ひとつひとつの言葉を
責任を持って紡いでいきたい

2022年4月から放送時間を午後7時30分に移し、リニューアルした「クローズアップ現代」。緊迫するウクライナ情勢、告発が相次ぐ映画界の性暴力などハードなテーマから、桑田佳祐さんへの独占インタビューや日々の暮らしに密接した情報など、カラフルなテーマを独自取材で深掘りし、好調な滑り出しを見せている。
4月からキャスターを務める桑子真帆アナウンサーは、就任にあたりどのような意気込みで番組に臨み、3か月が経った今、どのような思いで日々の放送に向き合っているのだろうか?
(2022年3月25日の番組取材会より)

桑子アナが番組のキャスターに就任して、早3か月。毎回違う取材・制作チームが作成しているため、彼女は「番組の唯一のフォーマット」(制作統括を手がけるNHKプロジェクトセンター・松本卓臣チーフプロデューサーのコメントより)だ。多種多様なテーマが取り上げられる中で、彼女は日々、それぞれの事象の深層に迫るべく奮闘を続けている。

桑子 「クローズアップ現代」は、とにかく幅広いテーマについてお送りしています。今、世の中にはさまざまな情報があふれ、何を信じたらよいのか、自分はどこに向かったらよいのか、見えにくくなっているように感じます。自分のこうに合った番組や情報ばかり入ってくる、そんな時代になっているように思うんですね。

そんなとき、この番組で、“A”という考えだけではなく“B”も“C”も“D”も“E”もあるんだという、多角的な視点をみなさんにお届けすることで、「あ、そうか」と、新しい視点や何か大切なことに気づく場になったらいいなと思いますね。

皆さんと一緒にちょっと立ち止まって考え、喜怒哀楽を共有しながら、少しでもモヤモヤを晴らす時間になったらうれしいと思いながら、精いっぱいお伝えしています。


かつて「クローズアップ現代」を、放送開始時から23年間にわたって担当していた国谷ひろキャスターは、桑子アナにとって憧れの存在だった。自身が番組を担当することにあたっては、どのような心境だったのだろうか。

桑子 私が小学生のころだったのですが、当時も午後7時半に「クローズアップ現代」が始まって、うちの家庭ではそれを毎日のように見ていました。そこでキャスターをされていた国谷さんを見て、子どもながらものすごく衝撃を受けたんですね。この素敵な女性は何なんだろう!?、と。自分もこんな女性になりたいなと、まず思ったんです。

そこから年を重ねる中で国谷さんの何が素敵なんだろうとずっと考えていて、気づいたんです。毎回番組でお呼びするゲストと、じっくり心から向き合っているのが、画面から伝わってくるんですよね。

その姿勢が、人としてすごく大切なことだなと。自分も、人と向き合うときはしっかり真正面から向き合える人間になろうと、そう思わせてくれたんです。

そんな憧れていた方が担当されていた番組を、自分が担うなんて……。「まさか」という思いでしたし、30年続く番組の看板を背負っている重みを感じながら、日々放送に臨んでいます。

(2022年3月25日の番組取材会より)

桑子アナはこれまで報道番組と並行して、こども番組「ワラッチャオ!」のおねえさんをはじめ、「ブラタモリ」「NHK紅白歌合戦」「福山雅治×香川照之の『生きものすごいぜ!』 」「たけしのその時カメラは回っていた」「オリンピック開閉会式」ほか、そうそうたる番組を担当してきた。それらの仕事を通じて得られたものも、おのずと「クロ現」にも生かされていくことだろう。

桑子 そういった番組名を挙げていただくと、確かに大きな番組をこれまで担当させていただいてきたなという思いはありますが、私自身は、毎日毎日それほど意識しないでやってこられたのかな、という感じです。いや、意識しないようにしていたというのが正しいかもしれません。プレッシャーを感じすぎないように、目の前のテーマや仕事にとにかく必死に向き合ってやってきましたし、これからもそこは変えずにやっていきたいと思っています。

さまざまなニュース番組を担当させていただく中で、ずっと一貫していたのは「分からないことは全て分からないと言う」ということ。ときには「そんなことも知らないの?」という反応も、もちろんされます。

でも、私が分からない、分かりくいと感じたということは、きっと同じように感じる人は少なからずいるはずだと思っていて。その見えない“仲間”を信じて、目線を下げるというか、一人でも多くの人に伝わるような放送にしたいという思いがあるんです。

このことは「クロ現」でも大切にして、時には番組スタッフに迷惑をかけることになっても、貫いていきたいなと思っています。

いろいろな番組で、私は本当にパートナーに恵まれてきました。タモリさんやビートたけしさんのようにテレビの第一線で活躍し続けていらっしゃる方々は、その理由が必ずあって。スタッフや出演者との距離感や鋭い観察眼、深くて面白いモノの見方…学ぶことがたくさんありました。

中でも、有馬嘉男キャスター(現NHKヨーロッパ総局副総局長)とコンビを組めた4年間(「ニュースチェック11」と「ニュースウオッチ9」)は、私の大きな財産になっています。有馬さんからの影響はものすごく受けています。

有馬さんの言葉って、まっすぐ届いてくるんですよね。時に鋭く本質を突き、時に寄り添い、時に大切な問いを投げかける…。その言葉たちが生まれていく過程を、私はいつも横で見ることができたわけですが、有馬さんが大切にしていた視点の一つは、「本当に『べき』と言えるのか」ということ。

ある問題を扱うとき、つい分かりやすく、多数派の考えや世の中の正論とされる方に流されてしまいそうになるのを、本当にそうだろうか? といったん立ち止まって、スタッフみんなで深呼吸して考えることを大切にしていたんです。その問題には背景があって、そうならざるを得なかった事情があったのかもしれない。そんなに簡単に「…すべきだ」と断罪してよいのだろうか…。私も、一面的に物事をとらえず、あらゆる想像力を働かせながら、ひとつひとつの言葉を責任を持って紡いでいきたいなと考えています。


世の中の森羅万象について取材班が徹底取材する一方で、桑子アナ自身もスタジオから飛び出し、作家・桐野なつや、映画監督・是枝裕和、ミュージシャン・桑田佳祐にインタビューを行うなど、積極的なアプローチ(桑田佳祐インタビュー時には、桑田の願いで一緒に歌う場面も!)を見せている。さまざまなテーマと向き合う日々についての心境、そして今後さらに深く掘り下げていきたいテーマはあるのだろうか。

桑子 自分の中のテーマというか、大事にしたいものを、この番組を担当する中で見つけていけたらいいなと思っている、というのが正直なところです。これまでニュース番組でさまざまなテーマを扱ってきましたが、せき止めて、じっくり考えて、自分のものにしきれていたかというと、そうではないところがあるような気がしているんです。

時には私が直接インタビューもしながら、ひとつのテーマ、ひとりの人と真正面から向き合って、自分の頭と心を通して伝えていけたらいいなと思っています。

桑子真帆(くわこ・まほ)
神奈川県出身。2010年にNHKに入局し、長野放送局、広島放送局を経て、2015年から東京アナウンス室に勤務。これまでに「ブラタモリ」アシスタントや「ニュースウオッチ9」キャスター、「NHK紅白歌合戦」総合司会など、多くの番組を担当してきた。

▼「クローズアップ現代」ホームページはこちら
https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/R7Y6NGLJ6G/