土曜ドラマ「17才の帝国」
毎週土曜 総合 午後10:00ほか
「NHKプラス」で1週間見逃し配信中!

第3回「夢見る街」5/21(土)放送
真木(神尾楓珠ふうじゅ)の改革で、AI化による職業の合理化が進む。サチ(山田杏奈)の母で中学教師のタエ(西田尚美)もその対象となる。不要なものは切り捨てる、その政策に、住民の不満が噴出する。真木の支持率は低下し、総理罷免ラインの30%に近づく。そんな中、母のことで真木への不信感を抱いていたサチは、平(星野源)とともに真木のある秘密を知る。それは、鷲田(柄本明)政権を揺るがしかねない衝撃的な事実であった。

気がつかなかった――。
サチ ≒ ユキ/スノウだったなんて。
髪型と声が違ったので、山田杏奈さんが二役だとさえ気がつかなかった……。
(ユキがずっと目を閉じていたのは、それを悟られないため? ちなみにユキの声は、ドラマの主題歌を歌う「羊文学」の塩塚モエカさんが担当しているそう)

ドラマの中盤で、サチが真木に「私はユキさんの代わりなんだね!」と問い詰めるシーンがあって、なんてステレオタイプな高校生の恋バナなんだとちょっと鼻白んだりもしたけれど、それが、こんな形でつながってくるとは! おみそれしました。

第3回は、まさに起承転結の「転」にあたる回だった。
全5回だから起承転転結になるかもしれないが、そこは望むところ。
新たな展開がますます楽しみになってきた。

真木が進めるウーアの行政改革は、ついに市の職員の削減にまで踏み込んだ。当然ながら、支持率は急降下。AIソロンが総理を罷免できる30パーセント寸前になる。前市長の保坂(田中泯)や商工会会頭だった佐伯(岩松了)は、陰でほくそ笑んでいる。
「君は、あの17才を切るんだ!」
ウーアの環境開発大臣・鷲田照(染谷将太)は保坂からこう言われるが、しゅんじゅんしている。

今回は、鷲田家3代の確執と親子の情にクローズアップした回でもあった。
日本の内閣総理大臣である照の祖父・継明の、7年前の不正献金疑惑も明らかに。このスキャンダルが原因で、総理の第一秘書・白井(高橋洋)は何も語らぬまま一家心中。

そのとき一緒に亡くなった10才の一人娘が、白井雪(ユキ)。
唯一の友であり淡い恋心を抱いていた雪を失い、悲しみのどん底に落ちた真木が、のちに学んだプログラミングを駆使して、仮想現実の中で復活させた雪こそ「ユキ/スノウ」なのだ。

AIと若者がつくる“理想”の世界に、ときどき顔を現す“現実”という名の異物。
この居心地の悪さが、ストーリーに緊迫感とリアリティーを与えるんだよなあ。

しかし、「7年前に死んだ10才のユキ」というキーワードだけで、鷲田総理と真木をつなぐ糸を見いだすなんて、平さんは有能すぎやしませんか! 平さんこそ、AIではないのかしら。

星野源さん演じるエリート政治家・平清志。

それに、17才に成長させたユキとサチがうりふたつという奇跡的な偶然。
この偶然が、物語の今後の展開に大きく関わってくるような気がするのだが。

一方、総理の第二秘書だった照の父・光(岡部たかし)は、継明のスキャンダルをきっかけに政界を離れ、故郷・青波市に戻っている。青波市は、まさに実験都市ウーアが置かれている街だ。久しぶりに父を訪ねる照。祖父の後継者となった照にとって、父は少し遠い存在に。ウーアに対してアドバイスを求める息子に、父は言う。

あの子(真木)が夢見るウーアは多分、まだ誰にも見えない……。お前にとっていい機会だ。鷲田総理から離れた場所で、考えて悩んで。自分が決めた人生なら人生に振り回されても耐えていける。

祖父に人生を振り回された父の言葉を、照はどう受け止めたのか。
しかし、こじらせ男子を演じさせると、染谷さんの右に出るものはいないなあ。

これから照は、真木にとって敵となるか味方となるか。見逃せない。

ともあれ、鷲田総理が真実を知れば、真木をそのままにはしないだろう。
何せ彼は、真木にとって自分の大切な人を“殺した”、憎き敵なのだ。
そして、真木にかつての理想を追っていた自分を投影し始めている平は、それにどう対していくのか。

劇中で幾度となく語られている問い。
「どうしてソロンは、真木を選んだのか――」
誰もまだ明確な答えには至っていない。でもAIの下した決定には、なにか根拠だった理由が隠されているはず。ソロンの大いなる意志に真木が操られていくのか、それとも真木は、最後までソロンのマスター(主人)であり続けられるのか。

第4回「理想の世界」は5/28(土)総合  午後10時から!
クライマックスは目前⁉︎


(蛇足)
市の職員の削減によって、サチの母・タエが教師を辞めることになった。一方で父・正樹(杉本哲太)の新しい仕事をAIが見つけてくれたようだ。さすがAIはそんたくしないんだな。小気味よいほど。

ただ、正樹は裏で何か悪いことをやっているのではないか?
そんな心配をしてしまうのは、杉本さんが演じていた、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の源行家のうさんくささを思い出すから(笑)。

サチの父・正樹を演じる杉本哲太さん。

杉本さん、それだけ強烈な印象を残したということで。ゴメンなさい。

一方、総理補佐官のサチがその立場を利用して、母が教師を続けられるよう、真木の元へ直談判に行こうとするのは、いただけない。その既得権益の維持こそが、古い政治の悪習なのに。
もしも、ソロンが合理的な理由のためにユキ/スノウを消去しようと(殺そうと)したら、真木はどうするだろうか? 彼は、その自己矛盾を乗り越えられるだろうか。

今回は照の父が登場して、照の人物像にさらに奥行きが出たように、財務経済大臣の雑賀すぐり(河合優実)や、厚生文化大臣の林完(望月歩)をもっと深掘りしてほしい……。個人的な希望です。
やはり、全5回は短いなあ。