「あんぱん」の主人公・のぶ(今田美桜)の幼なじみであり、尋常小学校、高等女学校、女子師範学校と同じ道を歩んできた小川うさ子。女子師範学校に入学した当時のうさ子は、「もう帰りたい」と弱音を吐いていたが、黒井先生の教えを受け、徐々に成長していく。うさ子の表面だけではとらえられない人物像、のぶとの関係、黒井を演じる瀧内公美への思いなど、うさ子を演じる志田彩良に話を聞いた。
今田さんとお芝居をしながら作っていった、のぶとうさ子の関係性

――のぶとの関係については、どう感じていますか?
意外と、2人ともおっちょこちょいなところがあるのかも(笑)。2人が揃っていると「なんだかいいな。この2人、可愛いな」と。思わず「頑張れ」って、応援したくなるような2人になれたらいいですね。
――おっちょこちょいとは、例えばどんなところですか?
女子師範学校の寮に入ってからの、先輩たちとのシーンは印象的でした。自分たちがどうしていいのかわからなくて、2人で棒立ちしているようなところは、すごくうさ子とのぶちゃんぽいのかなって思いました。

――のぶ役の今田美桜さんとのお芝居ではどんなことを意識していますか?
今田さんは、いつも優しく接してくれて、たくさん話しかけてくださるので、一緒にお芝居をしながら、うさ子とのぶの関係性を少しずつ作っていけたかなと思います。薙刀の練習中でも、今田さんがどんどん上手になっている姿を見て、私自身も負けないように頑張らなきゃ、という気持ちになりました。だって、うさ子はのぶちゃんに(薙刀の仕合で)勝たなくちゃいけないので(笑)。
うさ子は流されているのではなく、自分の意思を持って日々を過ごしている

――うさ子を演じている中で、彼女の人物像をどのように捉えていますか?
ちょっと繊細で、人に流されやすい気の弱い女の子なのかなと思っていたんです。けれども、物語が進むうちに彼女が周囲の人たちに影響されて、すごく強くなっていく姿から「実は、こんなにかっこいい女の子だったんだ」ということがわかり、知れば知るほど、魅力的な女の子だなと思っています。
――女子師範学校に入学してからのうさ子の変化については、どういうふうに感じましたか?
実際に薙刀の練習をする中で、私自身も最初は相手の攻撃にビビってしまって、薙刀指導の先生たちからも「目をつぶらないで!」とよく言われていたんです(笑)。練習を進めていくうちに少しずつ自信がついていき、「あ、薙刀って楽しいな」と思えるようになってきました。きっとうさ子も、そういう気持ちを通して自分に自信が持てて、だんだん強くなっていったのかなと感じました。
――うさ子の「ここが素敵だな」と思うところは?
1回くじけても、ちゃんと立ち上がるところですね。どんなに泣いて「もう嫌だ、帰りたい」と思っても、そこから立ち上がって再び頑張るところが、すごくいいなって思います。のぶちゃんが実家に帰っている間も学校に残って薙刀の稽古をしていたし、陰ながらちゃんと努力を惜しまないところがかっこいいですね。

――ご自身で気に入っているシーンは?
薙刀の仕合でも、初めは弱くて、勝てなくて、悔しくて泣いてたうさ子が、のぶちゃんと戦って「うさ子ちゃん、強くなったね」と言われるシーンは、うさ子の努力が報われた瞬間だなぁと思って、そのシーンは大好きです。
黒井先生は、カメラが回っていないところでは……

――うさ子が最も影響を受けたのは女子師範学校の黒井先生(瀧内公美)だと思いますが、最初は黒井先生から「ボウフラより弱い」と言われていました。
そうですね。ひどいですよね(笑)。
――それでも負けずに、食らいついていて。
その黒井先生の一言一言によって、うさ子はどんどん成長していけたんだろうなと思います。そう考えてみると、逆に愛のある言葉だったんでしょうね。そして何よりも黒井先生自身の凛とした姿を見て、かっこいいと感じたんだと思います。

――黒井先生を演じている瀧内さんの印象は?
瀧内さんはすごく明るい方で、黒井先生とは真逆なんですよ。なので、ボウフラと言われるシーンを撮ったときも、その直前まで瀧内さんが明るくケラケラと笑っていらしたので、その姿に救われましたね。それが本番になると、一気に怖い黒井先生に変化するので、こっちも本当にビクッとするくらいでした。その切り替えがプロフェッショナルで、本当にかっこいいんですよ。普段はすごく柔らかい雰囲気で、現場も和ませてくださる優しい方です。
――視聴者の皆さんは「黒井先生、怖い!」と感じていると思うのですが。
裏では和気あいあいという(笑)。黒井先生とのギャップが素敵で、現場が明るくなりますね。私も結構笑い上戸なので、つられて笑いそうになってしまうんですけれど、うさ子が泣いてしまうシーンのとき、「今笑ったら、絶対泣けなくなる」と思ったので、頑張って本番直前まで黒井先生を見ないようにしていました(笑)。
オーディションには落ちたけれど、うさ子として呼んでいただけました

――今回が朝ドラ初出演ということですが、出演が決まったときの気持ちを教えてください。
私は「あんぱん」のヒロインオーディションを受けていて、そこで落選したんです。なので、すごく悔しい気持ちを抱えていました。作品自体も大好きなやなせたかしさんをモデルにした話で「絶対に出たい!」と思っていたのですが、落ちてしまったから本当に悔しくて……。
落選の知らせが来た日のことはよく覚えていて、その日、私はNHKホールで「大奥」のファンミーティングに参加していたんです。本番の直前に、どうしても結果を知りたかったので、マネージャーにお願いをして、結果を聞きました。それで、落ちたことを知り、その場で大号泣して。「大奥」でお世話になったプロデューサーに「どうしたの?」と聞かれて、「……『あんぱん』落ちました。でも、いつか“朝ドラ”に出られるように頑張ります」とお答えしたことは鮮明に覚えています。それが違った形で、うさ子として呼んでいただけたので、心からうれしく思いました。
――やなせたかしさんが描いたアンパンマンにも「ウサこ」というキャラクターが出てきますが、アンパンマンに対しての思い出は?
アンパンマンは、高校生のときにすごく好きで、グッズを集めたり、学校のカバンにアンパンマンのキーホルダーをつけたりしていました。しかも当時すごく流行っていて、友達みんながドキンちゃんのポーチみたいなものをぶら下げていたのを覚えています。なので、アンパンマンというと、その高校時代が思い浮かびます。
改めて考えると、アンパンマンは本当に偉大だなと思いますね。小さい子みんなが一度は通る道じゃないですか。そこまで愛される魅力ってすごいなと。自分の顔を食べさせたら自分は弱ってしまうのに、自分を犠牲にしても相手を助けようとして行動に移すところが、すごく素敵な話ですよね。
――アンパンマンに親しんでこられたとしたら、やっぱり「あんぱん」に関われたことはうれしい?
本当にうれしいです。しかも、私が飼っている犬が「うさ」という名前なんです。名前は「うさ」なんですけど、いつも「うさ子、うさ子」と犬に呼びかけていたので、「あんぱん」での役名を聞いたときに、本当にびっくりしました。撮影現場で自分が「うさ子」と呼ばれていることもすごくうれしくて、名前にもご縁を感じています。