“アウトドア”が子どもの脳の発達に効果アリ⁉の画像

瀧 靖之

脳科学者。東北大学加齢医学研究所及び東北メディカル・メガバンク機構で、脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。主な著作は『「賢い子」に育てる究極のコツ』や『アウトドア育脳のすすめ』など。

本谷有希子

作家・劇作家。2000年に「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、作・演出を手がける。2009年には『幸せ最高ありがとうマジで!』で岸田國士戯曲賞受賞。小説家としても2015年に『異類婚姻譚』で芥川賞を受賞。近作には、『あなたにオススメの』など。

テーマ「コロナ禍3年目の春、みんなどうしてる?」

コロナ禍3年目に入り、子育てに励むみなさんが悩んでいることや苦難を乗り切るヒント、前向きになった出来事など、リスナーから寄せられたコロナ禍への思いを共有しました。
聞き手:村上里和アンカー

コロナ禍を悲観せず、子どもとコミュニケーションを

おたより✉ 愛知県・30代女性
子どもの行事や保育園での過ごし方について、このままずっと窮屈が続くのかなとモヤモヤしています。4月で年長になった息子ですが、春の親子遠足は3年連続中止。保育参観も中止。運動会や生活発表会も縮小しての開催。お散歩も学年ごと、園庭で遊ぶときですら、学年ごとに場所を分けたり、時間を分けたりと窮屈を感じます。最初は、今我慢すれば日常が戻ってくると希望を持っていましたが、3年目となるとそうも思えません。子どもの貴重な機会がコロナで奪われるのがとても悲しいです。

本谷 本当にそうですよね。一時的なものだと思っていたけど、今は完全に常態化している。子どもにとってはこの状態がノーマルというか、普通の状態になっていると思うので、どういう大人に育つんだろうなと思いますよね。

村上 コロナ禍で子どもたちがお友達と過ごす時間を持てないから、コミュニケーション能力を心配する声も届いています。脳科学的に見ると、子どもたちの発達についてはどのように考えればいいのでしょうか?

 研究の結果が出てくるのはこれからだと思いますが、今考えられることを言うと、例えばマスクをしていると、友達や先生の表情がわかりづらい。相手の表情で感情を認知する共感性や、相手の気持ちを理解して適切な行動をとるという面では、多少影響があると思います。

ただ、子どもたちの脳には、可塑(かそ)性と言って変化する力があるから、今影響あるとは言え、これから少しずつ状況が変われば、取り戻すことも可能です。今のコロナ禍は、自分でコントロールできるものでもないし、なぜできないと考えるとストレスになってしまうので、逆にできることは何かを考えることが大切です。

家庭で子どもとコミュニケーションをとる時間が増えたとなれば、それはとてもすばらしいことだと思います。私も息子と話す機会が増えて、もちろん今は大変だけど決して悪いことばかりじゃなく、いいこともあるなと思いながら、今できることを楽しくやることが大事だと思います。

村上 今の状況を悲観するのではなく、できることの中で楽しいことを見つけていく、楽しいことを考えるほうが脳の発達にもいいのでしょうか?

 そのとおりです。感情と記憶は密接に関わっていると言われているので、楽しい、ワクワクするという感情は、モノを覚えるなど脳にもすごくいいんです。

本谷 こういう考え方はどうなのかわからないんですけど、うちの息子は去年生まれたので、コロナ前を知らないことになるわけじゃないですか。だから、新人類が生まれたと思って、これからどう成長するんだろうと、楽しみなところもあります。マスクも体の一部と思っているかもしれないし、彼らの目には今の世界や社会がどうやって見えているんだろうと考えてしまいますね。


子どもの脳の発達に適した親の接し方とタイミングとは?

村上 脳も段階を踏んで発達していくということを以前伺いましたが、改めて子どもの脳の発達について教えていただけますでしょうか。

 子どもたちの脳は、生まれてからすべての領域がいっぺんに発達するわけではありません。ある領域が生まれてから、早いタイミングで発達のピークが来たり、別の領域では思春期になって発達のピークが来たりということが言われております。

その時間差も合理的で、生まれてすぐ発達する領域というのは、感覚にかかわる領域です。その感覚に対してたくさん刺激を与えてあげることがすごく大事でして。まさに親子の愛着形成。赤ちゃんをギュッと抱きしめて、目を見てたくさん笑顔で語りかけてあげるなど、五感に訴えるようなことが重要になります。ですので、コロナ禍でもいかに愛着形成ができるかですね。抱きしめてぬくもりを感じさせてあげる、語りかけてあげる。

そして、赤ちゃんが成長して生後半年から2歳ぐらいにかけては、愛着だけじゃなくて、母国語、多くは日本語だと思いますけれども、母国語の獲得に大事な時期が来ます。そこでは、絵本の読み聞かせが最高にいいですね。それこそ読み聞かせするときは膝の上に乗せて、ぬくもりを感じさせながら行うといいと思います。

そして、子どもたちが言葉を覚えるときは、言葉の音だけではなくて、お父さん、お母さんが話す表情も含めて覚えると言われています。絵本を読みながら表情を見せるのは難しいかもしれないので、声のトーンを変えるなどもいいですね。そうやって、言葉も含めていろいろな情報を与えていくというのは、コロナ禍で家にいる時間が多くなってしまった時期だからこそ、時間をかけてできることかもしれないですね。

本谷 小さいうちは言葉がわからないから絵本を読んでもなあと思っていたんですけど、違うんですね。

 どんどん吸収して理解していきます。その後、少し遅れてアウトプット、しゃべるようになると言われているんです。与える情報も多いほうがいいと思います。そして、2歳、3歳になると、自分と外の世界、自分と他者というのが区別できるようになるので、「なぜこれはこうなるのか?」など知的好奇心をたくさん伸ばしてあげることが大事になります。

そのためには、例えば図鑑をたくさん見せてあげて、魚に興味を持ったら水族館に連れていってあげたり、魚釣りに行ったりするのもいいと思います。本の世界と現実の世界がつながっているということを見せてあげるのがすごくいいですね。

そのあと、3歳から5歳になったら、運動や楽器演奏などをするようになる。この時期は運動への発達がすごくいいですからね。さらに8歳から10歳になれば、第二言語、いわゆる英語などを覚える時期として、耳で聞かせてあげる、リスニングをやっているととても覚えがいいということが言われています。

本谷 私も1人目のときは、絵本の読み聞かせをすごく頑張ったんですよね。でも、2人目になるとまあいいかとなっちゃって、全然読んであげませんでした。ただ、お姉ちゃんには9歳まで読んであげようと決めているので、今も読んでいるんですけど、下の子のほうこそ頑張らないといけないですね。でも、お姉ちゃんが弟に絵本を読んであげたりしていますね。

 お姉ちゃんが読んであげるのはすばらしいですね。私たち人間が成長していくタイミングと脳が発達していくタイミングは一致していると言いますか、その時期に適切にさせてあげると、より効率よく成長することができる。ただし、脳には可塑性があるので、この時期を逃がしちゃダメというわけではありません。いちばん効率がよいのは、この時期というだけですので。
 

苦しいコロナ禍でも気持ちを元気にする方法

おたより✉ 愛知県・40代女性
小学校5年生と3年生の娘と3人暮らしです。小学校から自宅待機の要請があると自宅にこもりきり、私は子どもたちを留守番させて仕事に行ったり、半日休みを取ったりして対応しています。お互いにイライラして気分転換できない状況に陥ることもしばしば。まだ先が見えない中、気持ちを元気にする方法がわからないです。

おたより✉ 宮崎県・30代女性
昨年11月に初めて出産しましたが、地域の子育て支援サービスもコロナの影響で開いておらず、親は離れた地域で暮らしており、夫も仕事が忙しく、誰にも頼れずに5か月を迎えました。気分転換におでかけしたくても娘を預けられる相手はおらず、マスクもつけられない5か月の娘を連れての人混みは怖くて出かけられません。皆さん、コロナ禍の育児でどのような気分転換を行っているのか教えてほしいです。

本谷 宮崎県のママに関しては、ポイントは夫じゃないですか。コロナ関係なく、旦那さんだけ働いていらっしゃるのでしょうがない部分はあると思いますけど、夫婦でなんとか乗り越えていかなければならない危機ですからね。

 私が申し上げられる資格はないんですが、少なくとも育児をしている方と、外で仕事をメインでしている方で、役割が分かれていると思います。私自身は仕事をする側ですけど、外に出て仕事をしているというのは、実は気分転換にもなっているんですよね。子どもと24時間、常に接しているというのは幸せなことですけど、その分ストレスも大きいというのをはたから見てもとても感じています。これは自戒も込めて、外に出ている方、多くの場合は旦那さんだと思いますが、もっと頑張らなければと思ってしまいますね。

本谷 私の家では、先月から毎週水曜日は「父の日」と決めたんですね。この日は、夜は私が自由にしていいということになっています。ですから、夜6時以降、芝居を見に行ったり、映画を見に行ったり、お茶したり、好きなことができる。この1日があるだけでずいぶん違うので、曜日を決めて自分の時間を作るというのは、こんなにもすばらしい制度だったんだと思いましたね。

村上 これは本谷さんと旦那さん、どちらからの提案だったのですか?

本谷 私からです。これはママ友に教えてもらったんです。それまでは考えもしなかったんですけど、試しにやってみたら本当によくて。多くのママにも、パパになんとかお願いして、自由な夜を過ごせる1日を確保してもらうとずいぶん違うと思いますよ。

村上 そうですよね。ちょっと友達に会ったり、お茶したり、街の中を歩くだけでも気持ちが違いますよね。元気になる方法として、脳科学的に気持ちを切り替える方法はありますか?

 平時ですといろいろなことが考えられると思うんですけど、コロナ禍でできることとしては、「苦しいのは自分一人じゃないと思うこと」ですね。実際今の状況はとても苦しいですが、自分だけだと思うともっと苦しくなってしまう。だから、苦しいと感じることは自然なことで、自分一人じゃないんだと思うことが大事。そうでないと、どんどん苦しくなってしまうので、そういう気持ちを持てば、前向きになれる手がかりにつながっていくと思います。
 

“アウトドア”が脳の発達に与える効果とは?

村上 コロナ禍でいろいろ制限がかかる中で、子どものためにどんなふうに過ごしたらいいのか悩まれている方もいらっしゃると思います。実際、瀧さんはアウトドアを推進されていますね。

 はい。そもそも今は大変な状況だから子どものためにと言っても、大人だって大変なので、大人がどうやって楽しんだらいいのかなと考えたうえで、脳にいいことと考えると、“アウトドア”はすごくおすすめだと思います。

子どもたちの脳の発達には、運動したり知的好奇心を伸ばしたりすることがとても重要です。アウトドアの場合、自然というのはテレビゲームとは違って、人が作ったものではないから、例えば同じ場所に行っても、天気が違ったり、季節が違ったり、出会う動物や昆虫もいろいろ変わってきますよね。

この無限にある自然の奥深さを感じられるのが、アウトドアです。日々大人も疲れているので、子どもたちと一緒に開放的な気持ちで外に行くというのが、とてもすばらしいことだと思います。いっそのこと、子どものためにと考えるよりも、大人がいちばん楽しんでいいと思います。それを子どもたちがまねすることで、いろいろな能力を獲得するわけですから。

本谷 大人も子どもも楽しめるものとしては、アウトドアがちょうどいいんですかね。

村上 アウトドアというと、テントとかキャンプ道具などを準備する必要があると思いがちですが、近くの自然公園に行くのでもいいんですよね。

 そうです。アウトドアと聞いてハードルを上げて考える必要はなくて。ちょっと近くの公園に行くだけでも、いろいろな蝶が飛んでいたり、花が咲いていたりしますし、それをスマホで撮るだけでもいいんです。そして、家に帰って写真に撮った昆虫や植物を、子どもと一緒に図鑑で調べるとなればすばらしいですね。

本谷 虫かごとアミを持って出かけるのもいいですよね。そして、自分で図鑑を作ってみるのもいいなと思いました。

 そうですね。公園にいる昆虫や咲いている花が何なのかを、親が知らなくてもいいんです。一緒に図鑑を見ながら「この虫って、これかな」と、コミュニケーションになるんですよね。子どもにとっては、この会話がすごく大事で。将来的にコミュニケーションスキルがあれば、学業成績や仕事などいろいろなところに結びついてきますが、ではどうやってスキルを身につけるとなると、“豊かな会話”なんです。

村上 子どもって、「これはどうしてなの? あれはどうしてなの?」といろいろ聞いてくる時期があって、親だからちゃんと答えなくちゃと思うんだけど、わからないでもいいんですね。

 そうですね。「一緒に調べてみようか」と答えればいいんですよ。

村上 自然の奥深さで脳も発達するという言葉がありましたが、子どもの脳の発達にアウトドア、自然というのはどのようにいいのでしょうか?

 まず自然の中を歩いたり、登ったりしますので、運動という観点からもいいです。そして、さきほどお話したように、出会う動植物や昆虫もさまざまなので、自然の奥深さというのも無限にあります。そして、そこに親子の豊かな会話があることがすごく大事です。「こんなのいるね」「この花きれいだね」とか、「もう疲れたね」「ちょっと休もうか」とか。こういうコミュニケーションが、脳の発達にはすごくいいんですよ。ですから、運動、好奇心、コミュニケーション、交友関係が、アウトドアによって豊かに広がりますので、いいことしかないですね。

本谷 私は、週末になると外に出たくなるので、子どもと一緒に出かけることもあります。子どもがロープ好きで、ロープ1本あるといろいろ遊んでいますね。木に結んだり、ひっぱったり、ズルズルものをつなげたり、1本のロープで楽しめるから、万能だなあと思って見ていますよ。

 子どもって本当にクリエイティビティですよね。大人より発想が柔軟というか。

村上 ゲストのお2人から最後にメッセージをお願いします。

本谷 つくづく子育てとコロナって相性が悪いんだなと思いました。組み合わせてはいけないものなんだなと。私は「子育ては一人では無理だ」と思っているのですが、今はなかなか人とつながれません。でも、コロナ禍を乗り越えたら、この先は大概のことを乗り越えられる気がしますね。「いちばんしんどい時期を乗り越えたんだから大丈夫」って、未来で思えるといいですよね。

 世界中の人が大変な思いをしているので、自分だけが苦しいのではなく、みんなも苦しいんです。でも、世の中の全てが悪いことだけではなく、いいことだけでもなく、必ずいいこと悪いことがあるので、大変な中でもいいことを増やしていけるように乗り越えたいですね。例えば、子どもと一緒にいる時間が増えたとか、新しい趣味を作る時間ができたとかあると思うんですよね。そういういいところを見つけて、楽しみながら、生きていくことがいちばんなのかなと思います。

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