8月下旬に放送予定のNHKスペシャルドラマ「大阪激流伝」の制作開始が発表されました。

舞台は、万博の開催で熱い視線が注がれている大阪。そんな大阪の戦後の歩みが、まるで地層のように積み重なった場所があります。それは、今や超高層ビルが林立する大阪城公園周辺の一帯。かつて東洋随一の軍事工場「陸軍大阪砲兵工廠こうしょう」があった場所です。日清戦争以降、大型兵器の製造を担っていた大阪砲兵工廠は、太平洋戦争終戦の前夜に米軍の空襲で壊滅しました。しかし、そこで働いていた工員や、工廠の下請けをしてきた町工場の人々の活躍によって、大阪の戦後復興は支えられてきたとも言えます。

番組では、工廠跡地の戦後史や町工場への綿密な取材をもとに、戦中に砲兵工廠で働いていたある町工場一家の戦後の軌跡をドラマ化。そこにバイタリティあふれるタフな大阪の人々のドキュメントも織り混ぜていきます。在日コリアンをはじめ、多様なルーツや異なった価値観が共存し、時にぶつかりあうことから生まれていった街の熱気と、大阪の知られざる横顔を描き出します。
ドラマの主人公を務めるのは、俳優の堤真一さんです。


【あらすじ】
戦後、焼け跡の広がる大阪。そこに拾い集めた鉄くずから、あっという間に鍋釜も三輪車も作ってしまう男がいた。砲兵工廠で金属加工のワザを磨いてきた田口留蔵とめぞう(堤真一)。3人の息子のうちふたりは戦地から帰らず、末っ子は終戦前日の空襲で失った。喪失感を振り払うかのように、目の前の仕事に打ち込む留蔵。戦後の混乱で大企業がまだ稼働再開できない中、留蔵は妻と二人、掘っ立て小屋から「田口鐵工所」をスタートさせる。そんな中、奇跡的に復員して跡を継いだ雅征(次男)は、家族のために朝鮮戦争で使う兵器を作るという苦渋の決断をする。そして、大阪万博開催が迫る1969年。雅征の長女・ミチコは、大学の仲間とともに、戦争と平和の矛盾をめぐって葛藤する。
親子3代のファミリーヒストリーから、ある大阪人たちの破壊と再生の80年をたどる。

【作・演出担当/佐野達也ディレクターのコメント】

堤真一さんを主人公にお迎えしての、大阪の物語。役者全員が関西出身。エセ大阪弁に厳しい大阪人を、きっとうならせるはずの大阪の物語。
大阪に何度も足を運び、戦後の大阪について学び……。大阪の町工場の玄関をたたいて油まみれになりながら機械に触れ……。ようやく、決定稿に至りました。

今回のドラマでは、「大阪城」が語り部をつとめます。ちょっと風変わりな手法ですが、その「大阪城」の声に、どんな“気風”を込めるか──。悩んでいたとき、取材中に出会った東大阪の町工場のおっちゃんの言葉が、ズドンと腹に落ちました。「大阪城」が語ると、こんな感じ──。

「江戸時代の大阪の人口は40万人ほど。そのうち武士の数は、わずか2千人足らずやったらしい。これは、ごっつい城のある町としては、例外中の例外に少ない。大阪の街を創ったんは民衆や──なんて言うたら、なんやカッコよぉ聞こえるけど、とにかく大阪人は伝統的に“権力”ちゅうもんに対して、ナメてるところがありますねん」。

──ようわかるわぁ〜、と感心したけど、あとで調べたら、これ、司馬遼太郎の言葉をまねたもの。
それをおっちゃんは、さも自分の血肉から生まれた言葉のようにドヤ顔。まあまあ、細かいこと気にすんな。こういうしたたかさも含めて「大阪やなぁ」と、思いました。

【プロフィール】
1974年生まれ。京都府出身。「新日本風土記(NHK)」や「大江戸炎上(ドキュメンタリードラマ,NHK)」などで、ギャラクシー賞やATP賞を受賞。ドラマからドキュメンタリーまで、さまざまなジャンルでテレビ制作に携わってきた。丶丶(てんてん)所属。

NHKスペシャル ドラマ「大阪激流伝」(1話完結)

8月下旬放送予定

作・演出:佐野達也(丶丶)
出演:堤真一 ほか
制作統括:太田宏一(NHKエンタープライズ)、樋口俊一(NHK)
プロデューサー:伊藤純