新・介護百人一首

目も耳も
うつろになりし
九十九才
杖つく音の
乱れて淋し

神奈川県佐藤清一 99歳)

詞書

老人ホームの廊下を杖ついて歩くが、時々音の乱れに淋しさを覚える今日この頃です。

感想コメントをいただきました

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

脳は、人生の始めから終わりまで、音を通して世界を把握します。胎内で聴く母の音に始まり、病床で視覚が衰えたときに残るのも聴覚。音は、ある人の、そして一つの風景の「ほんとうのこと」を運んできてくれるのです。そんな大切な音を通して世界と行き交うその心根が見事に描かれています。長寿はすばらしい。生きていればこそ、さまざまなことを経験できる。どうか、いつまでもお元気でいらしてください。

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。