新・介護百人一首

逝きし母の
あかぎれの指
痛ましく
ワセリン塗りて
ひつぎに納む

千葉県久保田鶴子 82歳)

岐阜県 小坂優歌

詞書

亡くなった母のあかぎれの指にせめてもと泣きながらワセリンをぬってあげました。

感想コメントをいただきました

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

他人の死には手を合わせるが、愛する者は死者に触れる。これからその人の記憶だけとこの世に取り残されてしまう、後悔することがあってももう謝れない、もう新しく何かをしてあげることもできない、もう何も反応してもらえない。せめてもと痛そうな指に自分の手でワセリンを塗る。長く体を酷使してきたことを労る。感謝する。「せめても」というのが愛する人の気持ちだと祖父母をなくした今の私も本当に共感する。

恩蔵絢子(おんぞう・あやこ)

脳科学者。2007年東京工業大学総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(学術博士)。専門は自意識と感情。2015年に同居の母親がアルツハイマー型認知症と診断される。母親の「その人らしさ」は認知症によって本当に変わってしまうのだろうか?という疑問を持ち、生活の中で認知症を脳科学者として分析、2018年に『脳科学者の母が、認知症になる』(河出書房新社)を出版。認知症になっても変わらない「その人」があると結論づける。NHK「クローズアップ現代+」、NHKエデュケーショナル「ハートネットTV」に出演。2021年には、母親に限らず、認知症についてのさまざまな「なぜ?」に対して脳科学的に解説する『なぜ、認知症の人は家に帰りたがるのか』(中央法規。ソーシャルワーカー・永島徹との共著)を出版。現在、金城学院大学、早稲田大学、日本女子大学非常勤講師。