新・介護百人一首

枕辺に
置きて眠りし
携帯も
役目終えたり
母旅立ちて

兵庫県頭本信代 64歳)

大分県 吉﨑ゆみ

詞書

私は長年、夫と自分の両親の施設や病院の緊急連絡先になっていました。高齢の親達はいつ何が起こるかわからず、夜も枕元に携帯を置いていました。十年の間に三人が逝き、先日実母が逝って私の役目は終わりました。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

いつ何があってもだいじょうぶなように、枕元に携帯電話を置いておく。連絡がくるのではないか、いつ状況がかわるかわからないのではないかという心の底にあった緊張感は、そのまま、相手を思う気持ち、相手を大切に感じる心根だったのでしょう。見送ってもう枕辺の携帯が必要ないと気づいたときに、ほっとすると同時になんとも言えない寂しさを感じる。ここには、人生の真実があるように思います。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。