離婚によって、心の支えを失った男。彼が働きはじめたレストランのシェフもまた、心に傷を負っていた。そんな㆓人がたどりついたのは、料理……。表題作のほか「あさぎり」を収録。

本作には、「うつくしい羽」「あさぎり」の2編が収録されています。共通するのは、著者の出身地・静岡県御殿場市が舞台であることと、食に関する話だということ。でも、2つはまったくタイプが異なる作品です。

表題作の主人公は、離婚し仕事もなくした34歳の男・芹沢。心がぼろぼろのまま祖母の家に転がり込むのですが、祖母が町のフレンチレストランでの仕事を見つけてきます。最初はいやいや、でも皿洗いからフロア係と忙しく働くようになります。店内の描写がすばらしくて、スタッフがどのように働いているのか、そして料理の作り方も細かく丁寧に書かれています。

店のオーナーシェフ・岩田は情にあつい男で、いつしか2人は毎晩酒を酌み交わす仲に。若いころにフランスで修業し、東京の四谷で伝説的なレストランを開いていたことなど、岩田の過去も次第にわかってきます。

そしてシーズンオフ。レストランは長めの休暇に入り、岩田が腹部大動脈りゅうの手術で入院することに。そんな折、芹沢は岩田から、自分の代わりにある物を届けにフランスに行ってほしいと頼まれるんです。

遺言めいた願いごとをされた芹沢はフランスに向かいますが、ここで私は嫌な展開になるんじゃないかとひやひや。詳細は控えますが、私の予想ははずれ! 希望に満ちたハッピーエンドが待っています。ぜひ皆さんも、ご自身で結末を体験してください。

(NHKウイークリーステラ 2021年4月2日号より)

北海道出身。書評家・フリーライターとして活躍。近著に『私は本屋が好きでした』(太郎次郎社エディタス)。