新・介護百人一首

ワクチンを
済ませた後の
面会に
「夢の人やな」と
父は言いたり

徳島県庄野悦子 69歳)

詞書

コロナのため、病室の入り口に入れず、二年にわたる面会禁止、その間に私の顔がわからなくなったらしく「よう夢に出てくる人や」と他人のように言う。とても寂しく思うが、食欲もあり、百才まで頑張れと励ましている。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

よく夢に出てくる人だということは、それだけ、想っている
ということ。年を重ねていくと、脳の働きはどうしても衰えていきますが、そのかわりに、他の回路がその代償機能として働いて、すばらしい可能性が芽生えてくることもあります。人は、生きている限り、一日ごとに成長し続ける存在なのです。「夢の人やな」というお父さまの一言の中に、かけがえのない「今」を生きる充実の息吹が感じられます。愛があふれていますね。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。