これまでに放送された「素朴なギモン」とその答えを、忘れないように復習しておきましょう。
5本ある手の指のうち、 1本だけ妙に太さが違う指がありますね。そう、親指です。それがなぜか、あなたは知っていますか?「いっせーのせ!」でお答えください。


答え:石を握りしめるため

詳しく教えてくれたのは、霊長類生態学者の島泰三さん。
実は、動物の中で親指がこれほど太いのは、ほぼ人間だけ。しかも、初期の人類には、親指が細い時代もあったと言います。

転機は、約370万年前。森で果実や葉などを食糧としていた人類の祖先たちは、地殻変動の影響によって食べ物が激減したことから、草原へと進出します。

動物の中では、その生態が人間に最も近いとされるチンパンジーだが、親指は、人間のそれとは異なり、細くて短い。

しかし、当時の人類は、狩りの能力が低く、逆に肉食獣から狙われる存在。そんな人類が飢えをしのぐ手段として選んだのが、肉食獣が食べ残した動物の骨と、その中の骨髄を食糧とすることでした。

ところが、それらの骨は非常にかたく、そのまま口に入れて食べることは難しかったのです。
そこで考えだしたのが、草原に無数に存在する石を使って骨をたたき割り、小さく砕いて食べる方法。そのため、人類の手は、石を強く握りしめ、さらに下方に向かって力を込めて振り下ろすのに適した形──つまり、親指だけが太く進化したと考えられるのです。

骨を砕くためには、下に向かって大きくなる形をした石を使うのが効率的。そういう石を力強く握るには、親指が太いほうが安定する。
石を手にする前(左)と後(右)の人類の手の比較。明らかに石を使うようになって親指(の骨)が太くなっていることがわかる。

こうして、栄養価の高い動物の骨髄を食べるようになったことは、人類の脳の成長をうながしました。

骨髄には、脳の発達や機能に関わる脂肪酸が豊富に含まれているため、骨を食べるようになって人類の脳の大きさは倍以上に成長した。

結果、人類は高度な道具を作り出すこ とに成功。約180万年前には、草原で狩りをするようになり、ついに動物の世界を支配するよ うになったというわけです。

(NHKウイークリーステラ 2021年12月3日号より)