至らなかった。


魅了の度合い

では視聴者は、どの歌にどれだけ魅了されただろうか。
視聴率とは別のデータで浮かび上がる。インテージは視聴者が番組に飽きてチャンネルを替えたりテレビを消したりした割合を、流出率として測定している(図2)。

『紅白』の全出場者の平均は、2%台後半あたりとなる。つまり40人に1人が15秒ごとに番組から脱落している計算になる。

これと比べると、ジャニーズの大半は平均以下に入っており、視聴者を引き付ける力を持っていることがわかる。
例外は視聴率を急伸させたトップバッターのSixTONESだった。
流出率が4.48%と全体平均と比べて突出して高い。実は彼らの登場は番組開始2分以内で、前の『ニュース7』は見たが『紅白』は見ないという人が冒頭4~5分に流出し続ける影響を受けてしまったようだ。
いわば強烈な逆風による参考記録と言えよう。

では、視聴者を流出させない優れたアーティストは誰か。
歌の間の平均値では、4~1位は以下の通りとなった。

4位:King & Prince 2.19%
3位:関ジャニ∞ 2.17%
2位:KinKi Kids 2.07%
1位:Snow Man 1.91%

「Snow Man、おめでとう!」と言いたいところだが、実はこのデータにも裏がある。
彼らが歌った「ブラザービート~紅白みんなでシェー!SP~」は、司会の大泉洋・橋本環奈・櫻井翔をはじめ、多くの出演者が登場するお祭り騒ぎだった。しかも“みんなでシェー!”がいつ出るのかを引きにしてもいた。純粋に彼らの歌で視聴者を魅了したとは言い切れない。

注目したいのはKinKi Kids。
「25th Anniversary Medley」として2曲歌ったが、1曲目の「硝子の少年」だけなら1.5%ほどと流出率が極端に低い。
やはり少々古くとも、多くの人が知る名曲が強いということが再確認できる。


若年層を惹きつける役割

ここ何年か『紅白』では、ジャニーズが多すぎるという批判がある。しかしデータを精査すると、やはりジャニーズには若年層を惹きつける力がある。

SixTONESは個人全体・T層(男女13~19歳)・F1(女性20~35歳)でいずれも視聴率を急上昇させた。
なにわ男子は、F1は微減だったが、T層を上昇させている。King & Princeも中高年には神通力が効かなかったが、若年層を惹きつけた。そして関ジャニ∞もT層を1%押し上げた。

今回の『紅白』では、「馴染みのない曲ばかり」などの批判があった。
視聴データを見る限り、中高年はさておき若者を惹きつけている以上、ジャニーズの6組がその責任を背負う必要はなさそうだ。

では問題は、韓国アーティストなのか。
坂道グループか、初出場組か。いっぽう40~50代の中堅組は視聴者を魅了したのか。65歳以上の超ベテランも何組かいれば、演歌組も出場していた。
2回目以降で、こうした出演者の評価も行っていきたい。

愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。「次世代メディア研究所」主宰。著作には「放送十五講」(2011年/共著)、「メディアの将来を探る」(2014年/共著)。